高橋義博先生にダービー出走の率直な感想を伺いました
2012.7.19
先週、抽選を通り抜けて函館2歳Sに出走したトルークマクトは6着となりました。
新馬戦、未勝利戦と2走して、そこから函館までの輸送を経ての競馬でしたし、抜群のスタートからあわやというレースぶりも見せたので、頑張ってくれたと思います。
改めてスピード能力の高さと完成度の高さを認識させられましたし、ここからまだまだチャンスがあると思わせられました。
それにしても、先週もお話をしましたが、新馬を前倒しで開催されているにも関わらず、レース数がひと開催に1レースという番組編成となり、しかも、新馬勝ち馬優先というのは、調整に影響を与えていることになっているはずですので、どうか再考していただきたいです。
トルークマクトについては、次回の対談ゲストである嘉藤騎手に直接話を聞くことにしましょう。嘉藤騎手は、高橋義博先生のところ(調教)をずっと手伝ってきているのですよね。そういう縁もありますので、嘉藤騎手には先生の印象なども聞いてみたいと思います。
では、高橋義博先生との対談の3回目をお送りさせていただきます。どうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)先生ご自身がコスモオオゾラがクラシックに乗ると思ったのは、いつ頃だったのですか?
高橋義博調教師(以下、高)デビュー戦で4着だったのですが、(レースを終えて)馬を待っている間に、当時の担当者に「この馬は走る」と言ったことは覚えています。あの時、アルフレードと一緒で、パドックでは「この馬(アルフレード)と走るのでは敵わない」と思ったりもしました。ただ、確かに負けましたが、ウチの馬も走るという手応えを感じていましたね。
[西]デビュー前の追い切りはどうだったのですか?
[高]良いところは見せていました。ただ、やはり実戦を使ってみないとわからないじゃないですか。
[西]新馬は走ってみないとわかりませんからね。
[高]オオゾラも、デビュー戦前は1頭だとそうでもなかったのですが、併せ馬の形になるとガラっと変わったんですよ。そういう手応えはありましたが、そこで「走る、走る」ということになると、やはりスタッフも固くなりますからね。本音としてなるべく注目されたくなかったりするんですよ。
[西]確かに固くなりますね。
[高]マスコミのみなさんに取り上げていただくことは、厩舎経営という観点からみれば必要なことなのでしょう。ただ、馬に関しては、注目を集める、つまりは人気になることは決して良いことではないと思うんですよね。
[西]個人的には、2012年春のクラシックは、モンストールがいて、そして先生が管理されているコスモオオゾラがいて、本当に楽しかったのですが、自分のところの馬以外では、先生とオオゾラの様子を窺っていたんですよ。
[高]あっ、そうでしたか。それは失礼しました。
[西]騎手の方々と「高橋先生、固くなってるわ」とか話たりしていたんですよ。
[高]うははは(笑)。西塚さんにそこまで言われるのでは、かなり緊張していたのでしょうね。
[西]投票所で「先生、緊張してますね」と声をかけさせていただいたら、「西塚君、平常心ですよ」と言われたことは忘れられません。
[高]そうやって口にすること自体、自分自身に言い聞かせている部分があったのかもしれません。緊張しているからこそ、口にするんですよ。
[西]僕は、自分自身が緊張していることを認めてしまった方が、その対策を考えられると思ったんですけれど。
[高]自分で体を動かすのであれば、いろいろ対処法もあるのですが、そうではなく、あくまで走るのは馬ですからね。でも、自分自身は相当に緊張していたようですね(笑)。
[西]皐月賞からダービーというのは間隔が開いています(中5週)ので、その間、調整はどうされるのかなと思っていたのですが…。
[高]6週間ありますからね。
[西]6週間あると、いろいろな選択肢がありますよね。
[高]レース後の様子を見て、オーナーサイドとお話をさせていただいて、ビッグレッドファーム鉾田に放牧に出させていただきました。
[西]どのくらいの期間、出ていたのですか?
