バシケーンの強さの秘密はバンケットにあり!? 蓑島騎手に聞きました
2011.2.17
月曜日の夜から火曜日にかけて、都心でも大雪となったようですが、美浦トレセンもかなりの降雪を記録しました。
除雪が間に合わず、ダートコースのみ、いまの時期における通常の開始時間である7時から、普段よりも2時間遅い14時まで開場される形となりました。そんな中、雪の影響を嫌い、遅く始める厩舎もあったのですが、我が尾関厩舎は普段通り調教を行いました。
降雪の場合、競馬もそうですが、調教もダートコースが開場される確率がいちばん高いと言われています。なぜかと言えば、除雪がしやすいからです。
ダートコースは、美浦の南コースで言えば、大外のDコースと最内のAコースになりますが、実は、そこへ行き帰りする時に通る地下道は滑るので、危なかったりするのですよね。ひどい時には、Dコースに直接入ることができる入場門を開ける形で調教が行われることもあります。
突然の大雪が火曜日だったことも、「よりによって」という感じがしました。もしこれが木曜日だったら、前日に速いところをやっているので、軽め、あるいは運動のみでということもできるのですが、火曜日だと翌日に追い切りを控えていて、2日も楽はさせられない状況なのです。
普段はそこまで馬たちが入っていないAコースに、今回はもの凄い頭数の馬たちがいて、渋滞してしまっていました。普段は馬が落ち着いて走れるはずのAコースなのですが、馬が多く、悪化した馬場から出てくる水の跳ねる音に反応したり、雪に物見をしたりと、かなり騒々しい空間になっていました。
なかなか苦労をさせられたわけですが、ただ、昔はダートコースと芝コースしかなかったわけですよね。昔はそのような状況で仕上げていたのかと思うと、改めて凄いと思わせられる部分があります。
確かに、昔は故障する馬の数も多かったのかもしれませんが、いまほど恵まれた環境ではなかった中で、仕上げていっていたわけですから。
大雪に見舞われて、先人達の凄さと、改めていまの環境が恵まれていることを感じながら、今週は調教したというわけです。
さて、今週は蓑島靖典騎手との対談2回目となります。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)バシケーンの良いところって、どこなの?
蓑島靖典騎手(以下、蓑)こちらの思い通りに乗れるところですかね。他の馬たちの多くは、自分の形で競馬をしなくてはならなかったりするんです。それに対して、(バシケーンは)以前は好位置で競馬をしていたこともありますし、自由に競馬をすることも可能と言えば可能なのですよ。もし、「次のレースは前で」と言われれば、できるにはできます。
[西]自分の形で、ということで言えば、障害の方がそういう傾向が強いかもしれないね。
[蓑]そうですね。極端な言い方をすれば、前にいて、いちばん速い上がりで行ければ勝つんですからね。普通のレースでは、他の馬もバテますし、やはり好位置での競馬ということになるのですが、大障害だけは別なのですよ。スタミナの消耗度も明らかに他のレースとは違いますので、どれだけロスしないかという部分が活きてくるのです。
[西]そうなると、自在性があるのは武器だよね。
[蓑]もっと言うと、(バシケーンは)馬の後ろに入れることができれば、前でも折り合えるのです。ただ、どうしても競馬の中で、前の馬たちの出入りを含めて動きがありますので、勝負どころまで前に壁があるわけではありません。また、大障害はペースが遅いので、掛かる可能性は高くなって、実際に行ってしまう馬たちも少なくありませんでした。
[西]今回も出入りが激しかったよね。
[蓑]どうしても、みんなゆっくり行きたいという意識が働くのですよ。そこでゴチャゴチャしたりすると、エキサイトして引っ掛かってしまう可能性が高くなるわけです。
[西]だったら、馬が少ないところでじっとしていた方が良いと思うわけだね。
[蓑](バシケーンは)それができるから凄いのです。
[西]最初から素質は感じていたの?
