トレセンに在厩している馬の70~80%が胃潰瘍を患っていると言われています
2010.12.9
先週の土曜日(4日)、中山5レースの新馬戦(ダート1200m)にアシッドジャズという馬が出走したのですが、残念ながら競走を中止してしまい、予後不良となってしまいました。
実は、松尾正オーナーに名前をつけさせていただいただけでなく、アドマイヤマックスを配合相手に選ばせていただいて生まれた馬なのです。
レース映像を観ればわかっていただけると思いますが、あのまま競馬をすることができていたら、勝ったとまでは言いませんが、良いレースをできていたはず。レースに送り出す段階でも状態が良かっただけに、その瞬間には夢であってほしいと本当に思いました。
強いて挙げるのなら、腰の甘さは感じましたが、別にアシッドジャズに限ったことではなく、一般的なレベルと言える感じでした。不安があったところを見つけようとしてもないのですよ。
本当に悔しいです。
他に何か、例えばアプローチの方法など、こちら側に何かやれるべきことがあったんじゃないかとも考えます。
よく競馬でのアクシデントについて、仕方がないことだと言います。確かに、どうすることもできない部分もあるのですが、僕自身はそう簡単に言いたくない部分もあるのですよ。
送り出した馬が帰ってこないことは何度か経験しましたが、決して慣れることはないし、正直、凹みます…。
さて、今週は、先週まで対談のテーマであった飼い葉と関係がある「胃潰瘍(いかいよう)」についてお話をさせていただきたいと思います。
飼い葉については、様々な栄養素をどのようなバランスで与えるかということが大切なのですが、それ以前にやはり、しっかりと食べることが大前提だというお話をしました。食べない馬、しかもまったくと言っていいほど、食べることができない馬さえいるからです。
我々は、そういう馬に対して、いろいろな種類の飼い葉を、いくつかの飼い葉桶に分けて置く。あるいは、一般的に1日3回に分けて与えるところを、4回、あるいは5回と分けて、少しずつ与えたりという対応をするのですよね。
でも、それでも、食べない馬はいます。そのような馬たちは、実は胃潰瘍であったりすることが珍しくありません。
一般的には、トレセンに在厩している馬の70~80%が胃潰瘍を患っていると言われています。人によっては90%と言う方もいます。
僕の少ない経験の中ですら、食べない馬の胃を調べると、潰瘍が見つかることが多いですからね。
人間でも胃潰瘍という病名はあり、その要因のひとつにストレスが挙げられますが、馬もまったく同じだと言われています。
以前の『下剋上日記』で話したことがあると記憶していますが、胃潰瘍の対策としては、人間に用いられる商品の「ガスター10」の馬用となる「ガスター100」という胃薬を投与するのが一般的とされてきました。
カンの良い人は、「されてきた」という過去形になっていることに気づかれたと思いますが、そうなのです、いまは、オメプラゾールという薬品で「ガストロガード」という商品が登場して、それが人気を集めているのです。
久しぶりにブッチャけさせていただきますと、実際、効きますね。薬効上は、28日間連続投与することが望ましいとされていて、そうすることでほぼ完治するとされています。
ただ、高価なのです。ですので、追い切りの後、競馬の1週間前の日曜日に投与するスタイルになったりして、それでも効果はあったりします。ただ、それでバリバリと食べるようになるかというと、そこまでは期待しづらいですね。
28日ということはだいたい1ヵ月なのだから、毎日やればいいじゃないかと思われる方もいらっしゃると思いますが、先ほども話したように高価なのですよ。安くても1本5000円を切ることはないでしょう。
1本6000円として、28日与えると16万8000円になります。これが1本8000円なら22万4000円。預託料以外に治療費として請求される金額として、手術などの例外を除いて5万円で高額と言われる範疇に入ると思いますので、この金額だと、オーナーに対して「じゃあ投与させてもらいます」と簡単には言えません。
ただ、効果はありますからね。それは与えたいですよ。そこにジレンマを感じることもあります。
胃潰瘍は追い切りと関係があるという研究もされていて、そのデータも存在します。
調教を強くしていくことで胃潰瘍が進行していくことや、ガストロガードを投薬して胃潰瘍が改善しても、ある一定の期間投薬をやめると、すぐに胃潰瘍が再発するなどといった研究結果も、製薬会社から公表されています。
ガストロガードは、いまもっとも効果があるとされる薬ですから、できれば少しでも安くなってくれれば良いのですがね。
あと、胃潰瘍は、飼い葉はよく食べるという馬たちの中にも、患っている馬がいます。この場合は、飼い葉を食べているのに毛づやがさえなかったり、馬体の張りが戻ってこないなど、そのようなケースから判明したりします。
胃潰瘍は能力発揮に影響を及ぼすだけでなく、疝痛の要因にもなり得るので、決して楽観してはならないと僕は思っています。
しかも、人間は言葉で不快感を表現することができますが、馬はこちらが察してあげなければなりません。細心の注意を払って対処していく必要があると感じているんですよね。
長くなってしまいまして、どうもすみません。
来週からは、「美浦にいちばんいない調教助手」として内部で知られている、小島茂之厩舎所属の斎藤隆介調教助手との対談がスタートします。海外での経験も豊富な助手だけに、楽しい話が満載ですので、どうぞお楽しみに。
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