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完璧な正攻法で押し切った人馬は見事なレースだった
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/稲葉訓也


3歳で4冠を制したオルフェーヴル天皇賞・春に出走してくるというだけでも、大本命に推されるのは当然のことなのだが、あの信じられないような強烈な阪神大賞典を見てしまったら「まっすぐ走りさえすれば圧勝する」と、ほとんどのファンは感じていたはず。

だが、サラブレッドという生き物はそれほど単純なものではなく、その馬を競走させる競馬という競技はもっともっと奥が深いものだと、改めて痛感させられた天皇賞・春だった。

オルフェーヴルの単勝オッズは1.1~1.2倍が予想されていたが、意外にも1.3倍の高オッズ。競馬専門紙、スポーツ紙の印も「グリグリ」ではなかった。競馬記者の中には「大穴を当てて目立つことも大事」と考えている人もいるのかもしれないが、単に穴狙いではなく、本当にオルフェーヴル不安を感じていた記者もいたのだろう。

「結果論」ではあるが、個人的に感じていた不安点は、オルフェーヴルがまっすぐ走れるか、折り合いがつくか、再度の大外枠がとうかではなく、まったく逆のことだった。オルフェーヴルの傑出した能力があれば、折り合いなんて関係なしに暴走したとしても圧勝すると思っていたが、あの阪神大賞典後の調教再審査や、厩舎騎手の「工夫」によって、オルフェーヴルが気分良く走る気持ちを損ねてしまうのではないかという不安だった。

サラブレッドは実に繊細な生き物。それまで卓越した強さを見せていた馬が、あることをきっかけに別馬のように走らなくなってしまうことはよくある。通常は脚部不安など体調面の問題がほとんどだが、精神面の場合もある。

例えばペルーサは、出遅れながらも強いレースを続けていたが、発馬再審査のためにゲート練習を積むようになってから、出遅れこそ影を潜めたものの同時に強烈な末脚も見られなくなってしまった感がある。ゲート練習に嫌気がさし、走る気が減退してしまったように見えたものだ。

オルフェーヴルにも同じことが起こったのかもしれない。思い切り走りたくて仕方がないのに、デビューから相棒を組む鞍上「行くな、行くな」と手綱を引っ張り通し。天下の4冠馬に対して「調教再審査」という屈辱的な仕打ちを受け、仲間、競争相手のいない馬場であぶみを長く伸ばした相棒を乗せて走らされた。

天皇賞・春当日も、慣れないメンコとリングハミ。レースでははるか前をゴールデンハインドビートブラックが走っているのに、後方で我慢を強いられる。「おもしろくない」と思ったとしても不思議ではないだろう。

「十で神童 十五で才子 二十過ぎれば只の人」ということわざがあったり、天才子役が成長するにしたがって並みの俳優になってしまったりするのは、子供の頃は自由気ままに振舞えたのに、大人になると社会のしがらみに自由が奪われていくからとも言われている。

今回の大敗については、オルフェーヴル自身が招いた結果という見方もでき、厩舎スタッフ騎手にとっては不可抗力の面もあるだろうが、オルフェーヴルが完全復活し、凱旋門賞で世界に日本馬の名を轟かすためには、走ることが楽しくて仕方がなかったであろう、3歳時の気持ちを取り戻すことが必要なのかもしれない。

一方で、勝ったビートブラックは見事なレースだった。ビートブラック石橋脩騎手は3200メートルをもっとも速く走ることだけを考えて、ハロン13秒を超えたのは最初の1ハロンの13秒0だけで、前半5回、後半3回の11秒台ラップを記録して、完璧な正攻法で押し切った。

もちろん人気薄だからできたとも思えるし、前残りが続いている高速馬場も味方につけた格好だが、ディープインパクトの驚異のレコードに0秒4まで迫ったのだから立派なもの。もし凱旋門賞を日本馬が勝つとしたら、駆け引き重視のヨーロッパ流に合わせることなく、ビートブラックのようにロンシャン2400メートルをもっとも速く走ることを念頭に置く必要があるのではないだろうか。