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青木さんに藤沢先生への思いを話していただきました
2011.11.10

先週お話をしようと思っていたのですが、話しそびれてしまったことがありました。宗像騎手がステッキを置き、僕と同じ調教助手として第二の人生を選んだことです。

宗像騎手には、この世界に入った当初、西塚厩舎の障害馬たちでとてもお世話になりました。一緒に仕事をさせていただいて、技術はもちろん、馬についてもいろいろなアドバイスをいただき、助けてもらったことを覚えています。

最後となったレースで見事に勝利して、その後の昼休みには引退のセレモニーが執り行われた光景を見て、騎手としての最後の花道を立派に飾られたなあと思いました。

そして、もうひとつ感じたのは、障害騎手の方々の人間関係の深さについてですね。適切かどうかはわかりませんが、古き良き時代の流れというのでしょうか、縦と横の関係がしっかりとしているのでしょう。

誤解してほしくないのですが、騎手である以上、よきライバルであり、よき戦友で、普段は良い関係であるものの、勝負ではお互いが全力でライバルとして凌ぎを削っているのです。

ただ、以前に義行さん(横山義騎手)も言っていましたが、障害騎手でなければ知り得ない恐怖心というものがあるとのことで、恐らくはそれを知り得る無二の存在であり、お互いに分かりあえる感覚があるのではないかと思います。

個人的には、そんな人間関係に好感を抱く一方で、障害騎手になる若手が減っていて、宗像さんの引退もあり、障害の未来に不安を感じてしまいました。

さて、今週は青木騎手との対談の最終回となります。それではどうぞ。

西塚信人調教助手(以下、西)いろいろな国に行って、奥さんとも出会ったわけですが、いちばん良かった国はどこですか?

青木芳之騎手(以下、青)経済面では韓国がいちばんです。マネージャーを付けてくれたり、レンタカーを用意してくれたりとバックアップしてくれる国はありませんでしたし、本当に有難いですよ。ただ、制裁に関してはもの凄く厳しい。ケタが違います。我々は先生という扱いをされますので、わずかにヨレただけなのに、騎乗停止になりましたから。

[西]そうなんですか。

[青]他の騎手と同じに見てほしい、と言うと、同じではない、とハッキリ言われました。そうじゃないと君たちに来てもらう意味がない、と言われてしまったのですよね。

[西]そうなんですね。調教とかはどうなんですか?

[青]日本と同じレベルは求められません。最初は腹が立つこともありました。でも、受け入れないとなりませんので、自分なりに工夫をしていましたよ。


[西]具体的には、どんな感じだったのですか?

[青]「この馬、来週走るから、適当にやっておいて」という感じなのですよ。しかも、ダグ1周半とキャンター1周半とか、ダグ2周とキャンター2周とかいう感じで乗るわけです。それが1周2400メートルですから。

[西]えっ!? 一般の方にご説明しますと、トレセンでダグ2000メートル踏むとかあり得ませんから。

[青]日本では、それぞれの馬についてメニューを考えて、こういう調教をします、と説明をしながら、相手とのコミュニケーションを取って、やっていました。そうすると、そうやった馬たちがけっこう勝ったのです。

[西]なるほど。


[青]韓国では競馬は1ヶ月に1回しか出走させないという意識があって、レースが終わると、1週間から2週間、完全休養させてしまうのですよね。

[西]休ませてしまうんですね。

[青]重賞を勝った馬で、500キロくらいあって、3日休むと太くなる馬がいたのですが、自分で跨って運動したりしていました。角馬場でハッキングしたりしていたのです。

[西]ハッキングという考え方とかはあるんですか?

[青]ないですよ。そもそも角馬場も、2歳馬の育成の時に使うもので、オープン馬を乗るのは考えられないという感じで、最初は反対されました。

[西]かなり違うのですね。賞金とかはどうなんですか?

[青]良いですよ。南関東と同じくらいのイメージですね。

[西]騎乗料はどうなんですか?

[青]騎乗料は1万円で、進上金が6%か7%でした。

[西]なるほど。じゃあ、競馬が勉強になった国はありましたか?

[青]それは、オーストラリアかな。とにかく良いスタートを切って、良い位置で我慢して、終い勝負という競馬なのです。スタート、折り合い、そして終いとすべてを求められますからね。しかも、朝10頭調教に乗って、そこから何百キロと運転して競馬に乗るんです。肉体的にはキツイですが、タフになりますよね。

[西]そうなるでしょうね。

[青]そんな環境で、さらに新人リーディングに輝いた人がいたのですが、毎日減量しなければならなくて、結局、逃げ出したりということもありましたね。

[西]逃げ出してしまったのですか!?

