今週から佐藤雅人装蹄師との対談を行います!
2010.6.10
ここ数週間、我が尾関厩舎の出走頭数が少ないように思われている読者の方がいるかもしれませんが、2歳馬が入厩してきていることと、もうひとつは、そうです、北海道シリーズが始まるためなのです。
我が厩舎も、今週の週末に第一陣が函館に向けて出発することになっており、いよいよ夏競馬です。
今年は、函館に6馬房ということで、調教助手もひとりが帯同する形で出張することになるのですが、僕は美浦で頑張ります。
順調に減量に成功しているのですが、暑い美浦で頑張ることで、より一層ダイエットできることを僕自身も期待しています(笑)。
さて、今週からは佐藤盛男装蹄所の佐藤雅人装蹄師との対談がスタートします。装蹄、あるいは蹄と聞くとマニアックな印象を持たれるかもしれませんが、できる限り分かりやすく話をするつもりですので、どうぞ読んでみてください。それではどうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]今回は佐藤盛男装蹄所の佐藤雅人装蹄師との対談となります。よろしくお願いします。
[佐藤雅人装蹄師(以下、佐)]どうぞよろしくお願いいたします。
[西]普段通りに「雅人」でいこうか。
[佐]そうしましょう。
[西]雅人とは、西塚厩舎の時からお世話になっていて、もっと言うと、ウチの祖父さん(西塚十勝元調教師)の代からの付き合いになるよね。
[佐]はい。こちらこそお世話になってます。
[西]いまは佐藤盛男装蹄所の弟子という扱いになっているけど、実際はどこまでやっているの?
[佐]弟子ということで、後肢だけは、ほぼすべての馬を切らせてもらっています。
[西]読者の方の中には「なぜ後肢だけなのか?」と思う人もいると思うので、その理由を説明してください。
[佐]前肢と後肢では疾病が起きる頻度が違いますし、致命的な疾病を発症する確率も、前肢の方が明らかに多いですから。
[西]つまり、単純に言うと、前肢の方がより重要ということですよね?
[佐]そういうことになりますね。
[西]雅人の親方だけでなく、他の装蹄所のお弟子さんたちも、後肢だけを削るというケースが多いのかな?
[佐]そうですね。一般的にはまず後肢から、ということのはずです。削蹄の平坦性ということでは、前肢も後肢も同じなのですが、やはりそこで起こり得る疾病は、明らかに前肢の方が多く、それに伴う責任を考えると、やはり前肢は親方ということになるのでしょう。それぞれの親方の考え方もありますので、すべて同じではないと思いますが。
[西]もう少し読者の方に説明すると、その仕事は、「削蹄」という字のままに蹄を削る作業と、蹄鉄を蹄釘で装着する「装蹄」という作業に分かれています。そこで、弟子が後肢の削蹄と4本すべての装蹄をして、親方は前肢の削蹄をするというパターンもあるよね。
[佐]あります。
[西]雅人は、前も打っているよね?
[佐]装蹄は4本やらせてもらっています。
[西]前の削蹄はやらせてもらったりしないの?
[佐]しっかりとした脚元の馬の削蹄をやらせてもらうなど、徐々に経験させてもらっています。
[西]装蹄師というのは、ある意味、職人技だし、繊細だよね。そう感じるでしょう?
[佐]1ミリ深く切ったら血が出てしまうわけですし、1ミリ釘を深く打ったら神経に触ってしまう可能性がありますからね。
[西]馬にもよるし、その時々にもよるんだけど、多くは3週間に1回の割合で装蹄が施されるよね。仮に1ヶ月で1センチ伸びたとすると、2週間で5ミリですよ。それを削りながら調節するんだから、やっぱり職人芸だよ。蹄は左右で違ったりする馬もいるわけだし。
[佐]親方が担当させていただいているあるオープン馬で言いますと、左右で蹄鉄の大きさが1号分違うのです(これを不同蹄という)。しかも、脚部不安を抱えているのです。幸い、悪い方の蹄が立っているから、現役生活を続けられているのでは……と、ちょっと専門的になり過ぎですね(苦笑)。
[西]いや、そんなことはないよ。そういうミクロ的な要素が多いのが蹄だと思うし。そういう繊細な仕事である一方で、危険度も高いよね。馬の腹の下にもぐって仕事をするわけだから。脚を持ったりもするけど、あのような時、走る馬というのは脚の力が強かったりするものなの?
