競走馬は食べることができるかどうかが重要だと思っています
2010.12.02
先週は、ダハシュールが新馬戦(土曜東京5R)で2着に頑張ってくれました。僕は普通キャンターに乗ったのですが、正直なところ、半信半疑だと感じていたのです。でも、先輩の助手さんなど、速いところで乗った人たちは『走る』と手応えを口にしていたのですよね。
普通キャンターと速いところでは変わる馬がいる、という話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、坂路とコースとでは感覚や印象が違ってきます。
ちなみにダハシュールで言えば、僕はコースで乗ったのですが、速いところに乗った人たちは坂路でした。
育成牧場でも坂路が普及しているいま、坂路ならしっかりと走れるという2歳馬たちが多いのも特徴ですね。
ダハシュールは、一度競馬を経験したことで、さらに良くなってくるはずですので、次走以降が楽しみだと思います。
それでは今週は、佐久間さんとの対談の最終回になります。どうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)配合飼料が主流になってきていて、大根などの野菜類が減ってきているそうですが、厩舎によっては納豆を食べさせているところがありますよね。
佐久間洋也氏(以下、佐)ありますよ。ただ、納豆と言っても、人間がご飯にかけて食べるタイプではなく、いわゆる干し納豆が一般的です。茨城の名産品ですが、それを食べさせていらっしゃるところがあります。
[西]嗜好性はどうなのですか?
[佐]量にもよるとは思いますが、それなりには食べるようです。
[西]グルタミン酸、いわゆるうまみ成分があるのものですから、嗜好性があってもいいですよね。
[佐]食べ付きが悪いという話は聞いたことがありません。
[西]他に何か珍しいモノはありますか?
[佐]バナナですかね。
[西]関西は多いと聞きますが、バナナの嗜好性はどうなんですか?
[佐]最初は嫌う馬もいるようです。食感がないからなのでしょう。ただ、ほんのりと甘いですから、すぐに食べるようになります。
[西]効果としてはどういう面があるのでしょうか。
[佐]エネルギー吸収の即効性が高いということと、あとは筋肉に良いと言われている点ですよね。
[西]なるほど。ただ、馬は、ある程度、歯ごたえがあるものの方を好むのでしょうね。ニンジンにしても慣れていないために食べようとしない馬がいますが、最後は食べるようになったりしますからね。
[佐]それこそ、食べたことがないから、慣れていないのでしょう。
[西]ニンジンもなかなか高価ですからね。ウチにいたオグリキャップ最後の産駒となったアイちゃん(ミンナノアイドル)は本当にニンジンが好きでした。ファンから届いて、幼い頃からどこでも食べてきていたからなのでしょうね。あとは、何かありますか。
[佐]レンコンでしょうか。
[西]鼻血予防に良いと言われていますね。
[佐]僕も詳しく勉強したわけではないのですが、漢方の世界でも血液に良いとされているようです。我々がいただく部分ではなくて、毛が付いた端の部分が特に良いと聞きます。
[西]知らないから捨ててましたよ。
[佐]そうですよね。でも、あの毛の部分が良いらしく、ベテランの人でもずいぶん捨ててしまったよという話をされている方がいました。
[西]食感もサクサクしているから嗜好性はあるのでしょうね。あとは、最近はサプリメントも増えていますよね。
[佐]そうですね。血液をサラサラにということではクエン酸ですし、関節について言えば、グルコサミンやコンドロイチンなども人気がありますね。
[西]人間と同じですよね。あっ、そうだ、有名なところではモヤシもありますよね。あれは何の効果を狙っているのですか?
