今週は『預託料』について、説明したいと思います
2010.8.19
先週お伝えしたように、今週は『預託料』についてお話をさせていただきたいと思います。
「具体的にいくらなのですか?」という質問をいただいていますが、まず預託料の金額についてお話をする前に、預託料がどのような使われ方をしているのかを説明いたしましょう。ほとんどが人件費だと思っていただいて、差し支えないでしょう。
現在、JRAでは1人の厩務員は2頭を担当するという、いわゆる『2頭持ち』が原則となっています。
一般的な厩舎は20馬房で、厩務員10人と調教助手3人という人員配置となりますので、13人の給与は20頭の預託料から支払われることになるわけです。
そして、この厩務員及び調教助手の給料というのは、調教師が決めるのではなく、勤続年数によって決められているのです。
勤続年数が10年なら基本給はいくら、20年ならいくら、というように、数字が算出されます。もちろん、僕もそのひとりですので、僕の給料の基本給は勤続年数による金額でいただいています。
このようなシステムですので、勤続年数が長いスタッフが多い厩舎は、それだけ支払われる給与が高くなるということです。
これに関連してもうひとつお話ししておきたいのは、厩務員と調教助手の人事権が各調教師にないことです。ですから、一般企業のようにリストラなどをして人件費を減少させて、企業存続を図ることができないのです。
以前は、預託料そのものが、すべての厩舎で同程度にされるように決められていました。早々とブッチャけさせていただきますと、極端な言い方をすれば、リーディングトップと最下位の厩舎で、預託料がほぼ同額という状況だったのです。
なぜかと言いますと、通称『ヨタコン』と呼ばれていた預託委員会というものが存在していて、そこで預託料についてのすべてが決められていたためで、基本預託料というものがあり、これには飼い葉の種類など細部に渡るまで横並びとされていたのです。
ひとつ例を挙げると、えん麦は基本預託料に含まれますが、ニンジンは補助馬糧となり、別会計とされてきたのです。補助馬糧や治療費などによって多少の差はあるものの、基本的には横並びとされてきました。
現在は『ヨタコン』は廃止され、基本的には自由化されて各厩舎が決めて良いことになっているので、極端な言い方をすれば、1ヵ月分が1頭100万円であっても問題ありません。
じゃあ、安くすることも可能だろう、と多くの方が思われるのでしょうが、金額は調教師が自由に決められるものの、厩務員と調教助手の給料は決められません。それだけは、いまもなお調教師が決めることは許されておらず、勤続年数を基準に支払われているのです。
1年に2回の賞与、つまりボーナスと、祝日などに仕事をした場合、休日買い上げとなった手当も預託料に含まれます。
ボーナスや休日買い上げについては、『ヨタコン』が存在していた当時は、7月と1月、それに、年末年始の休日買い上げは2月に請求され、普段よりも数十万円多くなる形となっていました。
いまでもそのようなスタイルを継続している厩舎があるようですが、前回の対談に出ていただいた高橋義博先生のように、そのような部分も含めて基本預託料としている厩舎も増えているようです。
具体的な金額については、だいたい、基本預託料が45万円から53万円というイメージを持ってもらって構わないと僕は思います。
預託料の総額については、基本預託料に治療費や補助馬糧などが加わり、安いところで40万円台、高いところでは70万円以上ということも聞きますが、多くは50万円台から60万円の間でしょう。
「地方競馬は安いと聞くが、なぜ中央は高いのか」という質問が来ていましたが、これは、JRAが1人2頭持ちであるのに対して、地方競馬は、僕が知る限り1人3頭持ちは当たり前というところが多く、給料も調教師が決めることができるからでしょう。あるところでは、1頭に対して1ヵ月7万円という契約で、3頭で21万円というシステムになっていると聞きました。
JRAでは、給料が決まっていて、雇用人員も決められ、そして1人2頭持ちという原則があり、預託料を下げたくても下げられない側面があるのです。しかも、自由に雇用を調整することもできないわけですから。
2頭分の預託料が入るのに、という声もあるかもしれませんが、雇用保険や労災など、給与以外の部分の金額も少ない額ではないことは西塚厩舎でよく分かっています。ブッチャけさせていただきますと、いま、調教師が預託料で儲けるというのはほぼ不可能なはずです。
また、最近は、関西(栗東)の預託料の安さが話題になっているのですが、例えば13人体勢が基本の美浦に対して、栗東は11人でも良いことになっているなど、システムにも差があります。
調教助手2人分の給与は大きいですよ。年間2人分の人件費を700万円とするなら、1ヵ月1馬房にかかる預託料では約3万円の差が生まれるわけですから。
他にも細かい規則があるのですが、長くなってしまいますので、今回はこのあたりまでとさせていただきます。
なかなか表に出ない預託料についてですが、ファンのみなさんの感想も聞いてみたいと思っていますので、ぜひメールをいただければと思います。
来週からは、新人の菅原隆一騎手との対談をお送りさせていただく予定です。どうぞ楽しみにしていてください。
ということで、最後はいつもの通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。