添田場長に「15-15」の大切さを解説していただきました
2012.3.29
先週は、サクラオードシエルとヴェルティゴの2頭が勝ち、今年11勝となりまして、我が尾関厩舎が関東のリーディングに躍り出ることとなりました。
角馬場でも皆さんから「リーディング、リーディング」と言われるのですが、僕自身、これまでリーディングとはほど遠い環境でしたし、何より僕自身は何も変わっていませんので、正直、実感が涌きません。
綺麗ごとでなく、格好をつけているわけでもなく、勝つようになる前から言ってきたように、自分の仕事をしっかりとやるだけだと思っています。僕を含めたスタッフが、与えられた仕事をしっかりとやることが大事で、先生の指示を信じて、日々それを積み重ねていくことが厩舎の力になると思うのです。
サクラオードシエルに関しては、前走でダートで変わり身を見せてくれていたので、芝に戻る点がどうなのかという思いを個人的には持っていました。レース当日は、雨で馬場が良くなく、後ろから来られないような状況であったこともプラスに働いたかもしれませんが、強いレースぶりを見せてくれました。ここからは、オークスを目指して、厩舎で調整を続られることとなります。
そして、もう1頭のヴェルティゴについては、島田久オーナーは西塚厩舎からお世話になっているのですが、ぶっちゃけさせていただきますと、このように走るとは思いませんでした。
競馬でもモタれる面を見せているように、体の使い方があまり上手とは言えないのです。調教でも、小さく輪乗りをするなど、その辺りを考慮してメニューも組んで、工夫してきているのですが、まだ良化の余地を残している段階です。
それでいながら、今回にしても、自分から動いていって勝つというレースぶりを見せていますので、心臓の強さが成せる業なのかと思うのです。正直、体を使えるようになったら、どれほど強くなるのかとも思わせられるんですよね。
さて、今週は、添田場長との2回目の対談を送らせていただきます。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)小林稔厩舎にはミスターシクレノン以外にもたくさんの活躍馬がいましたよね。スズカコバンもそうですよね?
添田昌一氏(以下、添)そうですね。あとはランドヒリュウ、ロンググレース、タケノベルベット。
[西]アドラーブルもそうですよね?
[添]小林稔厩舎でしたけど、持ち乗りが担当していたので、ほとんど乗らなかったですね。
[西]あとはムッシュシェクルもそうですか。
[添]そうです。シクレノンシェリフもいましたね。タケノベルベットについては、関西の柿本さんという装蹄師さんが「この馬、良いぞ」って言っていてね。繋ぎが長くて、弱そうだなと思わせるんだ。でも、乗ったら柔らかくて、乗り味が良かった。そういう感覚を装蹄師は分かるんですよ。「大事にせいよ」って、よく言っていました。
[西]小林稔厩舎時代に乗り味が忘れられない馬っていましたか?
[添]いっぱいいますよ。ランドヒリュウやロングハヤブサとか、大きな馬の背中が好きでした。もちろん、良い背中と感じさせられるのに走らなかった馬もいましたけれど、ほとんどは走りましたね。
[西]小林稔厩舎には凄い馬たちが揃っていましたよね。
[添]そうですね。伊藤修先生、伊藤雄先生と並んで、トップでしたから。ほとんどの馬たちが新馬を勝った年もあったんですよ。
[西]その話、知っていますよ。
[添]あれ、話したかなぁ。とっておきのはずだけど、話をしたんだね。
[西]1マイルを行く話ですよね。ぜひここでもう一度話してください。
[添]2歳で新馬に出走する前、最初は2ハロンくらいから始めるのですが、1マイル(1600メートル)を15-15走り切ったら合格。あとは、直線だけやって競馬、という調教だった時がありました。
[西]ウッドチップコースですか?
[添]その頃はまだウッドチップがなくて、ダートコースでした。そうしたら、ほとんどが新馬戦を勝ったのです。
[西]読者の方に説明させていただきますと、美浦では1マイルから15-15で入っていくという調教を行っている厩舎はないはずです。
[添]美浦は6ハロンからですかね。
[西]それでも、テンから15-15で入っていくということは、ほとんどありません。
[添]8ハロンを最初から最後まで15-15でやり通すんですよ。
[西]それはないですね。栗東では1マイル調教を行う厩舎がありますよね。1マイル15-15の後は、どんな感じなんですか?
