他馬との着差だけでは測りきれない強さがある
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
9頭立てという
寂しさ極まりない出走頭数となった今年の
オールカマーだが、
2分11秒2(良)という時計が計時された。これは従来の記録(2分11秒4)を0秒2短縮する
レースレコードだった。
優勝した
アーネストリーは
宝塚記念を
レコード(2分10秒1)で制していて、その時より1秒以上も遅い走破時計だったのだから、
オールカマーの
レースレコードと言ってもさして大変なことではなかったのかもしれない。ただ、他馬にとってはそんなこともなかったようだ。
今回は、
アーネストリー以外に芝2200mを走ったことがあった馬は5頭いたが、いずれも②着以下に敗れたとはいえ、ほとんどの馬が
自己ベストのタイムで走っている。
②着に入った
ゲシュタルトは従来の自己ベストを
1秒4も短縮(2分12秒8→2分11秒4)し、③着の
カリバーンは
1秒5も短縮(2分13秒0→2分11秒5)。先行して見せ場を作った
コロンバスサークルは
2秒1も縮めて(2分13秒7→2分11秒6)、⑧着だった
ダイワジャンヌも
2秒以上短縮している(2分14秒5→2分12秒2)。
シャドウゲイトは従来の自己ベストと同じタイム(2分12秒6)だったが、⑧着から2馬身半差の最下位(⑨着)だったので参考外だろう。
すでにお気づきのこととは思うが、今回の
オールカマーは
芝2200mでの出走歴があった馬が①~④着を占めた。しかも、
アーネストリーだけでなく、②着の
ゲシュタルトも③着の
カリバーンも
芝2200mでの勝ち鞍があったから、この距離を得意としている馬が上位入線を果たしたと言える。それでも、休み明けだった
アーネストリーが楽勝を飾ったわけで、これぞまさしく
「地力の違いを見せた」という結果だった。
アーネストリーは初めての重賞勝ちが09年の
中日新聞杯で、昨年は
金鯱賞と
札幌記念を、今年は
宝塚記念と
オールカマーを制している。今回は
5つ目のタイトル獲得となったわけだが、以前と比べても
強さの度合いが数段アップしている印象を受ける。
デビュー3戦目からはずっと先行策を取っていて、逃げ馬を競り負かして勝利するケースが多い
アーネストリーだが、重賞勝利の最初の頃は、
逃げ馬が大きく垂れるケースは少なかった。重賞初勝利となった09年
中日新聞杯とふたつ目のタイトル獲得となった10年
金鯱賞は、いずれも逃げた
ドリームサンデーが
②着に粘っている。
ところが、昨夏の
札幌記念では、同じく
ドリームサンデーが逃げたもののこれを競り落として勝利し、
ドリームサンデーは
⑫着に沈んでいる。今年の
宝塚記念でも、逃げた
ナムラクレセントは
⑭着に敗れ、前述したように今回の
シャドウゲイトは
最下位となった。
言い方が適当かどうかは分からないが、以前の
アーネストリーには
「逃げ馬をかわいがる」感じが見られていたが、最近は
「早々に逃げ馬のパワーを吸収している」印象を受ける。逃げ馬のパワーを搾り取り、それでいて後方で力を温存していた差し馬の脚も封じ込むのだから、
「強い」というほかに言葉がない。最近の
アーネストリーの強さは、
他馬との着差だけでは測りきれないと言える。
アーネストリーの次走は、当初の予定通り、
秋の天皇賞になるのだろう。これまでの重賞5勝がすべて直線距離の短いコースなので、クリアすべき課題は、
東京競馬場の525.9mという直線距離になるのではないか。
直線距離は、今回の中山競馬が
310mで、
宝塚記念を制した時の阪神競馬場の内回りは
356.5~359.1m。その他では、
札幌記念を優勝した時の札幌競馬場が
266.1~269.1m、
金鯱賞を優勝した時の京都競馬場の内回りが
323~328m、
中日新聞杯を優勝した時の中京競馬場が
314mだ。
これまでに重賞タイトルを獲得してきた競馬場と比べて、
直線距離が200m以上異なる場合もあり、それだけの差を
アーネストリー&
佐藤哲騎手がどのように乗りこなしてくるか、非常に注目される。
ここ最近のレースぶりのように、
逃げ馬のパワーを搾り取って差し馬の脚も封じる作戦に出るか、それとも長い直線を意識して
逃げ馬をかわいがって自らの脚を温存するか。
鞍上が
“業師”の
佐藤哲騎手だけに、他馬に騎乗するジョッキーたちもいろいろと頭を使わされることになりそうだ。いや、それは何もジョッキーだけに限らず、
予想をする人間も様々なパターンを考えておいた方がいいのだろう。今年の
天皇賞・秋は、早め早めの準備が必須のようだ。