スプリント界における「銀河系軍団」の座はまだまだ譲らない
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/森鷹史
見応えがあった。いい戦いだった。これ以上ない正攻法で他馬をねじ伏せた
カレンチャンには
着差以上の評価を与えるべきだ。そして、馬を信じ切って、正攻法を選択した
池添謙一騎手の、ここ一番での
精神的強さにも頭が下がる思いだ。
スタートは抜群だった。
エーシンダックマンが行くのも予想通り。しっかりと2番手に付けて直線を向いた。直線半ばで先頭へ。ここで
池添騎手が心配したのは
「強い馬にインを突かれないか」だったはずだ。
天候、馬場とも回復し、インから乾き始めた中京の芝。7R以降の芝のレースはインを突いた馬の伸びが目立っていた。もちろん
池添騎手とて、それは分かっている。
カレンチャンとともにイン2頭目を進んでいたが、インから何が伸びてくるのか
不安だっただろうし、自らラチ沿いに動いてしまいたい誘惑に駆られたかもしれない。
しかし、
池添騎手と
カレンチャンは堂々とイン1頭分を空けて真っすぐに進んだ。背後から迫る
安田厩舎のライバルたち。そして大外から飛んできた
サンカルロ。それらをしぶとく踏ん張り抜いて退けた。
「これ以上近づいたら承知しないわよ!」という声が聞こえてきそうな、女王の粘り。イン1頭分のグリーンベルトも
スプリントクイーンの前では無力だった。
今週、
池添騎手の心中は決して穏やかではなかったはずだ。先週の
阪神大賞典で圧倒的1番人気の
オルフェーヴルが3角で逸走。②着で連は死守したとはいえ、
天皇賞・春に向けて大きな
課題を残した。罵声も浴びただろうし、悩んだことだろう。
しかし、気持ちをきっちりと切り替えG1に臨んできた。その騎乗ぶりにまったく迷いは感じられなかった。
池添騎手の
精神的タフさには、たびたび驚かされるが、今回もまた、その気持ちの強さを見せつけられた。
担当する
岩本龍治助手にも、おめでとうと言いたい。親子2代の
ホースマン。しかし、偉大な目標であった父・幸治さんは09年暮れに肺がんのため世を去った。
幸治さんは
坂口正則厩舎に所属し、
エイシンバーリン、
エイシンサンサンといった素質馬を重賞勝ちへと導いた
腕利きだった。明るい笑顔がトレードマークで親しみやすく、当時駆け出し記者だった自分も何度か馬房におじゃました。
サラブレッドのイロハも分からず、とんちんかんな質問もしたはずだが、豪快に笑い飛ばしてくれた。かつての名ゴルファーによく似た風貌から、陰で
「ジャンボ」と呼び、ひそかに敬愛していた。
カレンチャンの強い勝ちっぷりを見て、幸治さんなら何と言っただろう。馬への感謝を惜しまない方だったから
「馬にありがとうと言うべきやな」あたりか。そのあたり、いつか
龍治助手とも、じっくり話してみたい。
②着以下の各馬も女王をよく追い詰めた。3度目の正直はならなかった
サンカルロだが、ラストの伸びはさすがと思わせた。このレースのために中京開幕週に
吉田豊騎手を派遣し、新コースの情報を収集した
大久保洋吉師。G1奪取への執念が取材からも痛いほど伝わってきた。打てる手はすべて打ったという思いで、
陣営はおそらく納得していることだろう。
ナイストライだった。
直線を向いて
カレンチャンに牙をむいたのは
ダッシャーゴーゴー、そして
ロードカナロアと、いずれも
安田勢。いわゆる僚馬だ。
横山典弘騎手のこの1レースに懸ける執念も素晴らしかったし(この日は
高松宮記念のみに騎乗)、インを突いて馬場を味方につけようとした
福永騎手の判断も良かった。
そうそう、実は
トウカイミステリーも外から脚を伸ばしていたことも忘れてはいけない。掲示板5頭中3頭を占め、13番人気の馬も⑧着という
安田厩舎。スタッフ一丸となっての仕上げは素晴らしいし、若いホースマンたちが情報を共有しあって互いを高め合う姿勢もいい。すべてがいい方向に回転している厩舎といえる。
まだまだスプリント界における「銀河系軍団」の座は譲らないだろう。