2年目以降の飛躍について、伊藤工真騎手に聞きました
2010.10.7
先週は3歳未勝利戦の最後のレースが行われ、我が尾関厩舎もマレーネが生き残りをかけて挑んだのですが、残念ながら10着という結果となってしまいました。
何とか最後にもうひと踏ん張りしてくれると思って送り出したのですが、余力が残っていなかったということなのでしょう。
最後の未勝利戦で負けると、高校野球を思い出すのです。トーナメント方式で、負けたら終わりという哀愁を感じるんですよ。
僕がまだ厩舎に入る前、西塚厩舎ではハナタツマキが最後の最後の未勝利戦を連闘で勝ち上がったというケースがありましたが、今回は負けてしまいました。
馬たちは、1塁ベースまで全力疾走で、最後はヘッドスライディングをしていると思いますし、そういう映像が頭にも浮かびます。
マレーネについて言えば、ここまで入着を果たしてきていましたので、今回が地区予選決勝戦で、そこで力尽きてしまったように思えます。
どんな馬に対しても、未勝利ではなくても、必ずもっと何か他にやるべきことがあったんじゃないか、もっと他に方法があったんじゃないかと考えるのですが……今回は残念でした。
それでは、今週は、銀シャリこと伊藤工真騎手との対談の2回目になります。どうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)銀ちゃん(伊藤工真騎手)と言えば、2年目となる去年に一気に勝ち星を伸ばしたわけだけど、1年目の最初の頃はなかな勝てない時期が続いていたよね。同期の三浦(騎手)がもの凄い勢いで勝っている中で、焦りというかプレッシャーみたいな感覚はありましたか?
伊藤工真騎手(以下、伊)ないわけではありませんでしたが、そこまで焦りを感じたことはなかったと思います。
[西]1年目の後半から2年目にかけて、オープン特別の(斤量)48kgとか49kgという騎乗馬へのチャンスがよく回ってきた印象があるんだよね。
[伊]そうですね。
[西]そのあたりから、一気に伊藤工務店が印象付けられていくのですが、印象に残っている馬っている?
[伊]いちばん最初にチャンスをいただいたのは、メトロポリタンSでのビエンナーレだったんですよね(49kgで11番人気3着)。
[西]あっ、乗っていた。スムーズな競馬をしていたイメージがある。あのようなケースでの騎乗を続けてから、それまでは「三浦と同期のもうひとり」的だったのが、「良い減量騎手がいるな」という認識に変わっていったような感覚があるのですよ。銀シャリから伊藤工務店になっちゃった的な。
[伊]だから銀シャリが浸透しなかったんですね(笑)。
[西]そうかもね。でも、誰が何kgに乗れるということって、意外と騎乗させる方は分かっていなかったりするのですよ。そこであのような競馬を見ると、「(斤量が)軽い時には伊藤を乗せてみるか」という流れができたりするはずなんだよね。1年目の夏くらいから騎乗が増えなかった?
[伊]いやぁ、たくさん騎乗させていただけるようになったのは、ひとつ勝ってからでしたね。1年目の夏の時点では、まだ乗せていただけませんでした。
[西]初勝利は秋になってからだったっけ?
[伊]はい、秋の東京です。
[西]そうか。同じ質問をしてしまうけど、秋の東京まで未勝利だと焦りも出たんじゃないの。
[伊]当時は、何が良くて何が悪いのかという、基準みたいなものが分からなかったので、そこまでの焦りというのは本当にありませんでした。
[西]三浦とか、バンバン勝つし、テレビには出まくるし、多少なりとも気になったりしたのかと思った。
[伊]いえ、特に気にはなりませんでした。
[西](三浦騎手とは)仲は良いんでしょう?
[伊]はい。少ない同期ですからね。
[西]そういえば、ウエスタンビーナスでの初オープン勝ち(バーデンバーデンC)、おめでとうございます。
[伊]ありがとうございます。
[西]準オープン勝ちはあったっけ?
[伊]はい。尾形先生のところで、中山のダート1200m(春風S)をケイアイダイオウで勝たせていただいています。
[西]あっ、勝っていたね。
[伊]あのレースが、初特別勝ちでもあったのです。
[西]そうだったんだ。初特別勝ちが準オープン勝ちですか。
[伊]そうなんですよ。
[西]去年の夏だったか、特別は福島とかで勝っていなかったっけ?
