『筋注』について詳しく解説していただきました
2010.2.11
先週土曜の中京1Rで、ダイヤモンドイエロが未勝利戦を勝ちまして、早くも尾関厩舎の4勝目を挙げることができました。中舘騎手の通算1600勝目というメモリアルでもあり、いつもよりもご存じだった方も多いかもしれませんね。
2.2倍という単勝オッズに、人気になり過ぎかなぁという思いもありましたが、チャンスだという思いで見ていました。
実は、そのダイヤモンドイエロは、騎手から助手へと転身した矢原さんが、付きっ切りで攻め馬をしてきたのです。
普通は、ウチの厩舎では、矢原さんと二口さん、そして僕の3人で状況に応じて乗る馬を換えるのですが、この馬だけは違うため、どのような馬なのかよく分からないのですよね(苦笑)。
でも、勝った瞬間は、矢原さんの努力が報われた瞬間でもあったわけで、本当に良かったと思いました。
ということで、今週は山嵜(やまざき)獣医との対談の4回目になります。どうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]関節など骨の疾患に効果があるとされる注射が何種類かありますよね。確かに高価なのですが、絶大なる効果が期待できる可能性があるわけですよ。そこで、そのタイミングで、注射を打つことで得られる可能性があると(馬主さんに)説明すると、元西塚厩舎の馬主さんたちはゴーサインが出ました。また、それらの種類の薬は、よく3回をワンクールとされていますが、使用感としては3回打たなくても効果が得られるように思うのです。
[山嵜将彦獣医師(以下、山)]個人的には、効果があれば1回でも良いと思います。
[西]症状が改善したら、摂取させ続けることはないですよね。
[山]慢性化している、あるいはその可能性がある関節の疾患を抱えているとか、骨膜炎に悩まされているとか、あるいは骨折歴があるという馬たちには、継続的に投与することをお勧めします。そうではなくても、歩様に硬さが感じられる時でも効果が得られるケースがあるのです。
[西]そうですよね。異様なほどまでに、効果が得られるケースがあるんですよね。薬以外の効果というのもあるのかもしれませんが、とにかく目覚ましいほどの改善が確認されるケースが間違いなくあります。
[山]効果は馬にもよりますし、ケースにもよりますが、効果が得られる時には効いているという感覚を覚えます。まあ、それでも、口で症状を言ってくれるわけではないですから、難しい。
[西]『ちょっと、膝が痛い』とは言ってくれませんからね。
[山]触診だけでは探れない部分というのもあるのだろうと思いますが、触らなければ余計に探れないのもまた事実ですから。触っても特定できず、触診できない部分なのかと注射を打つことで効果が確認できるケースもありますから、本当に難しい。
[西]極端な言い方をすれば、1本1万円を3回注射すると3万円。3万円で馬が良くなってくれる可能性が高まる。それを安いと思うか、高いと思うかでしょう。でも、正直に言えば、携わっている立場としては、良くなるのなら、やりたいと思う。
[山]その気持ちは同じだよね。
[西]ブッチャけちゃいますけど、年末年始の預託料が高いと言われたことは数知れずありますが、注射が高いと言われたことは一度もありませんでした(笑)。
[山]そうですか。
[西]そうです。年末年始はボーナスと休日買い上げで最低でも10万円以上高くなるんですよ。いまは、いちおう自由化ということで、ボーナスや休日買い上げの分を通年を通して請求している厩舎もありますが、元西塚厩舎はそうじゃなかったので、あの時期はよく高いと言われました。いやぁ、でも、効果があって、しかもより即効性が期待できるのであるなら、なおさら打ちたいと思いますよ。実際、ここで一発打ったら効果があるだろうなぁと思うことってありますか?
[山]ありますよ。ただ、100%効果があるとは言い切れませんからね。
[西]極端な言い方をすれば、『打ったら勝てるのか』ということですよね。そういうことじゃないですからね。
[山]100%とは言い切れませんので、本当に難しい部分ですよ。
[西]基本的に良くなるなら、積極的に治療する。そして、注射など、薬の投与は完治したら止めていいと思うんですよ。あといま、いわゆる『筋注』と笹針を嫌う風潮が強くなってきていませんか?