[佐]オープン馬とか走る馬は、脚を引く力が強いように感じますね。筋力があるからこそ速く走れるし、強く引っ張ることができるのでしょう。中には、筋力が足りず、脚を挙げて立っていることができない馬もいます。個体差や脚の長さなどにもよるのでしょうが、やはり踏ん張れるのでしょうね。
[西]なるほどね。仕事としては、相当に大変だと思うんだけど……キツイでしょう?
[佐]大変ですね(苦笑)。
[西]俺と同じくらいの時間に、出勤しているよね?
[佐]そうですね。何時というのは決まっていないのですが、要領の悪い弟子は早く起きなければならないということです(笑)。
[西]そんなことはないでしょう。それで終わるのが17時過ぎくらいか。
[佐]そこから後片づけをして、それで終わりですね。
[西]トレセンの馬たちを装蹄する合間に、育成牧場にも行っているよね?
[佐]今日は昼前に行ってきました。
[西]じゃあ、昼休みはないんだ?
[佐]いや、1時間くらいはありますよ。
[西]道具の手入れとかもあるよね。
[佐]そうですね。削蹄する鎌型蹄刀(かまがたていとう)を研ぎ直したり…。
[西]装蹄であったり、装蹄師さんという存在は、あまり取り上げられることがないでしょう。だから改めて登場してもらって、話を聞かせてもらいたいと思ったんですよね。それこそ、装蹄することの意味さえ知らない人もいると思うから。
[佐]装蹄の意味については、口はばったい言い方をさせていただきますと、「運動能力向上と肢蹄の保護」ということです。競馬をしないのであれば、野生の馬のように裸足でも蹄壁がしっかりとしていきます。実際、よほど酷い状況となってしまった時、鉄を外すと蹄壁がリセットされて、自由に踏めることができ、直接刺激を受けることで強い蹄壁になります。ただ、競馬ではスピードが求められます。それは言い換えれば、それだけ衝撃が増すことなのです。実際、蹄鉄の減りを見れば、もし装蹄していないことを想像すると、相当に蹄が消耗してしまうことが容易に思いつきます。
[西]ひと言で蹄と言っても、皆が同じ形ではないし、それこそ左右対称ではないよね。
[佐]蹄の形そのものが違います。よく馬そのものの姿勢と蹄の関係ということが言われますが、あくまでその馬、その肢蹄(してい)にとって平らに、バランスの良い装蹄をしようと、装蹄師は目指していると思います。
[西]人間でも巻き爪になってしまうことがあるけど、馬もあるよね?
[佐]蹄冠部(ていかんぶ)をケガしてしまい、えぐれてしまっている馬は、えぐれるように爪が生えてきますし、巻き爪にもなります。
[西]蹄が収縮している、という話もしてほしいと思っていたんだよね。
[佐]そうですか。最大横径部(さいだいおうけいぶ・蹄の横幅がいちばんある場所)から蹄踵部(ていしょうぶ・人間のかかとにあたる)にかけては、着地した時に広がる作用をしています。蹄機作用(ていきさよう)機能が兼ね備わっていまして、着地をした瞬間に広がり、離れた瞬間に縮むのです。
[西]わかりやすく説明すると、馬の蹄は地面の着地の瞬間と離れる瞬間に、収縮運動をしているということだね。
[佐]そういうことです。
今週はここまでとさせていただきます。気を付けてはいるのですが、やはり少しマニアックになってしまっているかもしれませんね。
来週以降には、画像や映像も掲載させていただこうかと思っています。もし何か質問があれば、遠慮なくメールをいただければ、できる限り、佐藤装蹄師ともども頑張って、より分かりやすく補足させていただきたいと思っています。
あと、ミンナノアイドルについては、一旦放牧に出ました。どこか痛いとか、調子が悪いということでななく、あくまで馬体調整ということですので、帰厩までにはそれほど時間がかからないと思います。
また何か進展がありましたら、ご報告させていただきますので、お待ちください。
ということで、最後はいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。