あまり目立たないけれど、実は影響が大きいタイムオーバーについて話します
2011.5.19
先週日曜日(15日)、新潟4レース3歳未勝利戦で、黛弘人騎手がメジロコウミョウに騎乗して勝ちました。
マユちゃん(黛騎手)がメジロ牧場の馬であのような事態になり、その後、メジロ牧場の解散が発表されるという状況のなかの勝利ですからね。最後まで(黛騎手を)乗せ続けたメジロ牧場さん、そして大久保洋吉先生の思いは凄いと思わせられましたし、人にこだわった結果として、こういう結末を迎えたのではないかと思っています。
いまは乗り替わりが当たり前の時代でありますし、マユちゃんに関して言えば賛否両論があるのは承知していますが、個人的には人として大切な部分がそこにあるように思えたのですよね。
さて、今週は、タイムオーバー、通称『タイムショック』についてお話をさせていただきたいと思います。
先日、ファストロックがいただいてしまったのですが(都大路S)、ブッチャけさせていただくと、まさかタイムショックをいただくとは思っていませんでした。
勝ち馬の走破タイムからある基準以上引き離されるとタイムオーバーとなるのですが、その基準とは、1400m未満なら芝が3秒・ダートが4秒、新馬競走なら芝が4秒・ダートが5秒です。1400mから2000m未満については芝が4秒・ダートが5秒、新馬戦なら芝が5秒・ダートが6秒で、2000m以上については、芝が5秒・ダートが6秒、新馬戦なら芝が6秒・ダートが7秒となっています。
ただ、いわゆる「最後の3歳未勝利戦」は2000m未満は芝が3秒・ダートが4秒で、2000m以上は芝が4秒・ダートが5秒となっています。
タイムショックは、厩舎としてもとてもまずいわけですよ。
そもそもこのタイムオーバーという制度の目的のひとつに、キッチリと調教しなければならないという戒め的な要素も入っていると言われています。
もちろん、馬の能力的な部分もゼロではありませんが、出走停止などのペナルティが設けられているわけですので、やはり我々厩舎サイドへの戒め的な面はありますよ。
ペナルティとして有名なのは、1ヶ月間の出走停止。実は、同じ馬が2回目のタイムオーバーになると2ヶ月間、3回目となると3ヶ月間の出走停止処分となるのです。これは連続かどうかではなく、その馬が競走馬として現役を続ける限りカウントされるのですよ。
ただ、審議の被害馬になった場合、あるいは心房細動や鼻出血になった場合や故障を発症してしまっていた場合は、これは適用されません。
あとは、タイムショックの時は、出走奨励金、いわゆる出走手当が半額に減額されてしまうというペナルティも用意されています。
500万円からオープン特別までとされる一般競走なら37万2000円が支給額とされていますので、それが18万6000円となってしまいます。
出走停止、出走手当の減額は、直接、馬主さんへ影響する形になりますので、やはりタイムオーバーになるとショックは大きいですよね。
それと、タイムオーバーになってしまうと、そのレースに走ったと認められないという規定があります。
実は、この部分も手当と関係があるのですよ。JRAでは抹消する時に見舞金が支給されますが、出走している馬と未出走馬では大きく金額が変わってくるのです。
例えば、最後の未勝利に何とか間に合ったとします。ここでタイムオーバーにならなければJRA出走馬として満額支給されますが、タイムオーバーになってしまうとJRA未出走馬という扱いとなり、満額支給されないのです。
このようにタイムオーバーは、様々な形で、直接、馬主さんへ影響を及ぼすシステムなので、もちろんそうならないようにしっかりと調教を行う必要があるわけですが、有効とされる対策というものもあります。
まずひとつは短い距離に出走させるということです。ゲートを出ていかない馬などは逆に離されてしまって間に合わず、余計タイムショックとなってしまうと言う人もいますが、攻め馬が足りない馬などにはひとつのセオリーとされています。
短ければ短いほどタイムオーバーになる確率が低いので、中山やローカルは良いのですが、1300mからしかない東京はやっかいです。
基本的に、広いコースは脚が上がったら一気に離されてしまいますので、どうしてもタイムショックになる確率は高くなりますよね。
すべての馬たちが能力があって、丈夫で、走るというわけではありませんので、タイムオーバーに引っ掛かってしまう馬が出てくるわけですよね。
ブッチャけると、タイムオーバーになる馬は、どんなことをしてもタイムオーバーになります。そこで登場するのが、究極のタイムオーバー対策です。
それはタイムオーバーがない地方交流レースに出走させるということです。とにかく走れば、タイムオーバーがなく、JRAの所属として認めらます。もちろん、見舞金が満額支給されることにもなります。
みなさんは、競馬場で、レースから引き上げてくる馬たちを見た時に、脱鞍所で、稀に、いやかなりの確率で聴診器を持った職員の方々が馬に駆け寄っていく姿をご覧になったことがあるでしょう。
これは、心房細動をはじめとする、タイムオーバーの適用外となる基準に当てはまるかどうかをチェックするためなのですが、「時計です」という声とともに寄って来られると、切なくなりますし、我々もクラクラしてしまうわけですよ(苦笑)。
うちの親父がよく「タイムオーバーが多いと調教師面接で怒られるんだ」と言っていました。
あまり目立たないタイムオーバーというシステムですが、受ける影響はとても大きいのです。
最後に、先週まで掲載していた笹倉先生との対談について、たくさんの反響をいただきました。メールを読ませていただき、やって良かったと改めて感じることができました。
来週からは、2回目の登場となる西田雄一郎騎手との対談がスタートします。熱く、内容の濃い対談が行えたと思っていますので、ぜひお楽しみに。
ということで、最後はいつも通り『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。