[青]朝10頭調教に乗って、そこから車がないから馬運車で移動して競馬に乗って、そしてまた馬運車で帰ってくる。そして減量ですからね。

[西]それは相当キツイですよ。寝る暇もないですからね。

[青]オーストラリア人独特のスタイルでも乗っていなくて、とても上手な人だったんですけどね。

[西]そう言われれば、最近は、風車ムチを使うオーストラリアの騎手を見なくなりましたよね? 昔、クラークという騎手がいて、印象に残っています。それこそ藤沢先生の家で観ていました。

[青]どういうこと?

[西]僕は藤沢先生の息子さんと同級生だったんですよ。キャッチボールもしてもらいましたし、一緒に『ダビスタ』もしましたからね(笑)。馬なりで馬は仕上がらない、と言われたことがあったのです。それをみんなに言うと、「作っただろう」と言われるのですけど、本当の話ですから。

[青]そうだったんだ。でも、あれは、馬なりの併せ馬に見えるだろうけど、ステッキを使わないだけですから。馬同士は擦れるくらいに激しく競わせていますからね。

[西]追わなくても、その気になっている感じなのでしょうね。

[青]いつも藤沢先生が言うのは、馬に扶助を与える時、徐々に強いものになっていく。つまりは、追えば追うほど、先々はそれ以上に強さが求められるということなのです。

[西]最初は1の力で動いたものが、慣れてくると3、4とどんどん強さが求められるということですよね。

[青]そうです。だから、自ら走ろうという気持ちにさせなければダメだと言うのです。調教も、調教のための調教ではなく、あくまで競馬に勝つための調教をしなければならない、という話もされます。

[西]ステッキは入らないですが、時計も出ている感じで、普通キャンターも速いですよね。軽いとか言われていますが、そんなことはないでしょう。

[青]そうですね。競り合いも激しいですし、決してやさしい調教ではありません。先生は、それぞれの馬について、こうしよう、ああしようと、それぞれの馬のベストをすべての部分について考えていますよね。ある走る馬が暴れたことがあるんですよ。それに対して、走る馬という意識を持っていない乗り手を乗せるのです。悪いことをしたらしっかりと叱るからです。それ以降、その人が乗ると馬は我慢するのですよね。違う人が乗ると、やはり悪いことをするんですよ。そういうように、観察しているんですよね。

[西]さすがですね。

[青]調教もそうですよ。馬を追い込める人間と、馬の気持ちを考える人間を、馬によって、その時々によって乗せ替えます。

[西]僕にとっては、藤沢のおじさんという意識が残っていたりするのですが、凄いというか、さすがですよね。

[青]藤沢先生にお世話になれたことは言葉にできないくらい感謝していますし、僕の騎手人生がいまあるのは間違いなく先生のお陰です。

[西]なるほど。それでは、最後になりますが、このコーナーのテーマとして『5年後の競馬界』という話をしているのですが、青木さんはどう思われますか?

[青]いろいろな考えがあると思いますが、できることはいっぱいあると思います。例えば騎手の手当について、減額しなければならないというのなら、外国のように騎手の勝負ズボン、あるいは競馬場のフェンスに、企業などの名前を出す、つまりスポンサーを認めることも方法のひとつのはずです。いろいろクリアしなければならない面もあるのでしょうが、工夫すればできるはずよ。他にも、できることはまだいっぱいあると思いますよ。

[西]おっしゃる通りです。できない言い訳を考える前に、工夫するべきですよね。いやぁ、ありがとうございました。

[青]こちらこそ、ありがとうございました。でも、こんな感じで大丈夫ですか?

[西]大丈夫です。貴重な話をありがとうございました。またよろしくお願いします。

[青]こちらこそ、またよろしくお願いします。


いかがだったでしょうか。個人的には、海外へ行くというのは、実際に行った人にしか分からないことがたくさんあることと、それが決して簡単なことではないことを痛感しました。

騎乗できるかどうかばかりでなく、ビザなど書類上の手続き、あるいは言葉の壁なども乗り越えなければならないわけですよね。そのパワーは半端ではないでしょうし、実際にやろうと思ったら相当な覚悟とエネルギ-が不可欠でしょう。少なくとも、僕自身に置き換えた時にはできないと思いました。

そういう貴重な経験は間違いなく青木さんの引き出しになっているはずですが、ぜひそれを我々、いや日本にフィードバックしていただきたいと思うのです。

競馬ばかりでなく、調教についてもいろいろな方法が存在するはずですし、レースそのものより、そのまま取り入れられる可能性が高いはずです。ぜひ藤沢和厩舎に限らず、僕たち他の厩舎の人間にも教えていただければと思います。

最後になりましたが、モンストールが今週復帰します。ここまで順調にきていますので、3連勝でG1へ向かうことができるようにと願っています。応援をよろしくお願いいたします。

ということで、最後はいつも通り『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうぞ、よろしくお願いいたします』。