もうひと押しがありそうなキャリア13戦、今後が楽しみな素材
文/浅田知広、写真/稲葉訓也
春を通り越し、あっという間に
初夏を迎えたかのような陽気である。中京競馬場のある愛知県では、名古屋が午後3時で
22.2度。そして当方の住む埼玉県では熊谷で
25度、もう
夏日である。
これほどになると、体感的にはクラシック開幕前というより、
ダービー目前ではないかと錯覚しそうになるが、なにはともあれ
「春のG1シーズン」らしくはなってきた。
しかし、G1シーズンを迎えたからといって、オープン馬がみなG1に出走するわけではないんだぞ、というハンデの
G3・中日新聞杯である。ただこの路線、春の最大目標は6月23日の
宝塚記念で、まだまだ3ヶ月半も先のこと。このあたりから
新潟大賞典や
鳴尾記念などで結果を出していけば、G1も視野に入る位置にある。
一昨年までこの時期に行われていた
中京記念を振り返ると、たとえば90年の優勝馬・
オサイチジョージは同年の
宝塚記念を制覇。00年
メイショウドトウや02年
ツルマルボーイはここが重賞初制覇で、いずれも同年の
宝塚記念で②着に好走していた。
ただその後は、すでにシンガポールでG1を勝っていた10年の
シャドウゲイト以外、どうもG2、G3止まりかなという優勝馬の面々。昨年、3月に移動してきたこの
中日新聞杯は、キャリアを重ねてきた7歳・
スマートギアの重賞初制覇、②着も同じく7歳の
ダンツホウテイだった。
そんな流れの今年の
中日新聞杯。
スマートギアのようなタイプもあれば、
メイショウドトウや
ツルマルボーイになる可能性を秘めた馬もありという、いかにもハンデ戦らしいメンバー構成だったが、勝ったのは後者、キャリアだけ見れば4歳馬と勘違いしてしまいそうな5歳馬・
サトノアポロだった。
何度も休養があって、このレースがまだ13戦目。しかし、無理せずじっくり構えたことが功を奏したか、昨年
[3.1.1.0]で一気にオープン入りを果たした。そして今年初戦は重賞初挑戦の
AJCC。直線前半の勢いのわりには伸びきれずに④着だったが、まずは重賞通用のメドを立てた競馬だったと言っていいだろう。
迎えたこのレース。中山でも勝ってはいるものの、
本質的には直線の長いコースが向くタイプのシンボリクリスエス産駒である。実際にシンボリクリスエス産駒のデータを調べると、東京や新潟ほど新・中京との相性は良くないのだが、今回のこの馬のレースぶりを見るかぎりは、
やっぱり向いているよな、という走りだった。
先行した
アドマイヤタイシや
トウカイパラダイスといった人気どころを前に置き、抜群の手応えで4コーナーへ。そこから少々もたついたところもあったが、なにせ坂+長い直線を持つ新・中京である。
残り300mあたりでエンジンがかかると、しっかり脚を伸ばしてゴール前で差し切り勝ち。これが小倉や旧中京ならどうだったかという競馬、逆に言えば
新・中京を見事に味方につけた格好の重賞初制覇だった。
今回はハンデ55キロ。まだ
新潟大賞典でも問題なく出られるハンデで済みそうなだけに、そのあたりから
宝塚記念へ、という道も見えてくる。ただ、タイプとしては阪神内回りよりは東京コース、秋には
天皇賞が待っている。もちろん、
サトノアポロがG1を意識するにはもうひと押しが必要だろう。ただ、これからその
ひと押しがありそうなキャリア13戦でもある。
大事に使われてきた流れのままに、秋の東京へ向けて備えるのか。それとも、まずは3ヶ月半後の阪神で力試しか。いずれにせよ、
この先どこまで伸びるのか、楽しみな素材であることは間違いない。
先に触れた
ツルマルボーイが「
中京記念+
中日新聞杯」の過去10年から消えた今年、そろそろレースの性格がガラッと変わっても不思議はない。そして、そのきっかけを作るのが
サトノアポロ、という可能性も十分にありそうだ。