波乱が当たり前だった中山牝馬Sが平穏に収まった理由とは?
文/編集部(M)、写真/米山邦雄
1コーナーまでの距離が長くなく、
中山芝1800mの重賞は多頭数になるとペースが上がりやすいものだが、今年の
中山牝馬Sは
例外となった。前半の800mを通過するまで、
11秒台のラップが刻まれることは一度もなく、1000m通過が
61秒3という緩い流れになった。
前半の1000mが60秒を超えることは、このレースでも珍しくないが、序盤からペースが上がらずに迎えることは
まれ。90年以降に中山芝1800mで行われた22レースの中で、
11秒台のラップが刻まれずに800mを通過したのは5回だけ。そのうち4回は
14頭立て以下で、2回は
道悪馬場だった。
今年は、確かに、明らかな逃げ馬が存在しなかった。ただ、前走で
マイル以下の距離を使われていた馬が6頭もいて、何かが我慢しきれずに行ってしまうことも想定された。ところが、フタを開けてみたら、何も行かず、短距離適性の高い馬たちも行儀良く追走していた。このことは
誤算だった。
スローになれば、前を行く馬が有利。向こう正面に入るとその心理が働いたようで、1000mを過ぎると一気に
ペースアップしていった。
800m通過までは一度も刻まれなかった
11秒台のラップが、1000m通過からは継続して記録されるようになり、結局、1000~1800mは
12秒0以上のラップが一度もなかった。あれだけ寒かったのに急に
春になり、ついでに
初夏をも思わせるような陽気になったこの週末と同じようで、
付いていくのがたいへんな馬もいたようだ。
波乱が起こることが当たり前になりつつあった
中山牝馬Sが、今年は平穏に収まった(1~6番人気が①~⑥着に入った)のは、中盤以降にペースが上がり、
持続力の争いになって
地力を問われたからだと思われる。息を入れられる余地が後半にあれだけなければ、いくらハンデが軽くても応戦するのが難しかったのだろう。
4コーナーでは馬群が凝縮して横に広がり、重ハンデを背負っていた
オールザットジャズや
フミノイマージンは、外を回りながら力でねじ伏せようという感じで動いていった。その中でも脚を溜めていたのが
マイネイサベルで、直線に向くまで仕掛けを待って、末脚を温存していた。
勝負所では、馬群の中に
マイネイサベルがいて、
オールザットジャズの方が外にいたが、直線に入るところで
オールザットジャズが先に仕掛けて内に移り、それによって生じたスペースに
マイネイサベルは移動して、一気に末脚を爆発させた。
これ以上ないようなタイミングで仕掛けられたと思う。
結果的に、仕掛けをワンテンポ遅らせることできれいに差し切ったわけだが、
マイネイサベルはこのようなレースを
中山芝1800mでできたことに
成長が感じられた。
マイネイサベルはご存知のように、これまでの3勝を
左回りで挙げていて、そればかりか、5連対はすべて
馬場を半周するコースで記録していた。同じ芝1800mでも、東京や阪神と中山のそれではコース形態が異なり、
馬場を1周するコースでは器用さも求められる。今回の
マイネイサベルは休み明けながらそれにきっちり対応してみせ、5歳の今も成長しているのだろう。
父の
テレグノシスも、芝1800m重賞は
毎日王冠を制していたが、それを含めて全5勝を
U型コース(馬場を半周するコース)で挙げていた。
O型コース(馬場を1周するコース)では3歳時の
スプリングS・②着が最高着順で、娘(
マイネイサベル)はそれを上回ったことになる。
テレグノシスが
スプリングSで②着となった時は、勝ち馬・
タニノギムレットにクビ差だった。上がり3Fは
タニノギムレットと同じ
34秒5。もちろん、当時と今とでは馬場が違うのだろうが、今回の
マイネイサベルは
34秒3の上がりで差し切ったから、上がりタイムの面でも父を上回っていた。
テレグノシスは、3歳時に
NHKマイルCを勝ち、その後はG1勝利がなかったものの、7歳時まで重賞戦線で好走を見せ、息の長い活躍をしていた。
マイネイサベルもそんな血を継承しているのだろう。
今春の最大目標は、5月12日の
ヴィクトリアマイルになるはず。
G1タイトルを獲得している点では、娘よりも父の方が上回っているので、それに並ぶことができるか、注目される。今回以上の強敵が集結して、もちろん簡単ではないのだろうが、舞台は
左回りの
U型コース。
舞台設定は申し分ないはずだ。