“追い切り”でチェックすべきこととは?
2013.3.7
今回は、PNまーきさんなどからいただいた、“追い切り”についての質問にお答えさせていただきます。
追い切りというのは、レースに向けてより実戦に近い、あるいは実戦を想定した調教のことを言います。
追い切りに騎乗するのは、我々のような持ち乗り助手を含めた調教助手以外に、騎手の方々、いわゆる“オレンジ”と呼ばれる調教厩務員、そして調教師の先生方が乗ることもあります。
質問の中に、『よく「今日は良い追い切りだった」と言われますが、何をもって良い、悪いというのでしょうか』というものがありました。
騎乗者として良い追い切りというのは、時計をはじめ、調教師からの指示通りに乗ることができたかどうかということですね。
いま、ほとんどの厩舎で、調教師から「いくつで」と、時計についての指示が出ているはずです。
基本的な話として、以前にもお話をしましたが、追い切りで「70-40」という言葉があります。これは、テンを15-15で入るということなんですよ。
言い方を変えると、テンを15-15で入って、終いの3ハロンを40秒で行くことができれば、70-40となるわけですね。
68-38、67-37という指示もありますが、その時もテンは15-15が基本ですし、そのくらいの時計ならば動かそうと思えば動けます。
ですが、それ以上速いところ、たとえば66-36、65-35になると、3ハロンを35~36秒で上がらなければならないのですが、そこまで速い時計で動けるかどうか、やってみないと分からない面があるんです。
極端な言い方ですが、追い切りはテンを15-15で入ることができるかどうか、というのがポイントとなるんです。
例えば、調教助手が先に行く馬に乗って、後ろから騎手が乗って追いかけるという追い切りを行うときに、しっかりとテンを15-15で入ることが仕事となるわけです。
どこの厩舎の調教助手の方々に聞いても、そうだとおっしゃるはずですよ。
もちろん、モタれたり、行きたがったりする馬たちもいます。そんな馬でも、テンを15-15で入るというのが我々の仕事なんですよ。
言い方を変えれば、15-15で入れたならば、良い追い切りと言えるのではないでしょうか。
あと、「新聞等で追い切りAとか評価が出ていますが、乗っている方々からみてもそうだったりするんですか」ということですが、我々は1頭の馬を点ではなく、線でみていますので、違う感覚のときもあります。
その馬にとって、その時計、その調教内容がどういう意味を持つのかというところが大切だったりしますよね。
例えば、1週前に65秒というタイムを出しているとします。一般的には、このようなケースだと直前では70-40程度に控えることが多いんです。
70-40というと、65秒の追い切りと比べると遅いように感じますよね。
そこには馬の事情であったり、厩舎の考えがあったりするわけで、タイムではない、あるいは直前の動きには表れ難い部分があるということなんです。
実際、直前軽めでBと評価されていましたが、我々は絶好調だと感じていたということもありますよ。
それと、美浦の坂路で速い時計を出しても、フラットコースと比べるとあてになりません。
壁がブリンカーの役割を果たしていますし、勢いをつけて駆け上がっていくとタイムが出てしまうことが珍しくないんです。
それと時計ということで言えば、騎乗している人間の体重にも左右されることも忘れてはならないことですよね。
僕と、元騎手である矢原さんでは体重が違うわけですし、それでタイムが違ってくるのはある意味自然でしょう。
あと、「どういうところに気をつけて見た方が良いのですか」という質問もありましたが、テンに引っ掛かっていない馬が終い一杯一杯になるのは良くないですよね。ノド鳴りなど、何か疾病を抱えている可能性も考えられるはずです。
一方で、栗東の坂路では、終い15秒くらいかかって一杯というシーンを見かけます。じゃあ、それらの馬に対して疾病を疑わなければならないというと、そうではありません。
それだけ負荷がかかっているということでもありますし、他の馬たちも同じようなタイムだったりしたら心配することはありません。
疾病の可能性が考えられる馬というのは、他の馬たちよりも遅れるはずですよ。
それ以外では、普段はフラットコースで追い切ってきている馬が坂路に変えてきたときには、我々は「脚元に何かあったのかな」と考えますね。
僕たち関係者たちは、他の厩舎の馬たちでも点ではなく、線でみていたりするので、あれ、脚元に何かあったのか?と思うわけですよ。実際、実は屈腱炎でした、ということもありますね。
あとは、併せ馬で遅れたときでしょうか。これについても、併せた相手が動く馬であるとか、またその馬自身が調教では動かない馬であるとか、馬にもよりますし、状況にもよります。
併せて、先行していくと、相手を待つ、あるいは交わさせることを想定していることもありますので、単純に遅れたから不安ということにはならないこともお伝えしておきます。
通った場所でも、内と外では大きく違ってきますからね。
ブッチャけさせていただきますと、騎手が乗って、美浦の坂路で50秒を楽々と記録する馬が、未勝利で10着前後を繰り返しているのというのも、決してレアケースではありません。
ズバリ、我々関係者はどの部分でデキの良さを感じているかというと、よく騎手の方々も含めて話をするのは、追い切りでゴール板を過ぎてからの手応えなんです。
そこまではみんな計算をして乗ってきますし、多くは良い感じで来ることができるんですが、ゴール板を過ぎて流していくときの余力には差があるんですよ。
まだまだ余力十分である馬もいれば、あまり手応えが残っているように感じさせられない馬もいて、その手応えがデキと比例する傾向はあります。
VTRではそこまで映されないことが多いですし、見分けるのは難しいでしょうが、先日田辺ともそういう話をしたんですよ。参考にしていただければ幸いです。
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