[山]そういう傾向は、確かに強くなってきているという感触は受けます。
[西]なんでなのでしょうね(笑)。
[山]個人的には、同じような感情を抱きますよ。
[西]西塚厩舎に所属していたジェイキングという馬を覚えている読者の方もいらっしゃると思いますが、あの馬は厩舎で三日針という針を打ってもらいました。極端な言い方をすれば、そのお陰で、競馬を走ることができたと思っているのです。攻め馬も上手く乗っていただいていたことも、もちろんありましたし、ロンギの効果もあったのでしょうが、針の効果は大きかったはずです。
[山](筋注や笹針を嫌う)理由を考えると……う~ん、筋注や針をするくらいなら放牧する、と考えるのかもしれませんね。
[西]でも、それほど頻繁に放牧に出している厩舎ばかりじゃないですよね。他の厩舎の話を聞くと、本当に悪くなってから筋注を打つらしいじゃないですか。でも、早い段階で打つことで、悪化することも防げると思うんですよね。個人的な感覚もあるし、絶対ではないので強くは言いませんが、そこまで毛嫌いすることじゃないと思うんですよ。あと、安い(笑)。
[山]速攻性も期待できますし、値段も関節に対する高価なモノよりは安価ですよね。
[西]僕は、以前、この対談の中で筋注を推奨したところ、読者の方から批判を受けたことがあるんですよ。でも、例えば、すごく悪くなってしまった状態では3回打たなければならない。でも、その前の段階で打つことによって、1回で効果を得られ、それで済んでしまうということもあるんです。
[山]それはありますよ。
[西]そのあたりのことを読者の人たちにも伝えたくて、今回、先生に来ていただいた面もあるんですよ。
[山]そういうことがあったのですか。個人的には、打つタイミングを間違えなければ効果の得られる可能性の高い、良い治療だと思います。
[西]その前に、レーザーなどのケアをしておかなければならないのはもちろんなんですけどね。
[山]同感です。
[西]ケースにもよりますが、獣医さんが『打った方が良いですよ』と言われた時に打つべきだと思いますよ。それでも遅かったりすることもありますから。ちょっと待ってくださいとか言っていると、さらに悪化してしまったりするわけですよね。
[山]そうです。むしろ時間を置かず、積極的に治療した方が良い時もあるということです。どうしようもなくなってから、じゃあ打ってくださいということになると、それだけ回復に時間を必要としますし、経費もかかってしまうことになる可能性が極めて高くなりますよね。
[西]誰の目にも分かるほどのハ行をしているなら、筋注では厳しいと思いますよ。
[山]筋注を打って、3日様子を観察して、改善しないようであるなら、放牧がお勧めかもしれません。
[西]読者の方に説明しますと、ハ行している馬に筋注を投与します。そこから、軽い運動で3日間ほど様子を見て、改善が見られない時には、放牧に出した方が回復が早かったり、あるいは経済的にも安く済むということですよね。
[山]馬にとってもその方が良いと思います。言葉は適切ではないかもしれませんが、厩舎でだまし、だまし、対応しているよりも、一気に休ませてあげた方が馬のためにも良いですからね。筋注にはいろいろな使い方がありますが、そういう使い方もあると思います。
[西]読者の方の中には理解されていない人もいらっしゃると思うので、改めて筋注について説明していただけますか。
[山]消炎剤を入れる場合もありますし、刺激だけを与えるケースもあるというように、ひとつの種類ではありません。
[西]注射針だけを刺すという注射もありますが、それも一種の筋注ということでいいのでしょうか? 赤い色をしたビタミン剤、通称『赤ビタ』を入れているのと同じような効果があるということですよね。
[山]そうだと理解していただいて差し支えないです。針を刺すことで、刺激を促し血行を良くするのです。
[西]ブッチャけると、赤ビタの主要成分であるビタミンB群を投与したとしても、それが患部に直接効いているということではなく、注射をすることが目的ですよね。
[山]刺激を促すということです。消炎剤を入れた場合は、少し目的が変わりますが。
[西]刺激を促すということですから、ポイントは針を刺すということになるわけですよね。
[山]ただ、針だけでなく、液体が入ることで組織への刺激も施すことができるのです。
[西]つまりは、針だけよりも刺激の効果が認められるということですか。
[山]そういうことです。針に電気を流したりもんだりしたのなら話は変わりますがね。
今週はここまでとさせていただきます。
昨日、騎手と一緒に調教師試験の合格発表が行われました。実は、あまり大きい声で言える話ではないのですが、僕も最近、勉強を始めたのですよ。
たぶん、たぶんの話ですが(苦笑)、僕自身、ここから一流の調教助手になるということは、ほぼ無理であると思うのです。
馬乗りが抜群に上手くなって、いわゆる「できる助手」になれるかということを冷静に分析すると厳しい。そのような現実を踏まえますと、行く末は厩務員として寝わらあげ担当か、調教師しかないという覚悟で、勉強していきます。合格できるように、必死に頑張りますよ!
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