頭を使うだけ「損をした」と感じてしまうほどのパフォーマンスだった
文/浅田知広、写真/森鷹史
いろいろと
考えどころの多い
ダービーだった。いや、
考るべきことが増えていったダービーだった、と言ったほうが良いだろうか。
その
考えるべきこと、
東京競馬場で
皐月賞が行われた、というあたりがまず
ひとつめ。
小回り・右回り中山の
皐月賞より、同じ
東京コースで行われる
皐月賞のほうが
ダービーに直結しやすい、というのが普通の考え方だと思われる。
ところが、
東京で
皐月賞が行われた年の
ダービーを振り返ると、皐月賞馬は88年
ヤエノムテキ④着、76年
トウショウボーイ②着、そして74年
キタノカチドキ③着。
それぞれ
ダービーを勝ったのは
皐月賞③着の
サクラチヨノオー、⑤着の
クライムカイザー、②着の
コーネルランサーだったから、
上位馬が来たと言えば来ているが、このくらいなら
中山の
皐月賞に比べて
優位性があるとは言い難い。
そして
2つめ。
シェイク・モハメド殿下の来日と、
デボネアへの
デットーリ騎手騎乗。これまた普通に考えれば、
皐月賞で14番人気④着だった馬が、
ダービーに駒を進めて上位人気になるというのはちょっと考えにくい話だ。
昨年の
エイシンフラッシュが
皐月賞11番人気③着で
ダービーは7番人気、というあたりがいいところで、09年に
皐月賞15番人気④着だった
シェーンヴァルトは
ダービーで13番人気。
まあ、馬券に絡む絡まないは別にして、妙味の薄そうな上位人気となれば食いつくのは考え物……のはずなのだが、なにせ鞍上が
デットーリ騎手。これで消して来られたら
「なんでデットーリが乗っているのに買ってないんだ」という話にもなりかねず、また
頭を悩ませられた。
そして
ダメ押し、
台風接近・不良馬場。
オルフェーヴルが
新馬戦を
重馬場で勝ってはいるものの、その時の自身の上がりが
33秒4では参考にしづらい。
参考にしづらいと言えば、中継画面に表示された
「1000m参考タイム 1.02.4」という数字もそうか。いったいどの程度の
不良なのか、こんな縦長の馬群でいいのかどうか。
同じ
不良馬場だった09年
ロジユニヴァースの
ダービーが、
ジョーカプチーノの大逃げで1000m通過が
59秒9。今年の
62秒4なら3番手追走だった
ロジユニヴァースよりは遅い気もするし、直前の
東京10R・むらさき賞は09年の勝ち時計(
1分52秒4)より1秒速い時計で決着。
さらに、その
62秒4を刻んだのが
ロジユニヴァースと同じネオユニヴァース産駒の
オールアズワン。もしかしたら前残りかもと、仮に向正面で時間を止めて馬券を売られたとしても、
どれを買ったらいいのやら、という展開である。
そんなこんなで、レース中まで
「どうなんだ?」と考えさせられた今年の
ダービー。しかし、終わってみれば
「皐月賞であれだけ圧勝した馬なんだから強いよね」という、
頭を使うだけ損をした気分になるという結末。
いや、馬券の当たり外れだけではなく、
あれこれ考える過程も含めて楽しいのが競馬。頭を使って
「損をした」などと言ってはいけないのだが、
そう感じてしまうほどのパフォーマンスをオルフェーヴルに見せつけられた一戦だったと言っていい。
直線入口で進路がふさがりかける苦しい競馬を強いられたものの、少々の
不利くらい難なくはねのける
一枚上の強さ。あの気性では人気で買うのは
不安に感じる、という話になっていたのもつい最近のことだったはず。
その
激しさが良い方に転じたと言ってしまえばそれまでとはいえ、
厳しい条件をあっさりと克服してみせたその精神力には脱帽ものだ。
もともと、兄・
ドリームジャーニーの活躍から期待されていた馬、そしてデビュー直後の走りから
実力も評価されていた馬。そんな馬が
心身ともしっかり成長し、底力まで発揮しはじめたら、それこそ手をつけようがない。
この厳しい競馬の反動など出ることなく、このままの力を発揮して
「強い4歳世代」との対決をぜひ我々
ファンに楽しませてほしいものだ。……いや、その前に
三冠か。