「平坦の1800mは別物」と覚えておきたい
文/編集部(M)、写真/森鷹史
サラブレッド(
Thoroughbred)は、「
through」+「
blood」が語源と言われることもあって、競走馬は血が継承され、その結晶とも言えるわけだが、その特徴を知ることによって
恩恵を受けることもあれば、
翻弄されることもある。今回の
きさらぎ賞は、後者の思いを感じた人も少なくないのではないか。
単勝オッズが割れる中、1~2番人気に推されたのは、
ディープインパクト産駒の2頭だった。1番人気は
ゴールドアリュールの弟にもあたる
リグヴェーダで、2番人気は
ナリタブライアン&
ビワハヤヒデの近親という
ラストインパクト。
母系が一流であることに加えて、昨年の
きさらぎ賞が
ディープインパクト産駒の上位独占(①着~③着)だったので、最後はディープの血に頼った人も多かったと思われる。
しかし、今年はスローペースでの先行決着となり、
ディープインパクト産駒の2頭は差し込めなかった。昨年の①着
ワールドエースと②着
ヒストリカルは
32秒8~33秒0の上がりで追い込んできていたから、34秒2の上がりだった
ラストインパクトと35秒0の
リグヴェーダは、昨年の上位馬に比べて力不足の面もあったのだろう。
ディープインパクト産駒の2頭が負けることを想定していた人の中でも、
タマモベストプレイが勝利することを積極的に考えていた人は少なかったのだろう。そうでなければ、前走の重賞で
3番人気③着だった馬が単勝
6番人気というのは考えづらい。
タマモベストプレイはフジキセキ産駒であるし、
兄&姉の印象も強かったに違いない。全兄の
タマモホットプレイは全6勝が1400m以下で、同じく全兄の
タマモナイスプレイは7勝中6勝が1600m以下(1800mでの1勝は500万)、全兄の
タマモトッププレイは3勝が1600m以下。全姉の
チャームポットも5勝中4勝が1600m以下(1800mでの1勝は500万)で、この兄弟の上級条件での好走は、ほとんどが
マイル以下の距離だった。
兄弟でも、父が異なれば違うイメージがわきやすいのだろうが、全兄弟で、しかもここまで戦績に偏りが見られると、安易に決めつけたくなるものだ。
「タマモ●●プレイの馬たちにとって、1800mの重賞は適性外」。そう考えたことに、今回は落とし穴があったわけだ。
今回の結果を受けて、今後をどう考えるかは意見が分かれるところだろう。「確かに全兄弟でも、似てない部分はたくさんあるよな」と考えるなら、
タマモベストプレイは全兄や全姉とはタイプが異なり、
中距離でもこなす能力があると考えて、今後も狙っていくべきだろう。
「今回はスローペースで、1800mの適性が求められなかった」と考えるなら、
例外という判断を下すのもアリだと思う。その場合は、次走以降も
1600m以下で積極的に狙っていくスタンスを採ったらいい。
自分自身は後者のスタンスでいながら、
「平坦の芝1800mだけは違うかもしれないぞ」という思いを忘れないようにしたいと考えている。それは、今回のレースを見て、11年前の
メジロマイヤーのことを思い出したからだ。
02年に
きさらぎ賞を制した
メジロマイヤーは
サクラバクシンオー産駒だった。母父がサッカーボーイという馬だったが、マイル戦で2勝を挙げた後に距離延長の臨戦で
きさらぎ賞を勝ち、
「サクラバクシンオー産駒が1800m重賞を勝つのか」と驚いたことを覚えている。
メジロマイヤーはその後、マイル以下の距離を中心に使われていたが、5歳春に再び
京都芝1800mの舞台でOP特別(
オーストラリアT)を勝ち、7歳時には
小倉大賞典(
小倉芝1800m)を11番人気で逃げ切った。だからこそ、
「平坦の芝1800mは別物」という認識は持っておいて損はないと思うのだ。
タマモベストプレイは、今後、どのような路線に進むのか、楽しみだ。
フジキセキの産駒は、2000m以上の芝G1では[0.6.1.56]と未勝利だが、1600m以下では
G1・7勝を挙げている([7.7.5.89])。
そのような範疇に収まるのか、それとも未踏の地にチャレンジするのか。競走馬が
新たな挑戦をすれば、我々も
決意を求められることになりそうだ。