岩田騎手の追う姿からは叫び声が聞こえてくる
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
例年より開催日数が多い
今春の東京開催だが、芝の重賞競走はこの
エプソムCがラスト。
フローラSの
デニムアンドルビーから始まって、
NHKマイルCの
マイネルホウオウ、
京王杯SCの
ダイワマッジョーレ、
日本ダービーの
キズナ、
安田記念の
ロードカナロアと、今春は
外から差した馬がよく勝っていた。しかし、最後の
エプソムCは、そうはいかなかった。
東京競馬場のゴール位置が1コーナー寄りにズレてからは、ペースが以前以上に緩みやすく、内をロスなく立ち回った馬が好走するケースが多かったわけだが、今年はその批判を受けてか、それとも、例年以上の開催日数を意識してか、
馬場の傾向が例年とは違っていた。
外から速い上がりを使った馬が差し届くケースが多く、土曜日(6月8日)のレースを見ても、外を差す脚質の馬に食指が動く印象だった。ところが、この
エプソムCは
内を回った馬が上位を独占した。
馬場を見ると、内側は芝がなくなり始めていて、土の部分も見られる。内外の馬場差がなく、フラットな状態を保ってきた東京競馬場の芝も、
連続開催16日目を迎えて、さすがにこらえきれなくなってきたのかもしれない。
残り2週間は平地の芝重賞がないけれど、東京芝は、
例年に近い馬場状態に戻りそうだ。そのことは頭に入れて臨むようにしましょう。
クラレントで接戦を制した
岩田騎手は、先週の
安田記念も
ロードカナロアで優勝していて、東京競馬場で2週連続の重賞勝利となった。
ロードカナロアは外から差し、今回の
クラレントは内から早めに抜け出たもの。枠順や騎乗馬の脚質の違いもあるのだろうが、
馬場を読めている面もあるのだろう。
岩田騎手は今年の芝重賞が5勝目で、すべて
クラレントと
ロードカナロアで挙げている。
ロードカナロアでのG1の2勝(
高松宮記念、
安田記念)は、どちらもふた桁馬番で馬場の中央から差していて、残りの3勝(
ロードカナロアでの
阪急杯、
クラレントでの
東京新聞杯と
エプソムC)は、馬番5番以内で内伸びのレースを制している。馬場が読めている上に、
岩田騎手自身にフォローの風が吹いているのかもしれない。
岩田騎手とは対照的に、なんともツイてないと感じさせられるのが
福永騎手だ。
ジャスタウェイに騎乗し、出遅れながら最内を猛追して追い込んだものの、
ハナ差だけ届かなかった。
福永騎手は、これで今年のJRA重賞が[0.4.5.22]という成績になった。
皐月賞や
日本ダービーでの
エピファネイアなど、すんでのところでタイトルを逃す結果になってしまっている。
今回の①~②着は、レース後のスローモーションでは
見分けがつかないほどで、写真判定にも時間を要していたから
「同着か?」と思った人も多かっただろう。
JRAのHPに掲出されている
判定写真を見ると、確かに
クラレントのハナが出ている。ハナの穴の半分くらいの差だろうか。
5~10cmぐらいの差かもしれない。
判定写真には、
クラレントのハナの下に
ジャスタウェイの脚が写っていて、そのつま先は
クラレントのハナと同じ位置にある。
「スピードスケートだったら同着!?」なんて思ったりもしたけど、まあ、これは
競馬ですからね(笑)。
「今日は岩田騎手の日だった」ということだろう。
岩田騎手は、6月9日終了時点でJRAで58勝を挙げていて、リーディングの首位に立っている。
[58.39.37.267]という成績で、その特徴的なのは、④着数(32回)よりも③着数(37回)が多く、③着数よりも②着数(39回)が多く、
①着数は②着数よりも飛び抜けて多いことだ。
2006年に中央に移籍してからの
岩田騎手の成績(JRAのみ)は、次の通りとなっている。
年 |
①着 |
②着 |
③着 |
④着 |
⑤着 |
着外 |
06年 |
126 |
114 |
115 |
82 |
76 |
439 |
07年 |
145 |
115 |
123 |
94 |
66 |
330 |
08年 |
118 |
106 |
88 |
85 |
82 |
373 |
09年 |
109 |
106 |
104 |
82 |
82 |
413 |
10年 |
82 |
82 |
66 |
57 |
81 |
323 |
11年 |
131 |
137 |
88 |
83 |
111 |
338 |
12年 |
119 |
101 |
105 |
78 |
85 |
369 |
②着数が①着数よりも多かったのは11年だけで、③着数、④着数、⑤着数が①着数を上回ったことは一度もない。掲示板内に入った時は、
とにかく①着が多いジョッキーなのだ。
勝負強いと言ってしまえばそれまでだが、今回の勝利騎手インタビューで、その
勝負強さの要因を垣間見る場面があった。
2番手追走から早めに抜け出たことについて聞かれ、
岩田騎手は、
「馬も気分良く走っていたので、もう行ってしまえという感じでした」と話していた。この
思い切りの良さというか、
判断力の速さというものが、最後の接戦にも活きてきているような気がする。
G1に人気馬で挑む時は、記者会見で
「胃が痛い」なんてコメントもする
岩田騎手だが、レースではそんなことは微塵も感じられない。どんなに切迫する場面でも、
勇気があるからこそ、ひとつでも上の着順にたどり着くのだろう。
できれば、今回の
判定写真をぜひ見てほしい。
岩田騎手は膝も肘も
クラレントの首にくっつけていて、その姿からは
「頼むから①着になってくれーっ!」という叫びが聞こえてくる。