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“奇跡”ではなく“あきらめない”気持ちがもたらせた栄光
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/森鷹史

東北関東大震災による開催中止からの再開2週目。4月の中山開催の中止も発表され、皐月賞は差し当たり1週遅れでの東京での開催が決まった。

クラシックへ向けての牡牝それぞれの前哨戦となるスプリングSフラワーCは26日の阪神11、12Rで立て続けに行われたが、直線でかなり荒れたレースになりながら審議ランプが点灯することもなく、何か全体的にバタバタした印象がぬぐい切れなかった。

だが、ムードを一変させたのが27日未明ドバイでの快挙だった。世界最高峰ドバイWCでのヴィクトワールピサトランセンドのワンツーフィニッシュ

逃げてレースを主導したトランセンド、スローペースと見るや一気にまくって2番手まで押し上げたヴィクトワールピサ。積極的なレースで、ゴールまで耐え続けた“あきらめない”そのレースぶりは、まさに日本らしさを象徴していたように見えた。

「競馬で被災者に勇気を与える」という言葉には、当初は違和感も感じていた。競馬の仕事にもう30年関わってきているが、この未曾有の大惨事を前にした時に、競馬にそれほどまでの力があるだろうか、という不安もあったのだ。

だが杞憂だった。27日の阪神競馬場のムードは明らかに前日までと違っていた。久しぶりのG1ファンファーレが鳴り響くと、あの統一された手拍子が沸き起こり、いつもに近い競馬が戻っていた。明らかにドバイ効果の表れだったと思う。

レースもそのファンの歓声に応える、見応えのある激しいものとなった。ドバイWC同様に、有力各馬が積極的な攻めを見せる。前哨戦のオーシャンSを制した2番人気ダッシャーゴーゴーが3角から早めに先頭に並び掛ける。

それを見て、そのオーシャンSで後塵を拝した3番人気キンシャサノキセキリスポリ騎手は徹底マークでやはり早めに仕掛けて、直線半ばで競り落とす。これまでのキンシャサノキセキだったら先頭に立つとソラを遣う面もあったようだが、前走から使用しているというチークピーシズの効果だろう、集中力を切らさない。

先頭に立っても首を上げることなく、“あきらめない”気持ちで走り切り、追い込んだサンカルロアーバニティを寄せ付けなかった。まるでドバイWCを再現するかのようなレースで、“勇気”を存分に感じることができた。

ドバイではM・デムーロ騎手が肩に付けた喪章を抱きながらを流していたが、阪神でも同じ陽気なイタリア人のリスポリ騎手が目を真っ赤にしていた。

若き22歳のイタリア・リーディングジョッキーは、大震災後の放射能汚染を心配したイタリアの家族から帰国を勧められていたようだが、「日本のために少しでも力になりたい」と当初予定通りの滞在を決断した。

もし勝っていたのが日本人騎手だったら自粛していたかもしれない派手なガッツポーズだったが、そのにまみれた表情を見れば誰も違和感を感じることはなく、感激を共有することができたのではないだろうか。

キンシャサノキセキも立派だった。高松宮記念2連覇は初の快挙8歳馬による短距離G1制覇は、昨年のスプリンターズSを勝った香港のウルトラファンタジーに続いて2頭目

スタミナ勝負の長距離戦は高齢馬が活躍を続けることも多いが、瞬発力が求められ、脚部への負担も大きい高速の短距離戦は高齢馬による優勝連覇は極めて少ない。

44回の歴史があるスプリンターズSでも連覇サクライワイメイワキミコサクラバクシンオーの3頭だけ。その意味では短距離G1の常識を覆した連覇。しかも、震災の被害を受けた美浦トレセンで調整され、通常より厳しい輸送を克服しての優勝なのだからまさに快挙だった。

あまり語呂合わせは好きではないのだが、打たれても打たれてもじっと我慢を重ねて王者ジョージ・フォアマンを破ったキンシャサでのモハメド・アリの姿が、いまのじっと耐え続けている日本国民に重ね合う気がしてならない。

「キンシャサの奇跡」“奇跡”ではなく“あきらめない”気持ちがもたらせた栄光だった。あきらめない気持ちを持ち続ければ、日本の復興は決して奇跡ではない。