ヨーロッパの人たちは馬具の使い方が的確だと思わせられたそうです
2010.12.23
先週は、新馬戦で2着と頑張ったダハシュールが未勝利戦に挑んだのですが、残念ながら11着に敗れてしまいました。
坂路では良い動きを見せていて、素質があるのですが、成長途上の部分が残っているということなのでしょう。
新馬戦など若駒のレースは、そういう不確定要素が多いと感じます。例えば、時計にしても、新馬戦で良い時計で走ったから次は確勝ということではなくて、展開だったり、メンバーだったり、そして馬自身のコンディションだったりによって、変わってくることは珍しくありません。
2歳や3歳の早い時期の馬たちの戦いは、そういう面があることをみなさんも覚えておいてください。
さて、今週は、斎藤隆介助手との対談の2回目になります。それでは、どうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)隆ちゃんは持ち乗りと助手の両方の経験があるわけですが、どちらが楽しかった?
斎藤隆介調教助手(以下、斎)楽しいということで言えば、持ち乗りでしょう。2頭の担当馬にビッシリと手をかけることができるし、プラスして進上金もいただけるという部分もありますからね。
[西]調教助手をやっていて、たまに気になるというか、好きな馬がいたりすると、持ち乗りでビッシリやってみたいなぁとは思う。
[斎]それはありますね。
[西]運動からレーザーから、全部やりたくなるんだよね。助手は全部できないでしょう。
[斎]わかる。助手としての理想というか、本当は、厩舎全頭について、そういう部分まですべてを把握できれば最高でしょうからね。仕草ひとつでその馬の性格を理解して、状況に応じた対応ができるようになれたら良いとは思う。
[西]そうなれたら良いね。
[斎]それこそ、驚き方ひとつでも違いがあるわけで、そういう部分は、扱っている人間がより理解できること。助手は、馬が出しているサインになったりすると、把握し難い部分ではありますからね。
[西]普段、馬房での様子とか、気を付けて見るようにするけれど、いつも傍で見ているから分かる部分というのは、どうしてもあるよね。ちょっとした仕草から対応できることってあると思うんだけど、例えば、驚き方ひとつでも、程度だけではなく、原因が異なるわけで、それに対しての対応も変えなければならないと思うわけですよ。そういう見極めって、難しいと思うのですよね。
[斎]難しいですよね。
[西]個人的には、最近、メンコの使い方が気になってるんですよ。「うるさいから付ける」みたいなところがあるんだけど、どうなのかと思う。
[斎]アイルランドで感じたことのひとつに、「ヨーロッパは馬具の使い方が的確だ」ということがあるのですよ。向こうにメンコはないのですが、特殊馬具も含めて、それを使うことで得られる効果を良く知っているというか、的確に使ってくるところがあるんですよね。
[西]やっぱり、そうなんだ。
[斎]凱旋門賞を勝ったワークホースが口向きが悪いのは有名ですけど、先日、ウチの厩舎にR・ムーア騎手が来た時、その話をしたのです。
[西]ワークホースは馬具を装着しているよね。
[斎]凱旋門賞のゴール前を見てもらえば分かるけど、手綱がブランブラン状態になっていたんですよ。「なんでなんだろう?」と思っていたので、聞いたんだけど、「ハミを当てにいっちゃうと、逆にモタれてしまう」と言うんですよ。あの直線で、「いちばん体を伸ばしたフォームで走っている時だからこそ、逆に当てない方が上手くコントロールすることができる」と言っていました。
[西]へぇ、そうなんだ。とても考えつかなかった。
[斎]ダービー前に負けて、クロスノーズバンドを付けたところ、ダービーを圧勝することになったわけですが、クロスノーズバンドの効果がテキメンだったということですよね。そういうように、心得ではないですけど、馬具の特徴を最大限に引き出す使い方は、本当に的確だし、上手です。
[西]隆ちゃんがいたJ・オックス厩舎もそうなんだ?
[斎]そうです。基本はノーマルな馬具を付けるのですよ。だけど、そこから見せる癖に対して、馬具で対応していくのですが、それが実に的確なんです。日本でも同じような対応をしますけど、その使い方の的確さという面では凄いと思わせられます。
[西]鼻革ということで言えば、日本人は下手なのかと思ったりもするんですよね。ノーマルなもの以外でも、クロスにするとか、コンビにするとか、それともドイツ鼻革にするべきなのか、効果はあるのだから、いろいろ考えなければならないでしょう。
[斎]馬具には必ず効果があるわけですからね。ハミも何種類もありますが、それぞれ効果が違ってきます。
[西]ヨーロッパの馬たちは、よくハミ釣りを付けていますが、あれはどういう時に付けたりしてるの?
[斎]ヨーロッパの馬たちは、ハミ釣りを付けている馬は結構多いかもしれませんね。僕がいたJ・オックス厩舎はあまりしなかったですけど、舌を出す馬とかには装着されることが多い。簡単に言えば、ハミの支えで、コンタクトを常に一定にするのが狙いですね。
[西]日本ではあまり見かけないですよね。
[斎]そうですね。パッと思いつくのはメジロドーベルですか。あまり見かけないですよね。でも、ハミ釣りも含め、馬具は深いです。
[西]でも、ワークホースはクロスに替えてダービーを勝つわけだから、本当に的確なんですね。
[斎]凱旋門賞でも、中団より後ろで、内々でじっとしているように見えましたよね。でも、あれで結構引っ掛かったりしているらしいんですよ。
[西]あっ、そうなんだ。引っ掛かっているんだ。
[斎](ムーア騎手が)そうだって言っていましたよ。それでも、じっとしているんだから、驚かされますよね。それで、「最後に内が開く予感がした」って言っていました。「ずっと狙っていたの?」と聞いたら、「開く予感があったんだ」と言うんですよね。
[西](エリザベス女王杯で)スノーフェアリーが勝ったからというわけではないけど、ウチも2頭乗ってもらってみて、R・ムーア騎手は、まずは内を狙うみたいなところを感じた。
[斎]それはあるかもしれませんね。
今週はここまでとさせていただきます。
いよいよ年末ということで、2010年を振り返ると、真っ先に思い出すのは、ミンナノアイドルの存在なのですよね。
東京競馬場で迎えたデビュー戦のパドックでは、普通のレースとは明らかに違う、和みの雰囲気を感じたことはいまでも鮮明に覚えています。
結局、一戦のみで引退となってしまったからということもあるのですが、個人的には、ダービーが行われる舞台である東京競馬場でデビューさせられることができて、そのことは良かったと思います。
競走馬は経済動物であり、あまり感情移入をしないように接しています。もちろんミンナノアイドルにも、距離を置かなければならないという思いはあったのですが、1歳の時から見ていて、西塚厩舎にお預かりする予定だったこともあり、どうしても気持ちが入ってしまう部分がありました。
ただ、そういう部分を省いても、競走馬として、僕自身は魅力的な存在だと感じていたのです。ハミの取り方だったり、身のこなしだったり、未勝利で終わる馬ではないという感触がありました。
お母さんとなる予定ですので、今度はその仔たちを手掛けられれば幸せなんですけどね。
今年もいろいろなことがありましたが、いよいよ今週がラストの競馬となります。ですから、みなさんも目一杯競馬を楽しんでください。
最後はいつもの通り、「あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします」。