あの末脚はクラシック戦線全体を抜け出す脚でもあったか
文/安福良直、写真/川井博
23年ぶりの東京開催となった
皐月賞。今年は絶対的な
本命馬が
不在で、23年前の
皐月賞に何かしら
ヒントがあるのではないかと思い、そのときの勝ち馬
ヤエノムテキとの
共通点を持つ馬を探してみた。
ヤエノムテキは通算3戦2勝で出走馬の賞金順では最下位。これはまさに
ロッカヴェラーノと同じだ。いや、
ヤエノムテキは
1枠1番だったから
ステラロッサか? はたまた、
ヤエノムテキはダートで
2勝を挙げていたから
ノーザンリバーもあるか?
などといろいろ考えていたのだが、結果は
オルフェーヴルが、②着以下に3馬身差をつけて文句なしの圧勝。
ヤエノムテキとの
共通点は……
栗毛というところくらいでしたね。
また、23年前の
皐月賞は2頭が斜行で
失格になるという荒れたレースだったが、今回は
不利を受ける馬がいない
クリーンな競馬。それだけに、
勝ったオルフェーヴルの強さが際立ったレースと言える。
オルフェーヴルは
ドリームジャーニーの全弟で、これで
兄弟でのG1制覇。しかも、
兄が勝てなかった
クラシックレースでの勝利で、母の
オリエンタルアートは日本を代表する
名牝の仲間入りですね。
それにしてもこの兄弟、似ているところもあれば違うところもあって、なかなか
興味深い。差し馬でスタートが
ひと息、というところは同じだが、
兄が天才肌で2歳時に一度は完成された感じだったのに対し、弟はじっくりと成長している印象がある。
つい最近まで
「同じ頃の兄と比べるのはまだまだ……」と言われていたような気もするのだが、気がついたら
クラシックレース制覇という点で
兄を越えてしまった。そんな印象だ。
このあたりの
成長力は、ノーザンテーストのインブリードの賜物か。父
ステイゴールドに母父
メジロマックイーンという組み合わせもいいが、それ以上に
このインブリードが底知れぬ成長力をオルフェーヴルに与えているのだろう。
大外をブン回して追い込む
兄に対し、
弟は馬群も問題なく、今日は1頭分の空いたスペースを見事に突き抜けてきた。これまで勝ったり負けたりを繰り返してきたが、そうしているうちに
泥臭い競馬ができるようになったのだろう。これに血統から来る
成長力も加わっての勝利という感じなので、
今後も強い競馬が期待できるはずだ。
このように、
前哨戦あたりから一気に力をつけてきた馬が
皐月賞を勝ったケースといえば、思い出すのは
テイエムオペラオーや
メイショウサムソン。
前者は
ダービーで負けて
後者は勝った。
オルフェーヴルもこの勝利で
世代ナンバーワンに躍り出たと言っていいだろうが、
ダービーも勝てると断言するのは、まだちょっと早いとは思う。
ただ、3馬身差をつけられた②着以下の馬たちからは、正直言って、
逆転への手応えはあまり感じられない印象を受ける。②着の
サダムパテックはスタートでいつものように後手を踏んで後方からの競馬となったが、結果的にはさらに後ろにいた
オルフェーヴルに負けている。直線で、
オルフェーヴルが抜けてきたスペースを後から追いかける形になったのが誤算。馬込みを捌く脚に
課題が残っている感じ。
③着の
ダノンバラードは、前走で大敗を喫していただけにこれは
好結果。今まで末脚の切れ味で勝負してきたが、今回は
ある程度先行して頑張る競馬ができたのも収穫だろう。
武豊騎手としては、
テイエムオペラオーを
アドマイヤベガで負かした
ダービーと同じ手応えを感じることができたかどうかが、
逆転のカギになりそう。
ということで、
混戦と言われた今年の牡馬クラシック戦線だが、
成長力を見せつけた
オルフェーヴルが一気に抜け出した。
今日馬群を抜け出したときの脚が、そのままクラシック戦線全体を抜け出す脚でもあったかな。
ダービーで逆転があるとすれば
ダノンバラードか、それとも
別路線から来る馬か。ダービー馬候補はかなり絞られたように思うのだが、どうだろうか。