丸田騎手に競馬の観方を具体的に聞きました
2012.12.6
先々週に引き続き、先週も馬と一緒に競馬場に向かい、パドックを引いてきました。
実は、ゲートまで付いていくという厩務員の役割をしたことがそれほど多くないこともあるのですが、今回、ゲートまで付いて行って、ファンファーレが聞こえないことに気がついたんですよ。ダート1200mのスタート地点だったのですが、全く聞こえてきませんでした。
馬場入りで馬を放し、バスに乗り込んでスタート地点に向かいます。そこで馬を捕まえて周回していると、「はい、奇数番前へ」と声がかかりゲートに入る、そしてスタートとなるのですが、ファンファーレには全く気がつきませんでした。僕自身に余裕がなかったのか、それともスタンドから遠かったからなのか、わかりませんが、静かななかで競馬がスタートしたんですよ。
騎手の方々に聞くと、場内で聞こえている実況中継はレース中に聞こえないらしく、ひょっとすると、スタンドが中心で、馬場に出ると聞こえないものなのかもしれません。
ただ、以前、東京1600mの時には聞こえたような気もするんですよね。また機会があったら確かめてみます。
先週は、武士沢騎手が騎乗したカワイコチャンが2着に激走しました。いやあ、ブッチャけさせていただくと、まさかこのような走りをみせてくれるとは、正直なところ思っていませんでした。
調教で跨がると乗り味も良く、素質を感じさせられるんですが、今の段階ではまだ子供っぽさもあったりして、良くなっていくような感触を覚えていたんですよね。
さて、今週は丸田騎手との対談の2回目をお送りします。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)(田中)勝春さんが兄弟子のような存在にあたるわけだけど、勝春さんも競馬をよく観ているよね?
丸田恭介騎手(以下、丸)よく観ています。レースだけでなく、馬を観ています。宗像厩舎の新馬たちが何頭かで歩いていると、並脚で「この馬、走りそうだ」と見抜くんですよ。知識と感性がなければ、そうはなりません。
[西]勝春さんに関しては、数々の逸話があるよね。
[丸]言い当てるというか、もう分かっているのでしょうね。歩いている姿だけで感じるんだと思います。本当によく観ていますよ。
[西]丸田自身はレースを観ることが苦じゃないの?
[丸]競馬を観ることが大好きなので、全く苦になりません。ずっと観ていられるんですよ。
[西]学生の頃からそうだったの?
[丸]いえ、学生の頃はそうではありませんでした。レースのどこを、どのように観れば良いかが分かりませんでした。
[西]そうなんだ。
[丸]競馬に乗るようになって、「なんでこうなんだろう」、「なんでこうするんだろう」というような感覚が生まれて、何度も繰り返して競馬を観るようになっていったのです。
[西]なるほどね。
[丸]最近では、もう少し突っ込んで、成績とラップを照らし合わせて、レースの内容を観るようにしています。例えば、そのレースのなかで「流れに対してもっとも“らしい”競馬をしているのはこの馬。それに対して逆らう競馬で勝ったのだから強い」というように、能力の比較もしながら知識できるようにと思っています。
[西]前回に登場していただいた小野次郎先生は、現役時代にいわゆるゾーンに入った時、他の馬たちの動きが見えて、各馬の余力まで分かったと言っていたよ。それこそ、騎手の指の動きさえ見えたらしい。丸田も、情報に基づいてでも、ゲートを出て「この馬はこのくらい脚を使う」とか考えているんだろうね。
[丸]イメージはありますが、指の動きということまではピンと来ていません。ただ、レース前に組み立てて、「こうなったらベスト」という作戦があった時、ゲートを出て「あっ、何かが違う」と感じて全く違う競馬をすることはあります。また、そういう時の方が、良い結果が出る確率が高いかもしれません。
[西]レースは生き物と言うからね。
[丸]福永さんも香港のレースで、すべてが自分の思い通りに動いたことがあったと言っていました。ただ、自分はまだそこまでの経験はないですね。
[西]次郎さんは、言葉では説明できない何かがあるような意味合いのことを言っていたけど、丸田の場合は、自分の力で引き寄せているんだと思うよ。
[丸]2、3年目の頃は勝った理由が説明できない勝ち方をしていたように思うんです。自分自身の感性が足りなかったんでしょう。それが少しずつ何で勝てたのか、何で負けたのかが分かるようになってきています。
[西]それが努力と経験なんだろうね。
[丸]この前、福島の2600m戦でバンダムラディウスという馬に乗せていただいて(3番人気)2着に負けてしまったのですが、あの時は正面スタンド前で「負けた」と思いました。
[西]なんで?
