不安要素にも負けず、血統背景にも負けず、見事のひと言
文/編集部(W)、写真/森鷹史
エポワスが左肩跛行のため
出走取消となり、
プランスデトワールが1コーナーで外側に斜行して、そのアオリを受けた
ディアフォルティスとともに
競走中止。波乱傾向の強いレースで
アクシデントが続き、一時はどうなることかと思ったが、終わってみれば、
フレールジャック(2番人気)、
マイネルラクリマ(3番人気)、
カフナ(1番人気)と上位人気3頭が馬券圏内を占める結果となった。
すでにOPで連対実績のあった
マイネルラクリマ、
カフナを退け、デビューから無傷の
3連勝を飾った
フレールジャック。関東への長距離輸送、急坂、小回りコースなどが未経験という状況だったので、正直、
克服すべき課題が多く、厳しい戦いを強いられると思っていたが、そんな心配はどこ吹く風だった。
1コーナーでは外側へ斜行した
プランスデトワールをギリギリのところで避け、逃げる
アバウト、2番手の
マイネルラクリマ、3番手併走の
ヒラボクインパクト、
ターゲットマシンを前に見る位置につける。
勝負所で外から進出し、残り1Fを切ったところでエンジン全開。急坂をグイグイと駆け上がり、先に抜け出して先頭に立っていた
マイネルラクリマをきっちりと差し切った。計時した上がり
34秒4はメンバー中最速でもあったから、
完勝と言っていいだろう。小柄な牡馬だけに
10kg減の影響も気になったが、
能力ですべての不安要素を打ち消してしまった感じだ。
フレールジャックの3代母は
グローリアスソングで、現役時代にG1・4勝を含む17勝を挙げ、カナダの
年度代表馬、アメリカの
古牝馬チャンピオンになった
歴史的名牝。しかも、母として
シングスピール、
ラーイを輩出していて、近親には
デヴィルズバッグなどもいる。
その素晴らしい牝系とディープインパクトがミックスされたのが
フレールジャックで、血統背景から言えば、
「このくらい走っても不思議ではない」という気がする。ただ、
「このくらい」というのは決してハードルの低い話ではなく、むしろ
ハードルは高い。
まず、デビューから無敗で
ラジオNIKKEI賞(旧・ラジオたんぱ賞)を制したのは過去20年(91~10年)を振り返っても、
ロックドゥカンブしかいない。その
ロックドゥカンブはその後、
セントライト記念①着、
菊花賞③着、
有馬記念④着と奮闘し、
高いポテンシャルを示していた。
デビューから無傷の
3連勝で
ラジオNIKKEI賞を制した点では、
フレールジャックと
ロックドゥカンブは共通しているが、
ロックドゥカンブは3歳3月のデビューだったのに対し、
フレールジャックは
3歳5月(7日)デビューだった。
スティンガーが
新馬→
赤松賞→
阪神3歳牝馬Sで
3連勝し、デビューからわずか1ヵ月で
G1制覇を飾った例などもあるが、
デビューからわずか2ヵ月でライバル一蹴し、無敗のままラジオNIKKEI賞を通過したフレールジャックもすごい。
また、今回の
フレールジャックの勝利により、ディープインパクト産駒としてOP8勝目となったが、
3連勝はG1ウイナーのマルセリーナ、リアルインパクトでもできなかったことで、フレールジャックが初めてだった。
しかも、
出遅れを挽回して突き抜けた
デビュー戦、
不良馬場をこなして2番手から押し切った
前走、そして、前述した
不安材料を払拭して差し切りを決めた
今回と、
3連勝は
中身も濃い。
フレールジャックはディープインパクト産駒の中でも、一目置くべき存在まで一気に到達したという印象がある。
なお、
フレールジャックの血統背景については前述したが、近親には今年の
皐月賞で③着に好走した
ダノンバラード、日本レコードで
NHKマイルCを制した
ダノンシャンティなどもいて、
ダノンシャンティは
フレールジャックがデビューした同月の5月26日付けで競走馬登録を
抹消し、
種牡馬入りしたばかり。
ターフから1頭去れば、また新たな有力馬がターフに現れる。この牝系の懐の深さを感じさせる事象だが、いずれにしても、
フレールジャックは血統背景から来る
「このくらい走っても不思議ではない」という
高いハードルを、余力を感じさせつつ(レアな記録のオマケもつけて)クリアしたのだから本当に見事。そう強く感じた
ラジオNIKKEI賞だった。