生き残りをかけて戦う馬たちに、できる限りのことをして送り出したいと思います
2012.8.23
先週、土曜日の札幌8レースをロックドクトリンが勝ちまして、我が尾関厩舎の今年21勝目を挙げることができました。
ロックドクトリンは入厩してきた当初から能力を感じさせられる存在だったのですが、今回は長期休養明け(1年ぶり)で、そこを勝ってくれたので、正直、驚かされている部分があります。また、何より、直接札幌に入厩していて、実感がない、というのが正直なところです。今回、僕がこの馬にしたことと言えば、勝負服を北海道に送ったことだけなのです(苦笑)。
夏のこの時期は、基本的には美浦と北海道での競馬となりますので、お互いが負けないようにという意識を持ったりして、「北海道、何とか頑張れよ」、「おい、新潟もっと勝てるだろう」というように言い合いながら頑張っているんですよ。
北海道シリーズはこれで3勝目となりますが、頭数はこちらの方が多いので、負けないように頑張っていきますよ。
さて、今週は、嘉藤貴行騎手との対談の3回目になります。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)貴行は、今年で何年目になるの?
[嘉]13年目ですね。
[西]辞めようと思ったことはあった?
[嘉]やはり昨年ですね。調教助手に転身する時の制度が変更になって、それこそ僕よりも才能がある人もステッキを置きました。将来を考えた時、30歳を迎えることもあって、考えましたよ。
[西]読者の方にその制度変更について改めて説明させてもらうと、騎手の方々が調教助手に転向する際、以前は騎手として在籍していた年数も、給与を決める号数に加算されていたのです。それが、1年目の助手として扱うことに変更されたわけです。話を戻しますが、貴行は結婚はまだだよね?
[嘉]はい、まだです。だから、守るものはないのですが、将来を考えましたし、転身も選択肢のひとつとして思っていました。
[西]それを踏みとどまったわけだけど、その理由は?
[嘉]小倉から乗せてもらっているダーリブという馬がいるんです。
[西]ちょんまげ先生の厩舎(高橋義博厩舎)だよね?
[嘉]そうです。震災の時にも小倉に滞在して調教していて、徐々に成績が良くなっていって、最後にスーパー未勝利で勝つことができたのです。いまの時代は、何戦か良い競馬を続ければ「勝ちきれない」となって、2~3着に来ていても乗り替わりが当たり前なのですが、何も言わずに馬主さん(北所直人氏)が乗せ続けてくださったのです。その時、「やっぱりジョッキーが良い。ジョッキーでいたい」と心から思えたんですよ。
[西]まさに心の叫びだね。それこそ大きなターニングポイントじゃない。
[嘉]他の人たちから見れば、単なるスーパー未勝利戦の一戦でしかないかもしれませんが、僕にとってはもの凄く重要な一戦でした。勝った時は、記憶にないくらい嬉しかったんですよ。
[西]そうだろうね。
[嘉]それと、中山からの帰りのタクシーでノリさん(横山典騎手)と一緒になったことがあって、結構悩んでいた時期だったので、思い切って相談したこともありました。
[西]あっ、そうなんだ。
[嘉]それまでノリさんとはあまり話をしたことがなくて、二人だったので気まずいかとも思ったんですけど、でも、どうせならと思って、相談させてもらったんですよね。
[西]そこで聞こうとしたのは貴行の才能だよ。電車で帰ることもできたはずだからね。それで、ノリさんには何て言われたの?
[嘉]「絶対に辞めるな」と言われました。僕が黙っていたら、「もう答えは出ているだろ。騎手をやりたいんでしょ。だったら、それに従った方が良い」って言われまして、いまになってみればその通りなんですよね。結局は自分でしか決められないんですよ。それはわかっていたつもりですが、ノリさんの言葉に改めて気づかさせてもらいました。それ以来、ノリさんには「頑張っているな」など、声をかけていただいています。
[西]そういうことがあったんだね。
[嘉]「お前も、乗るべき馬に乗れば勝てるんだ」というノリさんの言葉に勇気付けられました。正直、相談する前は、ノリさんほどの人ですから、辞めるなと言われても、何となく次元が違ってしまっている感覚もあったんです。でも、話を聞かせていただいて、そうじゃないことを知りました。
[西]辞めなくて本当に良かったね。
[嘉]本当にそう思っています。
[西]その頃だよね、関西馬に乗って高配当を演出していたりしたのは?