[高]半月前には帰厩していますので、3週間程度だったと思います。
[西]なるほど。
[高]テシオが「馬は動かした方が良い」という理論を唱えていますが、馬は環境が変わることで賢くなりますよね。
[西]人間と一緒で「経験」ということですよね。経験をすればしただけ知る、ということですね。
[高]以前、サンデーサイレンスの娘がいたのですが、何回か同じ場所に放牧に出していました。すると、3日で顔が変わりました。厩舎に戻すと、またこれが3日で顔が変わるのです。
[西]休めるところや、やられるところなどがわかるのですね。
[高]外でも15-15程度は乗ってもらっているんですけど、苦しい思いはしないということがわかっているんでしょうね。そこまで極端ではありませんが、オオゾラも鉾田に何度も出ていますので、環境を理解していますよ。
[西]戻ってきてからの追い切りは、入ってきた週の日曜日に1本、水曜日に1本、そして翌週の日曜日にやる、ということになると思うのですが、そこがひとつのポイントになると思うんですよね。難しいというか……わかっていただけますよね?
[高]はい、言われている意味はわかります。そこの調整は考えさせられますよね。
[西]実際、どんな感じだったんですか?
[高]そうですね。まずオオゾラというのは、よく寝る馬なんですよ。本当に横になって、四本脚を投げ出して寝るんです。その姿を見て「秋になったら」と思うんですけれど、それを見て決めました。朝に見たときには起きていて元気だったので、そこまで速い時計を出したわけではありませんが、しっかりとやりました。
[西]なるほど。ダービー前に「馬が変わった」というような感触はありましたか?
[高]走る馬というのは「目に見えるくらいの変化を見せる」と言いますよね。また、変わらないとダメとも言われますが、オオゾラは、僕が助手時代から関わってきた馬たちのなかでも、変わってきているというか、育っていると感じさせられた1頭でしょう。そこまで劇的ではありませんでしたが、充実してきている印象を持っていました。
[西]ダービーに向かう道中は、どんな思いでしたか? ここまで頑張ってきて、管理する馬がダービーに出走する。しかも、ただ出るだけではない状況だったわけじゃないですか。
[高]ただ出るだけではない、という感覚ではありました。ただ、その当該週、そして向かう道中では、「ダービーを楽しもう」という気持ちでしたよ。ですから、馬が馬場に入ったのを確認した後は、調教師席のパソコンで入場人員が10万人を超えたのを見て、「うわぁ、10万人を超えた」と世話をしてくれるおばさんに話かけていたんですよ。
[西]うははは(笑)、そうでしたか。
[高]たくさんのお客さんがいらっしゃって、何かあると地鳴りのような声援が飛ぶわけですよね。それを見ながら、「これは外国の強い馬が来ても簡単には勝てない」と思っていていました。
[西]あれは、独特の雰囲気ですよね。
[高]ファンファーレに合わせて手拍子が起きますし、それらの状況に耐えるのは決して簡単じゃありません。しかも、そういう環境にない外国馬たちにとっては大変なはずですよ。
[西]確かにそうでしょうね。ダービーに出走し、そして終えてからはいかがですか?
[高]正直、何よりもまずは無事に出走させることができたという思いが強かったですね。正直、ホッとしました。その証拠に、終わってからもミスをしてしまいましたから(苦笑)。
[西]あ、そうなんですか。それは?
[高]いや、すみません、それはここでは言えないです。どうかお許しを。でも、ダービーが終わってからは、家内に「よく寝る」と言われますね。
[西]それだけホッとされたということなんでしょうね。
今週はここまでとさせていただきます。
北海道では、先週、今週とセールが行われています。先週がセレクトセール、今週がセレクションセールで、このふたつはセールの中でもG1と言うべき舞台ですが、ブッチャけさせていただきますと、西塚厩舎時代はこれらふたつのセールとは縁遠かったのですよね。8月のサマーセールや10月のオータムセールで購入された馬たちをお預かりするケースが多かったのです。
それが、尾関厩舎となって、セレクトセールやセレクションセール出身の馬たちに携わる機会が増えました。また、携わった馬たちの兄弟や産駒の名前を見かけると、やはり注目するものです。
そういう意味では、今週デビューを予定しているヴェルデホは、その母(ディナシー)がセレクトセールにおいて6億円で取引された馬で、みなさんもご存じだと思います。
ヴェルデホには一度だけ跨がったのですが、シンボリクリスエス産駒らしくしっかりとした感じで、素質を感じさせられます。子供っぽさも残していて、そのあたりが競馬でどうかだとは思いますが、とても楽しみにしています。みなさんにも応援していただければと思っています。
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