[蓑]良くなっていると感じたのは、宗像さんに乗ってもらった後(08年秋)でしたね。初めての障害が3歳(08年)の夏だったので、そうなるのは自然なことでしょう。
[西]そうだ。
[蓑]同級生たちはダービーに出走しているわけです。
[西]その中で、障害練習をしていたわけだ。平場では大庭が乗っていたんだけど、結果が出なかったんだよね。
[蓑]そういう流れでもあったので、「平場でオープンでした」という馬とは、正直、違って見ていた部分はありました。でも、背中が良かったのですよ。
[西]大庭も「背中は良い」って言っていた。
[蓑]ただ、何よりも、最初は障害の飛び方が凄かった(苦笑)。
[西]障害のデビュー戦では逸走しそうになっていたでしょう。
[蓑]最初は捻って飛んでいたんですよ。そのために、アブミが外れてしまって、履き直せていないうちにコーナーに入って行ってしまいました。あれでは曲がれません。
[西]あれ、普通は落馬だよね。そこから、落ちることなく、よくレースに戻れたよ。
[蓑]しかも最後は詰めてきましたからね。いやぁ、スタミナは相当あるんだと思いました。
[西]あれはインパクトが強かったので、よく覚えていますよ。上がり運動でバシケーンと一緒になったりするんだけど、助手さんが「スイッチが入ると凄い」って言っていた。
[蓑]暴れたりということはないのですけど、とにかく燃えるんですよ。どちらかと言うと前向きで、走りたがりですね。
[西]体もずいぶん変わった印象を受けるんだよね。以前は、ちょっと言葉は悪いかもしれないけど、細くて小さくて、鹿みたいな馬という印象だったから。
[蓑]変わりましたよね。筋肉が付いて、張りが出て、明らかに体が違っています。僕が鎖骨を折って、帰ってきて跨った時、『あれ、良くなった』と感じたんですが、2着に入りましたからね(09年2月)。そういえば、あの時も後ろから競馬をしました。
[西]あっ、そうだったね。
[蓑]ゲートを出なかったので後ろからになったのですが、伸び脚が尋常ではなかったのですよね。障害未勝利ですと、前残りというケースがとても多いのですが、後ろから行ってバンケットあたりから外に伸びてくるというのは、なかなかありません。
[西]バンケットで勢いが付くというのは、あまりないよね。普通は逆にスタミナを奪われるんじゃないの?
[蓑]そうですよね。
[西]バンケットを駈け上がって、次の障害で減速、あるいは落馬してしまうケースも少なくないよね。
[蓑]バンケットは向いていると思っていたのですが、正直、ここまで得意とするとは思いませんでした。
[西]何が嫌だって、多くはバンケットが嫌のはず。それを苦にしないというのは珍しいでしょう。
[蓑]関西馬の方がバンケットは苦手かもしれませんね。
[西]なるほどね。読者の方々に説明すると、下って登るというバンケットは美浦にはあるけど、栗東にはないんだよね。
[蓑]そうです。
[西]大障害は、バンケットを通るのが何回だったっけ?
[蓑]6回ですね。
[西]未勝利など、普段のレースでは何回になるの?
[蓑]4回です。
[西]バンケットを上がった時にフワッとなって、一気に手応えがなくなることが多いらしいですよね。
[蓑]急ですから、登り切ったところで、大きく息が入るんですけど、そこでパワーというか、手応えが返ってこないのですよ。「えっ!? どこへ行ってしまったの」という感じです(笑)。
[西]そうなんだ。でも最後にも障害があるよね。
[蓑]あそこはマズイと思いますから。逃げていて、最後に手応えがなくなって障害を飛ぶ時には、すいませんと思います。
[西]そう考えると、ひとつの障害として扱われているバンケットを得意とする馬というのは珍しいよね。
[蓑]福島は逆に登って下るという障害になっているのですが、慣れもあるんじゃないかと個人的には思います。
[西]慣れねぇ。でも、これでチャンピオンだね。
[蓑]そうなのですが、ここからは63kgを背負わざるを得ないのです。関西の重賞だけは62kgからですが、他の馬たちよりも重い斤量で走らなければならないわけですよ。そのような過酷な状況を克服して、グランドジャンプ、大障害へ向かわざるを得ないということは、決して楽ではありません。過去の勝ち馬たちもその部分と戦い、苦しんできたのだろうと思いますよ。
今週はここまでとさせていただきます。
何人かの方々から、「ノビーズはどうした?」という内容のメールをいただきましたが、昨年末にライヴをした後も練習に励んでおります。
上の方(松岡騎手)が日記を終了したということで、ノビーズの露出、あるいは話題が減ってしまっていると感じられる方が多いようですが、しっかりと活動しておりますので(笑)。
夏までには、一度、ライヴを開催させていただきたいと考えておりますので、決まり次第また告知をさせていただこうと思っています。その時は、またどうぞよろしくお願いいたします。
なお、今後、ノビーズについては、この対談とホームページ等などで告知させていただくつもりでおりますので、ご理解をいただければと思います。
ということで、最後はいつもの通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうか、よろしくお願いいたします』。