高橋先生に「断髪式」の話を詳しく伺いました
2011.2.3
先週は、土曜日(29日)の東京6レース(芝1400m)でサクラゴスペルが新馬勝ちをしてくれました。
元気いっぱいの馬なので、パドックはもちろん、馬房から装鞍所も付き添っていきました。朝4時から調教に乗り、そこから競馬場に向かってもいたので、嬉しさとともに心地良い疲れも感じることができました。
競馬に行って変わるタイプ(馬)が存在し、走ってみなければわからないと言われる馬がいますが、サクラゴスペルは調教では若さばかりを見せていて、正直なところ、その点がどうかと思っていたのですよね。
真面目に走った時のキャンターなどは素質を感じさせてくれるのですが、周囲の馬を気にしてみたり、走ることよりも遊ぶことに気持ちがあったりしていたのです。
言い方が適切かどうかは分かりませんが、ふたつの面があるわけで、競馬に行ってどちらが強く出るのか、それこそ走ってみなければわからないわけですよ。
今回は良い面が出てくれてホッとしました。ただ、正直なところ、あそこまで人気になる(1番人気)とは思っていませんでした。
体がしっかりして、精神的にも大人になって、心身両面で成長していってくれたら、馬格もあるので楽しみだと思っています。とにかくここから慎重に対応していきたいと、僕自身も思っています。
今週は、高橋義博先生との対談の後編になります。「断髪式」についての話も詳しく伺ったので、どうぞお読みください。
西塚信人調教助手(以下、西)中山大障害を優勝した馬の多くは、春の中山グランドジャンプに向けて、その前に福島とかの500万円下をひと叩きして出走します。その後は夏を休養して、再び暮れに向けて仕上げていくという傾向が強くなっていますよね。
高橋義博調教師(以下、高)そうですね。でも、(バシケーンは)それができないんですよ。
[西]平地未勝利だからですよね?
[高]そうです。ローカル開催の500万円下で、フルゲートに満たないケースしか出走できないですからね。もう、斤量を考えながら、選んで出走させていくしかありません。
[西]障害戦だと、簡単に斤量70kgとかになってしまいますからね。しかも、障害のハンデ戦も消滅してしまいましたから、大変ですよね。
[高]おっしゃる通りです。
[西]でも、最優秀障害馬も受賞されて、本当におめでとうございます。
[高]ありがとうございます。ただ、ライバルたちが順調さを欠くなど、幸運でもありました。
[西]でも、今回の結果を見て、オーナーと一緒に競馬をしているという感じがして、僕自身、良いなぁと思いました。
[高]実は、前年(09年)の暮れ(中山大障害)も、投票すれば出走できたのです。ただ、まだ63kgを背負って、4000mを走るのは厳しいと感じていたので、「待ってください」と申し上げたのです。そうして春のグランドジャンプは出走させたのですが、馬場が悪くなってしまいましたから、とにかく無事を祈っていました。実際、「この馬の力を発揮できなかった」と蓑島も言っていたのです。
[西]それが1年後に勝っちゃうわけですね。
[高]そうなんですよ。勝っちゃいました。でも、この馬は四肢が本当に丈夫なんです。体は小さいですが、先ほどもお話をしたように、学習能力も高いのです。
[西]障害は、最初から上手な馬は意外と良くないと言いますよね。
[高]ウチで初めて障害を勝ったハイヤーザンヘヴンという馬がいたのですが、この馬は最初から上手でした。
[西]でも、大障害を勝ったのはバシケーンだったわけですよね。
[高]そうなんですよ。
[西]そういえば、最優秀障害馬に選ばれ、先生が断髪式をされた様子は、年度代表馬選出の記事にも負けないくらい大きな記事でしたよ(笑)。
[高]驚きました(笑)。
[西]髪の毛は、勝ってすぐに切ろうと思われたんですか?
