「長距離戦は騎手の腕」を再認識する週末になった
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
レースの記事を書く上で、いつも事前に
予想勝ちタイムを記しておくのだが、今回はそれを
「2分31秒2」としてみた。昨年は
2分31秒5という決着だったので、それよりは速そうだけれど、スローになると踏んだから、07~10年の4年連続で記録された
2分30秒台の決着にはならないんじゃないかと想定したのだ。
ところが、
ルルーシュが先頭でゴールを駆け抜けて、そのタイムをチェックして驚いた。2分30秒台どころか、
2分30秒0を切っていた(2分29秒9)からだ。
ルルーシュの鞍上・
横山典騎手は、レース後のインタビューで
「馬場が速いので、(時計が速くても)信用できるわけではない」という趣旨のことを話していたが、それでも、先行策を採ってこれだけの時計を出されてしまっては、
後続の馬たちは成す術がなかったことだろう。
ちなみに、
アルゼンチン共和国杯が芝2500mで行われるようになってからの最速の勝ち時計は、
2分30秒0(10年
トーセンジョーダン)だった。つまり、今回の
2分29秒9は
レースレコードになる。
芝2500mの重賞は
アルゼンチン共和国杯のほかに
有馬記念や
目黒記念が施行されているが、それらを含めても2分30秒を切る勝ち時計が出たことは
2度しかなかった。
04年有馬記念(
2分29秒5・
ゼンノロブロイ)と
05年目黒記念(
2分29秒8・
オペラシチー)だ。
現在の東京芝は馬場が硬くて時計が出やすい面があるのだろうが、それにしても、今回の
ルルーシュの勝ち時計は
優秀と言えるだろう。
横山典騎手は、今回の勝因を
「(狙っていた)ポジションを取りに行って、それを取れたこと」と話していた。3枠4番という内目の枠で、先行しやすかったこともあるのだろうが、それにしてもスタート直後に押して先行していたわけではなく、気持ち良さそうにスピードに乗っていた。
そこからはとにかく動かずにジッとしたままで周回し、4コーナーを回って先頭に躍り出た時は、まだ
手綱を持ったままだった。そこから一気に突き放して後続を寄せ付けず、危ない場面は一度としてなかった。まさに
完勝という表現に相応しいレースだった。
横山典騎手は、日曜日(4日)に2勝、土曜日(3日)には3勝を挙げ、今週は
5勝をマークした。その5つの勝利の中では、もちろん重賞の
アルゼンチン共和国杯がいちばん多くの人の目に触れることになったのだろうが、個人的に
「こりゃ、すごい!」と思ったのは、
イッシンドウタイで制した土曜日の東京9R・
伊勢佐木特別(ダート2100m)だった。
イッシンドウタイは11番人気という低評価だったが、穴ぐさ💨に指名していたこともあり、スタート直後からその動向に注目していた。
同馬は
6枠10番という東京ダート2100mコースでは有利とは言えない枠順だったが、
横山典騎手はスタート直後に押して先行させ、2~4番手で折り合った。
向こう正面に入った時点では、先行した4頭の中で
いちばん外を回る形だったのだが、3コーナーを迎える頃には、いつの間にか
内ラチ沿いの3~4番手に入り込んでいた。ライブでレースを観ていた時は、どういう動きをしてその位置を取ったのかが理解できず、ただただ驚いたまま眺めていた。
そこからは、
アルゼンチン共和国杯の
ルルーシュと同じようにジッとして動かず、他馬が4コーナーで外から動いて行っても内で脚を溜めて、直線に備えていた。
直線に向いてからのレースぶりも
変幻自在という感じで、早めに仕掛けた馬たちが内に密集してくると、
イッシンドウタイを一気に外に持っていった。そして、前が開いた位置まで出るとビッシリと追い出し、最後は後続に1馬身1/4差を付けてしまった。
もちろん、
イッシンドウタイ自身にスタミナがあり、自在に操縦できる馬だからこそ可能な芸当ではあったのだろうが、それにしても
このレースぶりは凄すぎた。[3][3][3][6]という通過順位の表記ではとても表現しきれないレースぶりなので、ご覧になっていない方は、ぜひ
JRAのホームページで映像をチェックしてみてください。
イッシンドウタイにしても、
ルルーシュにしても、やはり長距離戦ではペース判断と位置取りがとても重要だということだろう。だからこそ
「長距離戦は騎手の腕」とも言われるわけで、今週末はそのことを再認識することになった。
ルルーシュは道悪馬場でも勝利を収めているが、前走の
オールカマーではノメッていたそうだから、ベストは
良馬場なのだろう。北海道の洋芝でも勝ち鞍があるが、
東京芝では[4.1.0.0]と連対を外しておらず、広いコースの方がリズム良く走れる面もあるのだろう。
今後は
ジャパンCか、それとも別のレースになるのか、分からないが、いずれにしても、
07年以降の勝ち馬の5頭中3頭がその後にG1馬となっているレースを制したのだから、
ルルーシュも
G1の舞台での楽しみが広がったことは間違いないはずだ。