今後も何か少し変われば、また違うチャンピオンが登場するかも
文/浅田知広、写真/森鷹史
果たして、このレースを
「天皇賞(春)」と呼んで良いのかどうか、なんていう結果すら考えられたレース前半の
遅い流れ。もちろん先頭や好位にいる馬なら、よほどの切れ味不足かスタミナ型でないかぎり、
スローに落としたいのは当然だと思われる。
ただ、そんな
落ち着いた流れになっても、後方に位置した
馬の
騎手も自分から動いて目標になりたくないとか、一度でき上がった流れを壊しにかかってしまうのもどうか、などという
心理が働くらしい。
とはいえ。また次がある
条件戦や
前哨戦ならまだしも、
今年の春の天皇賞は今日のこのレースだけ。また、去年一度しかなかった
有馬記念や、今年一度しかない
ドバイワールドC(当たり前だ)で、
自分から競馬を動かし、勝負に出た馬が勝ったという
実績もあり。
何か
勝負に出てくれる馬はいないものかと見ていたら、
ナムラクレセント・
和田騎手がやってくれた。スタートで痛恨の
出遅れを喫し、向正面での
「中団から」の仕掛けも、おそらく
思い描いていた展開とは違ってしまったものだろう。
しかし、
金星にこそ届かなかったが結果は
人気(5番人気)を上回る③着。勝負である以上、負けは負け、と言ってしまえばそれまでだが、
見ている側を一層ぐぐっとレースに引き込んでくれた。
そんな今年の
「天皇賞(春)」は、戦前から強いと言われていた
4歳馬同士の
①&②着。しかしそれは、1番人気の
トゥザグローリーでもなく、2番人気の
ローズキングダムでもなく、
ヒルノダムール→
エイシンフラッシュという結果になった。
果たして、今回のレースは、向正面からレースが動いて
スタミナ勝負になったと考えるべきなのか。それとも、前半スローで3分20秒台の決着、各馬とも
折り合いさえつけばスタミナは温存できた競馬になったと考えるべきなのか。ただ、いずれにしても、
あまり見ない展開になったのは確かだ。
その
「あまり見ない展開」で勝ったのが、
「強い4歳世代」の中でG1勝ち鞍のなかった
ヒルノダムールである。思い返せば、昨年の
菊花賞を勝ったのは
ビッグウィークで、③着は
ビートブラックという、春のクラシック不出走馬が
①&③着。この2頭とは違う競馬をした②着
ローズキングダムはさておき、
条件が変わればどの馬が勝っても不思議はない、というひとつの
前例だったと思う。
そして今回の
ヒルノダムール。前走の
大阪杯で
重賞初制覇。力をつけてきた、という見方もできるが、もともと
皐月賞②着の
実力馬。さまざまな理由で
G1タイトルどころか重賞にも少し縁がなかったが、
距離や展開などが変わったところでこの馬に順番が回ってきた、とも言えそう。
人気では
トゥザグローリー(単勝3.1倍)と
ローズキングダム(単勝4.2倍)が頭ひとつ抜けていたが、
「強い4歳世代」は
「世代」が強いのであって、それだけ
層が厚いということ。そしてもうひとつ、
力も接近しているということ。
今後も、何か少し変わったことがあれば、また違うチャンピオンが登場するかもしれない。そんなことも予感させられるような
天皇賞だった。
また、逆に言えば、今回は
不本意なレースになってしまった
トゥザグローリーも、
菊花賞より前の位置取りで競馬をして結果が出なかった
ローズキングダムも、
またちょっとしたことで巻き返す余地は大いにあるだろう。
1頭だけ強いと、どうも力を
過小評価されてしまいがち。しかし、
強いライバルがたくさんいると、なかなか複数の
G1を勝てなくはなるが、
全体としてハイレベルという評価にもなる。これからも勝ったり負けたり、ファンの頭を悩ます難しくおもしろいレースを見せ続けてほしい
世代だ。