[嘉]ママキジャですか。
[西]あっ、そうそう。
[嘉]同じ馬主さんなんですよ。
[西]そういうことがあったんだ。
[嘉]そうなんです。本当に感謝しています。そういう流れもありましたし、ダイメイザクラという存在もあって、騎手に踏みとどまるように言われているような感覚になりました。だから騎手を続けようという気持ちになったと言っても、言い過ぎではありません。正直に言いますと、昨年の8月くらいは本当に悩んでいて、一度は助手になることを決めたんです。実際、受け入れてくださる予定だった先生にもご迷惑をおかけする形になってしまいました。
[西]その話は少し聞いていたんだけど、そういう葛藤があったんだね。そう言えば、ダイメイザクラもママキジャも牝馬だよね?
[嘉]そうですし、ダーリブも牝馬です。
[西]女の子にモテモテじゃない(笑)。
[嘉]最近、女の子との成績が良いと言われるんですよ(笑)。
[西]牝馬ね。人間の牝馬は?
[嘉]人間の牝馬は……そんなことはないですかね(笑)。
[西]うははは(笑)。そうやって良い流れができて、さらにミルファームさんの馬たちに騎乗させていただく機会が増えていって、また一緒に仕事ができるようになったわけですよ。
[嘉]そうですね。本当にありがたいことだと思っています。
[西]ミルファームさんとは、何かきっかけがあったの?
[嘉]ダイメイザクラで1000万円(パノラマビューC)を勝たせてもらった頃に、直接、社長から乗せてくださるという話をしていただいたのです。あとから聞いた話では、伊藤大士先生が推薦してくださったということでした。
[西]そうだったんだ。実際、よく結果を出しているよね。
[嘉]乗せていただけていることに感謝していますし、信人さんにそう言っていただけることは嬉しいです。ただ、個人的にはもっと頑張らないとダメだと思っています。
[西]頑張っているじゃない。
[嘉]いや、もっと頑張らなければと思います。楽しみな馬たちですし、みんな頑張ってくれていますから。
[西]最初にミルファームさんの馬たちに騎乗した時、人気薄で掲示板に載ってみたりというようなターニングポイントがあったわけでしょう。そう考えると、やはり貴行がチャンスを掴んだんだと思うよ。真面目にやってきて良かったね。
[嘉]仕事に関しては、真面目にやってきて良かったです。
[西]午後も出ているもんね。
[嘉]午後は休もうと思えば休めるんですけど、癖になるのが嫌だったんですよ。フリーなった時からは、厩舎に行って馬の様子をみているだけですけど、それでも行こうと決めていました。
[西]最近は、午後も忙しそうだよね。本当に何度も言うようだけど、ウチは「来ないから」って言う人はいないから、その分、他の厩舎を回りなよ。
[嘉]大丈夫ですよ。でも、忙しい方が良いです。
今週はここまでとさせていただきます。
以前、「期待している」と話をしたプボワールベールが、土曜日の新潟4レースに(村田)一誠さんとのコンビで挑んだものの、8着という結果となってしまいました。そして、未勝利のまま、JRAから姿を消すこととなってしまいました。
地方競馬で2勝すると、再入厩が認められるのですが、いやぁ、何とかなったんじゃないかと思うんですよね。これは未勝利で終わった馬たちすべてに思うことではあり、その時々でベストと信じる選択をしているはずでもあるのですが、やはり考えさせられます。
しかも、力があるのに勝てない馬もいれば、逆のケースもあるのが現実で、こうして考えると、1勝というのは本当に些細なことが影響する面があるのです。
仕上げに関しては、我々ができることではありますが、正直なところ、デキに関しては人知を超える部分があるんですよ。調子だけは、何をしても、どうにもならない部分があります。
それを見極めながら出走させるのが務めではあるのですが、この時期になれば、そうとばかりも言ってられない現実もあります。もちろん、仕方がないという言葉で片付けてはいけない部分もあります。
今週、来週と、まだ生き残りをかけて戦う馬たちがいますので、できる限りのことをして送り出したいと思いますし、もっとできることがあるはずだと考えながら、頑張っていきます。
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