[丸]ペースと位置取りからです。遅めのラップを刻んで、そこで僕の馬がある程度の位置に楽に行けていたら、距離ロスがあったとしても、相手と思われる馬に勝つことができた可能性があったんです。でも、遅いペースをそのまま付いて行かざるを得なくなってしまったんですよね。正面スタンド前で10馬身差があって、上がりのラップを考えると絶対に追いつかないことが分かってしまうんです。そうなると、相手の調子が悪くて、下がってきたときに勝つ競馬をするしかなくなるんですよ。
[西]その馬が止まるかどうかが、見えていたんじゃないの?
[丸]調子はそこまで良くなかったと思いますが、止まらないと思いました。もちろん、向正面でその馬に取り付いて行って、射程圏に入れることも考えてはいるのですが、そこで動くことによって無理を強いることになりますし、外を回さざるを得なくなるわけですよね。それなら、ジッとしている方が良いと思い、そこでチャンスを待ちました。2番人気の馬が直後にいて、僕よりも先に動いていったのですが、結果的には僕の馬が2馬身差付けて先着しているんですよ。
[西]そこで動かなかったことで、交わせたんだよね?
[丸]もし1、2年目だったら、自信がないために、「あれ? 動いた方が良いのかな?」と思って、重心が変わってしまっていたはずです。
[西]重心が変われば、馬は反応するからね。
[丸]重心が前に変われば馬は前に出てしまい、今度はそれを引っ張ることになるわけですよね。実に無駄なことで、馬にとってエネルギーロスとなってしまいます。最近は、そういうことがだいぶなくなったように思います。
[西]そういうところが、競馬の差に表れるんだろうね。
[丸]馬乗りは下手よりも上手い方が良いですが、馬乗りが下手でも上に来ることがあるんですよ。
[西]極端な言い方をすれば、考えることで競馬が勝てる、あるいは少しでも上に来る可能性があるということだよね。
[丸]ラップという面で言えば、そこで動いては行けないのに惰性で動いてしまう馬たちがロスした分で上に行くチャンスがより増えると思います。もっと精度を上げることができれば、もっとチャンスが広がるはずなんです。
[西]丸田は、自分の中で“基本的に上手くない”という思いがあるの?(笑)
[丸]同じジョッキーとしてあってはいけないんですけど(笑)。体も柔らかい方ではありませんし、馬乗りということで言えばそこを克服することも求められています。実際、その部分を解消するためにいろいろやっています。
[西]でも、逆に、馬乗りが上手くなったら、勝てなくなるかもしれないよ(笑)。
[丸]上手いと、ゲートを出てスッとスピードに乗っていくので、掛かる可能性があるわけですよ。でも、僕は上手く付いていけないので、そこで折り合えているのかもしれません(笑)。
[西]なるほど、そういう考え方もあるよね(笑)。なんでもそうだと思うけど、足らないからこそ工夫して勝つことができるんだよ。
[丸]そうなんですよ。足らない馬で勝つには、何かこれということをしなければいけないんです。例えば動くところで敢えて待つ、というように、あわよくばを狙っていくレースをしなければなりません。欲を出して位置を取りに行かないというように、何かを決めていかないと勝てないんですよ。
[西]そこがスポーツだと思うんだよね。
[丸]足りない馬を勝たせるのには、王道の競馬ではダメなんです。
[西]そういう意味では、馬乗りの上手さと成績が比例しないことはあるよね。騎乗技術の順位みたいなものがあったとしても、騎手のリーデングと同じということはないでしょう。ユウセンに乗って坂路で持っていかれなければ50点というように。
[丸]ダメだぁ。そうしたら、僕は0点ですよ(笑)。
[西]うははは(笑)。いや、逆に、動かない馬が動いたら高得点というのもありだよね。
[丸]正直、勝ち星があがっていない人のなかにも、馬乗りが上手い人はたくさんいますよ。
今週はここまでとさせていただきます。
阪神ジュベナイルFにファンアットコートを登録したものの、残念ながら除外となってしまいました。
メンバーが強いこともわかっていましたが、目前にG1があり、出走できる可能性があるとなると、いきたくなるものです。G1を勝つために頑張っているという側面は絶対にあるわけですし、競馬である以上、やってみるまでは何が起るかわからないわけですから、挑戦できるならしたいという思いになるのは自然でしょう。
また、ゼッケンがG1登録馬専用となるんですよ。また、これが良いものなんですよね。
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