[高]いえ、切実に切らなければならないと思ったのは、翌日ですかね。もし切らなければ嘘つきになってしまいますからね。ただ、どうやってやればいいのか?と思ったのですよ。お相撲さんなら、親方などの関係者や、切る場所も決まってるのでいいですが、こちらはそうではありませんから。でも、皆さんとすれ違うたびに『いつ切るんだ?』と言われるわけですよ。
[西]それで、いつの間にか、本当の断髪式になったわけですね(笑)。
[高]何人いらしてもいいように厩舎にしたのですが、誰も来なかったら逆に恥ずかしいので、『参加自由』として、「高橋義博の髪を切りたい会」と調教スタンドとJRAさんの事務所に告知させていただいたのです。
[西]結局、何人いらしたのですか?
[高]50~60人ですね。
[西]えっ!? そんなにですか。
[高]後藤浩輝さんは草刈機を持って登場してくれましたからね。
[西]いいですねぇ。ちなみに、切られた後のチョンマゲはどうしてあるのですか?
[高]家にあります。
[西]飾ってあるのですね。
[高]そういうわけではないのですが、どうしたものかと思いまして。
[西]断髪式では、蓑島がいちばん嬉しそうですね。
[高]みなさんに切っていただければと思ったのですが、一番最初と最後の人だけは決めさせていただいたのです。
[西]最初はどなただったのですか?
[高]美浦トレセンの場長さんでした。
[西]それも凄いですね(笑)。それで最後が蓑島だったわけですね。
[高]そうです。他の人にも声はかけさせていただいたのですが、こうなったらミノですよね。
[西]結局、何人がハサミを入れたのですか。
[高]13人だったでしたかね。
[西]うはははは(笑)。目立つために伸ばしたとおっしゃっていた髪の毛ですが、落とすと寂しいものですか。
[高]そうですね(笑)。(断髪式を)行なったのが木曜日だったのですが、投票日じゃないですか。後ろは短いですが、横は伸びたままだったのです。出走の連絡を馬主さんたちに終えて、夕方に家に帰った時、これでは困ると思って、綺麗にするために美容室に行きました。
[西]惜しいですね。
[高]それよりも寒いです。
[西]あっ、なるほど。でも、ウチパクさん(内田博騎手)に「若い」って言われたらしいじゃないですか(笑)。
[高]ウチパクさんに、「若い」じゃなくて、「馬鹿でしょう」って言いました(笑)。
[西]今後、髪の毛はまた伸ばすのですか?
[高]どうしましょう。いま考えているところです。いまのままだと散髪に行かなければなりませんからね。元来、ズボラな性格ですから、どうでしょうか。
[西]奥様は何とおっしゃっているのですか。
[高]「また伸ばせば」と言っています。
[西]そのあたりもまた宣言していただけるといいのですが。
[高]いや、もう言いませんよ。
[西]うはははは(笑)。それこそ「次は坊主だ」と言わされかねないですもんね(笑)。
[高]実際に、宗像君(宗像騎手)は、「バリカンを持っていく」と言っていたんですから(笑)。
[西]あははは(笑)。いやぁ、でも、いい結果で楽しい話題になって、本当に良かったと思います。本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
[高]いえ、こちらこそありがとうございました。
今回、急遽、『バシケーン優勝おめでとう企画』として高橋義博先生に登場していただきましたが、対談中にも話をしたように、今回の優勝は、他の厩舎のことながら自分のことのように本当に嬉しく思いました。
厩舎を取り巻く環境の厳しさについては、下剋上日記の時からお話ししてきていますが、そのような状況の中で上に這い上がれるチャンスが障害だったりするのだと思います。実際、僕自身も西塚厩舎でG1に出走させることができたのは、中山大障害でしたから。
障害競走は、平地競走ではオープン馬で力があるはずなのに、障害ではその通りにならなかったりすることもあり、個人的にはそういう面にも面白味を感じるのですよね。
地道に努力して頑張っていけばチャンスがあるんだということを改めて教えてもらいましたし、そういうことも競馬の大切な一部分だと思うのです。
これからも、障害についても積極的にお伝えしていけたらと思っています。次回からは『バシケーン優勝記念企画・第2弾』として、優勝ジョッキーの蓑島靖典騎手との対談をお届けしたいと思っていますので、こちらもどうぞお楽しみに。
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