今年3度目の重賞制覇を飾り、イタリアンレッドに追いついた
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
「1番人気はいらない、①着が欲しい」と言ったかどうかは知らないが、
フミノイマージンは1番人気を
レーヴディソールに譲る形だったものの、
横綱相撲で
愛知杯を快勝して、
今年3度目の重賞制覇を果たした。
56kgのトップハンデを背負い、3~4コーナーでは馬群のいちばん外を通り、それでいて直線で抜け出て押し切ったのだから、今回は
フミノイマージンの地力が一枚抜けていたと言ってもいいだろう。
フミノイマージンが獲得した重賞タイトルは
福島牝馬S、
マーメイドS、
愛知杯で、いずれも
今年のもの。
古牝馬の芝重賞は年間に
10回行われていて、そのうち3つで優勝したのだから、
フミノイマージンが今年の
最優秀古牝馬に選ばれても良さそうな気がするが……まあ、牡馬相手の
G1を制した牝馬(
ブエナビスタ、
カレンチャン)がいるから、さすがにそれは無理ですかね。
それでも、年間に
古牝馬の芝重賞を
3度も制したという事実は珍しく、これはこれで
賞賛に値すると思われる。過去の馬たちと比較して見てみよう。
90年以降、年間に
古牝馬の芝重賞を3度も制したのは、
トゥザヴィクトリー(00年
クイーンS、
府中牝馬S、
阪神牝馬特別)と、
ダイヤモンドビコー(02年
中山牝馬S、
府中牝馬S、
阪神牝馬S)しかおらず、
フミノイマージンは
3頭目ということになる。
この事実だけを記したら、
95年以前に活躍したお姉さんたちから
「あたしらの頃は年間に4つしかありませんでしたけど!」と怒られそうなので、補足をしておくと、
古牝馬の芝重賞は、95年以前は
京都牝馬特別、
中山牝馬S、
府中牝馬S、
阪神牝馬特別という4レースしかなかった。
それが96年に
エリザベス女王杯が古馬に開放され、さらに
マーメイドSも創設され、00年には
クイーンSが古馬混合戦になり、その後に
ヴィクトリアマイルと
福島牝馬Sと
愛知杯も加わって、現在の
年間10レース体系ができあがった。以前と比べていまの時代の方がタイトルを手に入れやすくなった面は確かにあるだろう。
それでも
フミノイマージンを褒め称えたいのは、同馬が
5歳になってこの記録を達成したことだ。前述した
トゥザヴィクトリーと
ダイヤモンドビコーは、いずれも
4歳時に
「古牝馬の芝重賞を年間3勝」している。
牡馬相手の重賞やダート重賞などを加えると、
5歳以上の牝馬が年間に中央重賞を
3勝以上した例は、90年以降で
6頭目になる。過去の5頭は、
イクノディクタス(5歳・92年
金鯱賞、
小倉記念、
オールカマー)、
サマニベッピン(5歳・95年
金鯱賞、
府中牝馬S、
阪神牝馬特別)、
サンアディユ(5歳・07年
アイビスサマーダッシュ、
セントウルS、
京阪杯)、
ウオッカ(5歳・09年
ヴィクトリアマイル、
安田記念、
ジャパンC)、
イタリアンレッド(5歳・11年
七夕賞、
小倉記念、
府中牝馬S)だ。
こうしてみると、
イタリアンレッドと
フミノイマージンの2頭は、いずれも今年の芝中距離重賞で活躍を見せた牝馬だが、
なかなか希有な存在であることが分かる。この2頭は
府中牝馬Sで接戦を演じた間柄だが、
「重賞を年間に3勝」ということについては、
フミノイマージンが
イタリアンレッドに追いついたと言えそうだ。6歳を迎える来年も、この2頭は
女同士の熱い闘いを見せてくれるのではないだろうか。
ちなみに、
6歳以上の牝馬が中央重賞を年間に
2勝以上した例を探してみると、該当馬は
4頭いる。
ブロードアピール(6歳・00年
シルクロードS、
根岸S:7歳・
プロキオンS、
シリウスS)、
メイショウバトラー(6歳・06年
プロキオンS、
シリウスS)、
シーイズトウショウ(6歳・06年
CBC賞、
セントウルS)、
ヤマニンメルベイユ(6歳・08年
中山牝馬S、
クイーンS)だ。
障害重賞を含めれば、
コウエイトライという存在もいる。
コウエイトライは
5歳時に3勝(
小倉サマージャンプ、
阪神ジャンプS、
東京オータムジャンプ)、
6歳時に2勝(
小倉サマージャンプ、
阪神ジャンプS)、
9歳時にも2勝(
新潟ジャンプS、
阪神ジャンプS)している(7歳時にも
阪神ジャンプSを制している)。
ダート重賞や障害重賞を含めても、
中央重賞を年間に3勝以上した6歳以上の牝馬は、90年以降に限ればいないので(89年以前もいないと思われるが…)、
イタリアンレッドと
フミノイマージンの2頭は来年に
新記録を樹立できるか、今年のように切磋琢磨しながら挑んでもらいたいものだ。
フミノイマージンは
今年4勝目、
通算で7勝を挙げているが、まだ
連勝を飾ったことがない。それを考えれば次走では
「?」が付くかもしれないが、今春の
中山牝馬Sで②着に突っ込んでからは、今回の
愛知杯まで
7戦連続でメンバー中3位以内の上がりを計時している。それ以前は、メンバー中3位以内の上がりを2戦続けて使ったことがなかったので、末脚の切れ味に
安定感が増していると言えるだろう。
中山牝馬S(②着)は14番人気での激走で、初重賞制覇となった
福島牝馬Sも9番人気の人気薄だった。そして、その後も
フミノイマージンは一度も
1番人気になったことがなく、実績を積み上げても
2番人気以下で好走を重ねている。
2012年以降も
「1番人気はいらない、①着が欲しい」というレースが続くだろうか……こういうタイプは
一度の凡走があっても評価を下げずに付き合いを続けていきたいものだ。