[伊]去年の夏は福島で郡山特別に乗せていただいたのですが、2着に負けてしまったんです(コスモジャイロに騎乗)。
[西]郡山特別って1200mの芝だよね。
[伊]そうです。郡山出身なので、初特別勝ちが郡山特別というのはいいなぁと思ってたんですけどね。
[西]惜しかったね。でも、その後にオープン特別も勝って、特別勝ちは嬉しいでしょう?
[伊]嬉しいです。
[西]減量が関係ないからね。減量だから乗せてもらえている、ということではないわけですよ。
[伊]そうですね。特別レースというのは斤量が関係ありませんので、上手い人たちから優先的に依頼ができるわけですよね。そこで乗せていただけるというのは、本当に嬉しいです。
[西](バーデンバーデンCの)ウエスタンビーナスは自信あったの?
[伊]調教でも一度しか乗ったことがなかったので、状態についてはまったく感覚がなかったのです。それまでの3走が比較的距離の長いところを走っていたのですが、元々は短いところを走ってきていた馬で、逃げ・先行という脚質でもあり、平坦コースの福島の開幕週でした。メンバーを見た感じでも、行く馬が1~2頭で、競り合う感じにもならなさそうで、そこまで速くならないようなイメージがあったのです。さらに、枠的にも外に行く馬がいなかったので、自分の馬の出方次第とは思っていました。
[西]確か、2番手だったよね。あの馬は逃げるイメージが強いんだけど、2番手でも問題ないんだ?
[伊]問題ありませんでした。距離の長いところを走っていたということもあるのでしょう、ムキになることもなくて、リラックスして走っていましたね。
[西]どのあたりで勝てると思った?
[伊]直線に向いたあたりで手応えがあったので、このまま粘ってくれるんじゃないかと思いました。
[西]それこそ、騎手見習い当時から攻め馬を手伝ってきている厩舎で、チャンスをもらって決められたというのは最高でしょう?
[伊]嬉しかったです。(鈴木康弘厩舎の所属馬には)デビュー当初から競馬に乗せていただいていたのですが、結果が出せないことの方が多かったのです。人気の馬に乗せていただいているのに、2着、3着と勝ち切れないこともありましたから。
[西]勝てば一緒なのかもしれないけれど、普段から乗っている厩舎の馬で勝つというのは、また違った喜びがあったりするでしょう?
[伊]もちろん、テン乗りで乗せていただいた馬で勝てたら嬉しいですよ。ただ、普段から乗せていただいている厩舎や馬で勝つというのは、また違った喜びがあります。
今週はここまでとさせていただきます。
先週、日本ではスプリンターズSが行われましたが、フランスではナカヤマフェスタとヴィクトワールピサが凱旋門賞に挑戦しました。
凱旋門賞は、いやぁ、本当に惜しかったぁ。一瞬勝ったと思ったのですが、ナカヤマフェスタは斤量も背負っていましたからね。でも、本当にいい競馬を見せてもらいました。
4コーナー手前での不利云々という声もあるようですが、それも含めて競馬ということですよね。観ていても、集団でバラけないなど、日本よりもタイトな印象を受けましたが、それを含めてヨーロッパの競馬ということでしょう。
外国馬が日本に遠征してきた時、日本の硬い馬場が合うとか合わないと言われますが、それは日本馬が遠征する時も同じで、そのようなことも含めて遠征の難しさだと思うのですよ。
3歳と古馬で3.5kgという斤量差があることは、確かに影響が大きかったのではないでしょうか。しかも、56kgに対して59.5kgですからね。目黒記念をイメージしても、この時期の3歳馬と古馬ではそこまで差がないように思いますし、凱旋門賞が3歳馬有利と言われるのも納得できます。
あともうひとつ、観ていて感じたのは、ゲートがおとなしいということです。明らかに日本のそれと雰囲気が違うように映りました。
頭差だけに、余計に悔しさも感じますが、本当に良い競馬を見せてもらいました。
ということで、最後はいつもの通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。