今週から元騎手の小林久晃調教助手との対談です!
2011.3.10
先週掲載した黛騎手の件について、久しぶりに読み切れないほどのメールをいただきまして、本当にありがとうございます。
僕自身、賛否両論あることは承知していたつもりですし、みなさんからの反応を楽しみにお話をさせていただきました。どちらの意見についても、メールをくださった方々全員に感謝しております。本当にありがとうございました。
肯定的なメールをくださった方々にも、批判的なメールを下さった方々にも、ひとつお伝えしたいことがあります。それは、黛騎手の行為に対して、正しいとか、仕方がないということではなく、批判したい方は批判をされるのがいいと思います。ただ、批判することと、黛騎手の存在を否定することは違うのではないかと思うのです。
それともうひとつ、この件について話をしようかどうか、正直迷った部分がありました。でも、関係者たちのブログなどを見ていて、ほとんどがあってはならんことという論調だったのです。
罪を憎んで人を憎まずという言葉が当てはまるかどうか分かりませんが、やったことはいけないけど、でも許してあげよう、という人間がいてもいいと思って、敢えて書かせていただきました。
本当は、メールをくださった方々ひとりひとりと何か繋がりを持ちたいと思うのですが、なかなか難しいのが現実です。でも、こうやってメールをいただけるのですから、何か行ったり来たりの方法があってもいいと思うんですよね。
これからも頑張っていきますので、ぜひメールの送信もよろしくお願いいたします。
さて、今週は、菊川厩舎所属の小林久晃調教助手との対談がスタートいたします。元騎手ということで、いろいろなお話が聞けました。僕自身、とても勉強になりましたので、みなさんもぜひ読んでいただければと思います。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)今回は小林久晃調教助手をお迎えしての対談をお送りしたいと思います。久晃さん、今日はよろしくお願いいたします。
小林久晃調教助手(以下、小)コバキュウです。よろしくお願いいたします。
[西]僕は「コバキュウさん」と言うのが怖くてですね、なかなか呼べなかったのですよ。いつか呼んでみたいと思っていたんですから。
[小]みんな、遠慮なく「コバキュウ」と呼んでるから。年下に「久晃」って言われているくらいだから。
[西]マジッすか!?
[小]そうだよ。呼ばれたら『はい、何ですか?』って答えているよ(笑)。
[西]いや、絶対に言えませんよ。久晃さんに対しては、最初、なんか怖いイメージがあったんですよ。
[小]あっ、そう? 他の厩舎の人たちからも「第一印象は怖かった」と言われたことがあるな。
[西]そうですか。
[小]なんで、そう見えるのかなぁ。でも、実際に話をすると、そんなことないでしょう?
[西]はい。阿部厩舎とかに行った時、谷中さんと仲良く話している姿を見て、そこまで怖い人じゃないんだなぁと思いました。本当に怖かったら、面と向かって「怖い人です」とは言いませんからね(笑)。
[小]本当に怖いと思っていたら、話しかけてもこないだろうしね(笑)。
[西]久晃さんは、騎手として活躍されてきたわけですが、同期はどなたになるんですか?
[小]豊(吉田豊騎手)、太郎(高山太郎元騎手)、岩部だね。関西で言えば幸、渡辺、植野、菊地(菊地昇吾元騎手)たちかな。今回の(幸騎手の)不服申し立ての一件は、同期として応援している。
[西]あっ、そうですね。いつも思うことなのですが、調教師や僕たち調教助手の中にも、競馬に乗ったことがない人間がいますよね。でも、パトロールフィルムを見ながら、「このスペースが」とか「ここは内へ」とか言っているのを耳にするのですが、正直、どんな感覚なのか分かんないのですよ。
[小]ハッキリ言うけど、分からないだろうね。パトロールフィルムを見て、その感覚で話はできるかもしれないけど、それを立体的にイメージすることはできないでしょう。テレビゲームのように、画面を見ていれば、動きそのものは理解できるよね。でも、3Dに変換できるかと言えば、できないでしょう。
[西]馬との距離とか、競馬に乗ったことがない人間には分からない部分があると思うんですよ。
[小]絶対に分からないと思うよ。3方向からの映像を見て、スペースがあるように映っていて、『なんでそこへ行かないんだ?』とか言われるけど、乗っている人間は「行けない」という感覚を覚えているから、行かないんだよ。誰でも勝ちたいし、ひとつでも上の着順がほしいのだから、行ければ行く。
[西]真横からの映像では、内、外への動きは分かりませんよね。
[小]分からないよね。逆に正面からの映像だと、前と後ろの距離が分かりにくいからね。だから、3方向からの映像があるんだけど、でも、それを見て、一瞬にして3Dが思い浮かぶことができるのは、競馬に乗ったことがある人間だけだろう。
[西]スペースの有無で言えば、競馬法規には『1馬身』と書いてありますよね。
[小]書いてあるけど、行ける・行けないという感覚はもう体に染みついているんだよ。そこには個人差があって、脚があっても入っていけない奴もいれば、こじ開けてでも入っていく奴もいる。
[西]なるほど。
[小]でも、本当に、映像と馬の上から見える景色は違うんだ。ここにスペースがあるじゃないかと言われても、実際にはそうは見えてないとか、逆に映像を見て、「何でスペースがないのに入っていった?」とか言われるけど、乗っていて「行ける」と感じていることはいっぱいある。
[西]当事者ではない時、他の場所で邪魔されたことに対して分からないということはあるんですか?
