ヴィクトワールピサの残る課題は、序列を「1位」に変えること
文/編集部
かつて日曜日の競馬中継で鈴木淑子さんが司会を担当していた頃、仲間内で
「淑子理論」なる言葉が使われていた。
淑子さんが
「○○(←馬名)は●●に勝って、●●は以前に▲▲に勝ったことがあるので、○○は▲▲より強いということになるんじゃないでしょうか」というような話を度々していたので、いわゆる
競走馬の力関係を三段論法のように証明しようとする方法を
「淑子理論」と呼んでいたのだ。
この理論は、競走馬がキャリアを積むごとに崩壊していくのが常ではあったが、実力比較が判然としない3歳クラシック前においては、特に有力馬を語る上で非常に楽しめた。
今年の3歳牡馬クラシックは、この理論で語ると非常に面白いのではないかと思っている。
京成杯で
アドマイヤテンクウを競り落とした
エイシンフラッシュは、その2走前の萩Sで
コスモファントムの③着に敗れている。その
コスモファントムは、ラジオNIKKEI杯2歳Sで
ヴィクトワールピサの②着に敗れているが、野路菊Sでは
エイシンアポロンに先着している。そして、
エイシンアポロンはデイリー杯2歳Sと朝日杯FSで
ダイワバーバリアンに先着している。
この理論で言えば、
ダイワバーバリアンより
エイシンアポロンの方が強いわけで、
エイシンアポロンよりは
ヴィクトワールピサの方が強いことになる。今回の
弥生賞は、まさしくそのような結果になった。
そうなるような例を持ち出したとも言えますけどね(笑)。
しかし、ラジオNIKKEI杯2歳Sで④着となった
ヒルノダムールが次走の若駒Sを快勝したり、京成杯で③着に敗れた
レッドスパークルがすみれSを勝つなど、今年の3歳牡馬は、敗れた馬たちが次走以降のレースで力の違いを見せるようにしっかりと勝つケースが多い。だからこそ、この理論で語り続けることが可能になっているのだとも思う。
実は、今回の弥生賞では、この理論が崩れるのではないかと思っていた。
エイシンアポロンと
ヴィクトワールピサはともに休み明けで、
エイシンアポロンに関しては初めての距離(2000m)でもあったからだ。
ひどい道悪にもなったので、これまでの序列に狂いが生じることを危惧したが、結果的に、
エイシンアポロンと
ヴィクトワールピサは後続に1馬身以上の差を付け、序列の正しさが実証された。その2頭の間でも、
ヴィクトワールピサは力の違いを見せるように
エイシンアポロンを差し切り、
「やっぱり強い」との思いを植え付けることになった。
初の休み明け、初の道悪、初の中山コースをクリアした
ヴィクトワールピサにとって、残された課題は、現在の序列の
「2位」を
「1位」に変えることだろう。すなわち、デビュー戦で3/4馬身差だけ遅れを取った
ローズキングダムを下すことだ。
現3歳牡馬の序列のスタートは、昨年の10月25日だったと言える。京都5Rの新馬戦(芝1800m)で、1&2番人気に推された
ヴィクトワールピサと
ローズキングダムは、
後続に5馬身の差を付けて①&②着となった。
あの時は、最内枠で内を回った
ローズキングダムが抜け出し、
ヴィクトワールピサは4コーナーで外に寄られる不利もあって届かなかった。あの新馬戦を最後に、この2頭は同じレースに出走しないまま、
皐月賞を迎えようとしている。
3戦3勝の
ローズキングダムは、今年初戦がスプリングS。できればこれを制して、皐月賞が文字通り、雌雄を決する場になってほしいものだ。そして、
日本ダービー、
菊花賞へと名勝負数え唄が形成されていくことを望む。
「淑子理論」で3歳クラシックを語り合っていた当時は、例えば94年の
ウイニングチケット、
ビワハヤヒデ、
ナリタタイシンの時のように、実力馬同士が接戦を演じて名レースが紡がれることも多かった。今年の3歳牡馬クラシックも、同じようになる。そんな気がしてならない。