上がり、性別、父系を加味して考えれば、価値大の重賞初制覇
文/編集部
勝ち時計というのは、そのまま字面通り受け取るだけで、レースの価値を測れるものでもない。そこにどういった補正を加えて評価するかは、多くの競馬ファンが頭を悩ます点のひとつだろう。函館2歳Sの時計評価も、なかなかひと筋縄ではいかない面がある。
函館芝1200mで開催された函館2歳S(旧・函館3歳S)において、過去最速の勝ち時計は97年のアグネスワールドの1分9秒8。2番目に速いのが06年のニシノチャーミーの1分10秒3だから、1分10秒を切った馬はアグネスワールドしかいない。
それに対して、同じ2歳夏の重賞でも、小倉芝1200mの小倉2歳Sの方は、02~09年の過去9年の勝ち時計がすべて1分9秒8以内。単純に字面だけで見れば、明らかに小倉の方が速く、道悪でもなければ1分10秒を切るなんて当たり前といった感じだ。
だからと言って例えば、
「A=前走は函館2歳Sを1分10秒0で勝利」、
「B=前走は小倉2歳Sを1分9秒5で勝利」という2頭がいたとして、
「AよりBの前走時計の方が速いから、Bの方が強い」と評価する人は、おそらくそれほど多くないだろう。時計評価は、それほど単純なものでもない。
じゃあ、どう評価すればいいのか。そこに多くの人が頭を悩ましているわけだが、函館2歳Sの過去の成績を眺めていると、勝ち時計以外の評価方法のひとつとしては、
「上がり3Fや性別を重視して考える」というものがあるのかなと思う。
90年以降の勝ち馬を見て、自身の上がり3Fが35秒9以内だったのは、96年マイネルマックス(35秒8)、97年アグネスワールド(35秒2)、04年アンブロワーズ(35秒9)、06年ニシノチャーミー(35秒6)の4頭。
上がり35秒9以内というのは一見、それほど高い敷居にも思えないが、過去20年の勝ち馬でそれをクリアしているのは4頭しかいない。そういう考え方をしていくと、今年の
マジカルポケットの35秒9には価値が見出せるだろう。しかも、
メンバー中最速の上がりで、他に35秒9以内だった馬はいないというのも要注目だ。
さらに、上がり35秒9以内だった先述の4頭のうち、函館2歳Sの後に別の重賞も勝ったのは、マイネルマックスとアグネスワールド(10年8月8日時点)だけ。4頭の中で、牡馬の方の2頭ということになる。
要するに、
「函館2歳Sを35秒9以内の上がりで勝つことは珍しく、なおかつそれが牡馬なら、(後にも重賞戦線で活躍できるような)高い潜在能力があるという証明になる」と、ひとつの仮説として言えるのだろう。
今年の
マジカルポケットは上がり35秒9で、しかも牡馬。逃げ切りで1戦1勝という戦績の馬が、今回は好位で控える競馬をして、直線では間を割って抜け出したレース内容も加味すると、なおさら
「高い潜在能力がある」という評価に現実味を感じさせてくれる。
血統的に言っても価値大だ。
マジカルポケットはジャングルポケット産駒で父グレイソヴリン系。この父系の牡馬&セン馬は90年以降、2歳戦の芝1200mで[0.1.0.13]と未勝利で、芝1400m以下としても先週までに[1.3.0.23]だった。
そして、その[1.3.0.23]で唯一の①着だったのが、92年に京都芝1400mのデイリー杯3歳Sを制したビワハヤヒデ(父シャルード)。もはや
「懐かしの名馬」の部類かもしれないが、デビューから[10.5.0.1]と抜群の安定度を誇り、菊花賞、天皇賞・春、宝塚記念のほか、92~94年に重賞を7勝した名馬だ。
要するに、父グレイソヴリン系ではそれぐらいのレベルの馬しか勝利を挙げていない条件下で、
マジカルポケットは初重賞制覇を成し遂げた。その点を加味すれば、なおさら今回の勝利の価値が高まってくる。
「函館2歳Sの後に別の重賞も勝利」という馬は、先述の97年の勝ち馬アグネスワールド以来、しばらく出ていない。そういった寂しいレース傾向を打破するという意味でも、
マジカルポケットの今後の活躍には期待せずにはいられない。