[小]それはあるよ。先団、中団、そして後ろと分けて考えた時、あまりに後ろにいると、前の出来事は分からなかったりする。逆に前にいたら、後ろの出来事はほぼ分かっていないから、ゴールして引き上げてくる時、審議ランプが付いていて、『どこで、何があったの?』と思うことは珍しくないよ。
[西]そうですか。
[小]9頭落馬した時があったよね?(2010年1月11日中山4R)。
[西]はい。久晃さんはあの時、乗っていましたよね?
[小]乗っていて、落ちた。あの時はすごく後ろにいたので、何が起こったか分からなかったんだ。何のアクションもなく、声が聞こえることもなく、次から次へと落馬をしていっていたので、故障馬が出てそれに巻き込まれたんだと思って。回避しようと考えたけど、結果的に巻き込まれてしまったんだよね。
[西]ある調教師がトップジョッキーに対して「何で動かなかったんだ?」と聞いて、「見えなかったんだ」と言っているのを聞いたことがあります。
[小]俺も経験があるよ。横画面で見ている調教師から、引き上げてきてすぐ『なんで向正面で動かないんだ!?』と怒鳴られた時には、さすがに『動かなかったんじゃなくて、動けなかったから動かなかったんだ』って言ったよ。
[西]横からの映像だけでは、本当のスペースとか動きは分からないですよね。しかも、多頭数となったら18頭で競馬をしているわけですし。
[小]何頭かの集団となるなかで競馬をしていて、思うように動けないこともあれば、動かさないようにすることもあるんだよ。乗っている側は、立体として、その瞬間、瞬間をとらえているのに対して、映像では3つの方向があっても、それぞれは平面でしかないわけだから。
[西]そうですね。
[小]動きにしても、大きい場合もあれば小さい場合もあるしね。
[西]騎手の人たちは一瞬にして何千、何万というレースの映像が3Dとして頭に浮かぶわけですから、乗ったことがない人では、埋められない部分はどうしてもありますよね。
[小]いま、夢で見るんだよ。
[西]えっ、何をですか?
[小]競馬の夢を見るんだ。それは横の映像じゃないよ。全部、縦画像、馬の上からの景色なんだ。
[西]凄いですねぇ。それだけ体に染み込んでいるわけですからね。乗ったことのない人間は、その映像がイメージできないし、夢に見ることもないわけですから。僕なんか、パドックで「55キロ」と言われて、「乗れないよ!」と騒いでいる夢しか見ませんよ(笑)。
[小]乗ってないんだ(笑)。
今週はここまでとさせていただきます。
実は、今回の対談に登場していただいている久晃さんと、西塚厩舎時代に一緒に仕事をしたフリーソウルが故障してしまいました。
腱不全断裂ということで、能力喪失となってしまいました。幸い、命は取り留めたので、第二の人生(馬生)を送ることになります。
フリーソウルは僕自身が名付け親でもありますし、入厩当初から個人的に能力を感じさせられていた存在でした。尾関厩舎になってから3勝をしてくれて、本当によく頑張ってくれたのです。
1000万円クラスになって、正直、勝ち切るには何かが必要だと思っていましたが、掲示板を確保するなどの活躍は状況によっては望めたはずですので、本当に残念です。
競走馬に対しては、日頃、経済動物だという認識で接していますし、そういう対応をしていますが、やはり過ごしてきた時間が長い馬というのは、どうしても感情的に思いが浮かんできます。
フリーソウルは、良血馬たちがいるなかで、マイナー血統と言われながら頑張ってきてくれました。そうですよ、一緒に下剋上を目指したのです。
今後については、繁殖牝馬、あるいは乗馬等、いまのところ未定ですが、もしその血がつながった時には携わらせていただけたらと思います。
ということで、最後はいつもの通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうか、よろしくお願いいたします』。