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安藤勝騎手の“柔騎乗”がマルセリーナを勝利へと導いた
写真/森鷹史
文/鈴木正(スポーツニッポン)

大混戦の桜花賞マルセリーナが制した直後、テレビのゲストとして実況席に座っていた岡部幸雄元騎手がこう話した。「安藤(勝己)騎手は桜花賞の勝ち方を知っています」

偉大な元騎手への後乗りで申し訳ないが、まさにその通りだと、うなった。51歳14日での桜花賞4勝目は、安藤勝騎手にしかできない、勇敢な騎乗でつかんだものだったと思う。

上位3頭の4コーナーでの位置取りが、そのことを象徴している。マルセリーナイン2頭目付近。一方、②着ホエールキャプチャ、③着トレンドハンターとも大外だ。この内外の差が最後の4分の3馬身差となったように思えてならない。

上がり3Fはトレンドハンターが34秒2、マルセリーナホエールキャプチャが34秒3。使える末脚がほぼ同じなら内を回った方がゴールに近づくことは自明の理である。

もちろん外を回した池添騎手岩田騎手を責めているのではない。大一番で無理をして不利を受けたくないのは当然。何よりともに8枠からのスタートだったのだから仕方ない。むしろG1舞台で馬群を恐れずにインから運んだ安藤勝騎手が凄すぎるのだ。

徐々に外へと運び、そのたびに前が開いてマルセリーナがしっかり脚を伸ばすのを見て、ホエールキャプチャ①着固定の馬券しか持っていなかった自分は「また安藤さんの“柔(やわら)騎乗”にやられた」ゴールする前から唇を噛んだ。

柔騎乗とは自分が勝手に名付けた、安藤勝騎手の超絶騎乗のことだ。安藤勝騎手に競馬の極意を聞くと、名手はいつもこう答えた。「勝とうと思ったら勝てない。負けていいや、ぐらいの気持ちで乗ると、なぜかうまくいくものなんだよ」

勝とうと意識して何もいいことはない、むしろ負けてもともとという気持ちで、普段通りの攻めの騎乗をすれば道が開ける安藤勝騎手はそう言いたかったのだろう。安藤勝騎手信念が凝縮したような桜花賞だった。

この見事すぎる騎乗には布石があった。松田博資調教師騎手に乗り方を指示するようなタイプではないのだが、それでも今回はたったひと言、こう言った。「4コーナーで外を回さずジッとしておいてくれ。それでも十分に間に合う馬だから」。このアドバイスは相当に深い。

まず、馬群を突いて不利を受けて負けたとしてもオレが責任を取る、と暗に言っている。鞍上の気持ちは楽になり思い切った騎乗ができる。そして、マルセリーナの力を指揮官が高く評価していることも分かる。鞍上には、あらためて自信が芽生えたことだろう。つまり松田博師は、たったひと言で安藤勝騎手勇敢さ自信を授けたのだと思う。

絶対的女王と思われたレーヴディソール戦線離脱しても、同じ松田博厩舎からマルセリーナがその穴を埋め、トレンドハンターが銅メダルをつかむ。松田博師の心憎い安藤勝騎手へのアドバイスを聞けば、この結果、そしてブエナビスタを筆頭に名馬を次々と輩出することが、決して偶然ではないことが分かる。

人の、そして馬の心の機微を知り、大一番でも平常心で実力を出し切らせる松田博師真骨頂と言える一戦だったのではないだろうか。

②着ホエールキャプチャも力を出し切った。何度も挙げて申し訳ないが、大外を回してのあの脚ならメンバー中トップの力の持ち主と言い切ってもいいだろう。

ただ、今回は外枠を引いたこと、1番人気となったことなどがプラスに作用しなかっただけのことだ。オークスでの巻き返しは十分にある。③着トレンドハンターフラワーCからの中1週と苦しい状況下で、素晴らしい決め手を披露した。血統的にもオークス向きだろうから、楽しみが広がる。

蛇足ながらもうひと言。マルセリーナ勝利を見て、ディープインパクトは勝負強い種牡馬となるであろうことを確信した。かつてのサンデーサイレンス産駒がそうだったように、ディープ産駒G1に強い気がしてならない。