[佐]豆もやしですと、発芽豆ですので、タンパク質を摂取できることになります。そういう狙いだと思います。
[西]やはりタンパク質への執着みたいなものはあるのですかね。
[佐]どうでしょうか。そういうお客様もいらっしゃいますが、あくまでバランス的な部分で取り組まれている方々が多いように思います。
[西]どれだけ食べさせるかということですよね。
[佐]そうです。3万キロカロリー、あるいは4万キロカロリーというように、食べさせたいと思って取り組まれていらっしゃる方々もいらっしゃいます。
[西]4万キロカロリーは多いですよね。
[佐]そうですね。おにぎり1個、何か具が入っているものでおよそ200キロカロリー前後ですから、4万キロカロリーというと、200個分になります。馬にもよりますし、状況にもよりますが、よく「人間の10倍」で計算するのです。それで計算すると、維持飼料として1日に必要とするのは、1万5000キロカロリーということになりますから、4万キロカロリーはかなり多いです。
[西]4万キロカロリーは多いなあ。
[佐]ただ、あくまで目標です。我々の販売実績から推測すると、美浦では平均が2万7000から2万8000キロカロリーくらいで、3万は切っていると思われます。
[西]1万キロカロリーを摂取させようとした時に、同じ1万キロカロリーでも燕麦とオイルでは違うと最近になって感じているのです。同じ量なら、燕麦と油とでは、燕麦の方が量は多いですからね。カロリーではなく、体重の話で言えば、燕麦の方が反映がより出るように思うのですよね。オイルは脂質ですよね?
[佐]そうですね。ですから炭水化物と取り替えるようなイメージと言えるでしょうね。計算上では、オイル300CCと燕麦1升がほぼ一緒のエネルギーになるとされています。
[西]個人的に、いま一番気になっているところなのですよ。燕麦を食べることで、炭水化物を摂取するなかで、ある一定のタンパク質も得ます。さらには、配合飼料も加えたりします。それが過多になると、スクんだり、コズミの原因にもなっていくわけですよ。そこで、もっと上手にオイルを使うことで、そのあたりの部分が解消されたりするんじゃないかと思っているのです。オイルを使った飼い葉を食べるなら、という条件は付きますが。
[佐]炭水化物の摂取過多がコズミの原因のひとつになっているようにも言われていますので、過多にはならないように気を付ける方が良いですし、やはりトータル的なバランスが大切だと思います。
[西]佐久間さんは入社されて25年ということですが、昔もいまのように飼い葉について様々な角度から分析されていたのですか。
[佐]以前はそうではありませんでした。ただ、現場の方々が取り組む中で、ご相談を受けながらということが多かったのです。遅れてしまっていたという感覚を持っていましたので、最近は我々も、メーカーとも協力しながら勉強をして、みなさんのお役に立てるように頑張っているところです。
[西]毎月行われている勉強会では、本当にお世話になっております。競馬の結果についてもよくご存知ですよね。
[佐]やはり、お客様の馬が勝っていただければ、嬉しいですよ。それがまた、食べないとか試行錯誤をしていた馬なら、なおさらかもしれません。
[西]いやぁ、本日はありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
[佐]こちらこそ、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。予想通りと言いますか、みなさんから『マニアック』という反応をいただきまして、ありがとうございます(笑)。
周囲の反応などを見ても、少し内輪でうけるネタだったかもしれないと思っているところです。
ただ、人間でも基本は「食にあり」で、生きていく上でとても大切な部分であり、競走馬たちにとってもとても重要なのです。
ブッチャけさせていただければ、飼い葉が能力発揮に及ぼす影響は決して小さくありません。だからこそ、もっと知りたいと思うし、まだまだ勉強が必要だと思うのですよね。
実際、フィードマンとして担当させていただいているということは、とても貴重な経験ですし、本当に勉強させていただいています。
その中で、やはり大前提だと痛感するのが、「食べることができるかどうか」ということです。
大袈裟に言えば、食べることができなければ何も始まらないわけでして、まずはその部分だと思うのです。
どれだけ食べていて、どれだけ運動していて、どれだけ休ますかということを、全体的に見ていくことが大切なのではないかと思います。
これからも、佐久間さんに協力していただくなど、お世話になりながら、頑張っていきたいと思います。
ということで、来週は、対談の間の回になりますので、食欲と関係が深い「胃潰瘍」についてお話をさせていただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
ということで、最後はいつもの通り『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。