[添]1マイル15-15と半マイルを馬なりという2つのパターンが基本でした。それを組み合わせて調教して、面白いくらいに新馬を勝ったんですよね。
[西]坂路もない時代ですが、故障しなかったのですか?
[添]これが故障しなかったんだわ。そのかわり、苦しい馬が出てきました。飼い葉を食べられなくなったり、ソエが出たりという馬たちはいました。
[西]なるほど。
[添]当時は体重が60キロほどあったので、15-15専門の乗り役でした。時計を見ながら乗って、コーナーでは速くして、という感じで乗っていましたね。
[西]あっ、そんなこともしていたんですか。コーナーと同じペースで直線を向くと、速くなってしまうんですよね。
[添]ですから、大外を回った時には速くしなければなりません。そうやって15-15になるようにしていたのです。
[西]なるほど。小林先生は時計に細かかったのですか?
[添]そうですね。いまの先生方はどうなんですか?
[西]入りの2ハロンの15-15は求められますが、そこからの3ハロンは手応えで変わってきますよね。その馬や状態によってというケースが多くなっています。
[添]そうなんだろうね。15-15と言いますけれど、面白いもので、馬の実力によって、手応えが変化するんですよ。古馬は、馬自身が15-15を分かっているんですよね。そして何より、15-15を踏んでいくと、馬に力が付いていくものなのです。
[西]そういうものかもしれません。2つくらい勝っている馬ですと、良い感じだなぁと思って走っていると、自然と15-15だったりするんですよね。
[添]良いスピードだなと思うと、15-15なんだよね。あれは不思議なものですよ。
[西]15-15が基本という先生(調教師)もいらっしゃいますよね。
[添]いまの時代はあまりこだわらないのかもしれませんが、個人的にはこだわりたい。馬をつくっていくのには、15-15だと思うんです。壊れないし、馬ができます。ウッドチップ、坂路、そしてプールと、壊れずに調教ができる施設がたくさんありますが、15-15も同じ範疇に入っているということです。それを組み合わせたら、さらにいろいろできるはずです。
[西]坂路やウッドチップと意味合いは同じということですよね。
[添]そうです。昔、北海道から入厩してきて調教を始めた馬たちというのは、20-20でさえ走れないものでした。20-20で走っただけで、息が上がってしまうのです。でも、それを1週間続けると、乗り越えることができる。そこから1ヵ月程度、20-20、19-19というようなキャンターを乗り続けると、15-15をできるようになってくるのですよね。
[西]17-17と18-18はさほど違わないけど、15-15と14-14は違うということですよね。
[添]15-15を維持するか、それ以上やるのか、ということなのですが、やはり15-15を維持していくことに、個人的にはこだわりたいと思うのです。故障の確率が低いのに、馬を仕上げていき、さらには力を付けることができるのが15-15なんですよ。
今週はここまでとさせていただきます。
毎週のように雨の影響を受けて、馬場が悪化していますね。馬場の影響を受ける馬、それほどでもない馬、いわゆる「道悪の得意・不得意」というのは馬によって差があります。
勝敗を分けたポイントとしても挙げられたりしますが、個人的には馬場に敗因を求めるのはあまり好きではありません。騎手の方々が言うぶんには良いと思うのですが、仕上げている我々がそれを言ってしまってはお終しまいじゃないかと感じるのです。
得意・不得意という面が少なからずあるのは現実ですし、なかなか難しいことではあるのですが、極端な言い方をすれば、そういうことも想定して調教をするべきと思っていますし、それぐらいの気持ちで仕事をするべきだと考えています。
それにしても、いまの中山には驚かされますね。前に行った馬たちに良績が集中していて、「後ろからでは届かない」という感覚にさせられます。さすがにここまで偏ってしまうと考えさせられますね。
ということで、最後はいつも通り、「あなたのワンクックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうぞ、よろしくお願いいたします」。