スピードの違いで、18頭立てが2頭立てになった
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
レース前、テレビ中継の解説席に座っていた
安藤勝己元騎手が
「途中から手応えの悪くなる馬が脱落していくレースになると思う」と話していたが、まさにそのような展開になった。
戦前の予想通り、
ハクサンムーンと
フォーエバーマークが先頭に立ち、残りの16頭を引き連れる形になったが、中盤を過ぎた辺りから後続馬の中に手応えが悪くなる馬が出始め、徐々に脱落していった。文字通り、
サバイバルレースの様相だった。
普通のレースなら後続に控えた馬の方が手応えは良いものだが、さすがに
芝1000m戦の国内最高峰のレースだ。
ハクサンムーンと
フォーエバーマークはこの舞台でも
スピードの違いを見せつけ、
18頭立てのレースを
2頭立てにしてしまった。
ハクサンムーンは、前走の
CBC賞を休み明け&16kg増(480kg)、しかも57.5kgという斤量を背負ってクビ差の②着に粘り、叩き2戦目で斤量が56kgに替わる今回は、
負けられないレースだったと言える。
好枠(7枠13番)を引き当てたことで、さらに支持を集め、単勝2.1倍という
1番人気に推された。誤算だったのは、馬場入りを嫌がり、他馬よりも返し馬が遅くなったことだろう。馬券を買っていた人は不安を感じたかもしれないが、それでもゲートに入ってスタートを決めると、そこから先は
いつも通りのハクサンムーンだった。
フォーエバーマークは直線競馬が初めてだったが、先行力のあるスプリンターで、
馬格のある牝馬(今回は508kg)でもあり、
アイビスサマーダッシュへの適性は十分にあると想像された。
実は、
「メインレースの考え方」では、当初、◎は
フォーエバーマークにする予定だった。好調だし、直線競馬が上手い
村田騎手が鞍上でもあり、
ふた桁馬番さえ引ければ好勝負必至と考えられたからだ。
ところが、金曜日の午前に出た枠順は、非情にも
2枠4番。
ハクサンムーンや
パドトロワが同じく
ひと桁馬番だったらまだしも、その2頭は
ふた桁馬番となり、明らかな差ができてしまった。
そのために
フォーエバーマークには印を付けなかったが、あの枠順の差がありながら、後続に3馬身以上の差を付け、
ハクサンムーンと3/4馬身差でゴールするのだから、
立派なものだ。初の重賞制覇は成らなかったが、心から拍手を贈りたい走りだった。
ハクサンムーンは、その名前が示す通り、
アドマイヤムーンの産駒だが、母
チリエージェを抜きには語れない存在だろう。
チリエージェは
サクラバクシンオーの産駒で、短距離戦で逃げを打ち、5勝をマークした馬だった。
チリエージェは父が
サクラバクシンオーで、母が
シェイディハイツ×
モガミ×
マルゼンスキーという配合だ。芝重賞で活躍する
サクラバクシンオー産駒は、母系に
スタミナ色の強いノーザンダンサー系を持っていることが多く、
チリエージェもこれに該当する。
チリエージェ自身は準OP以上で好走歴がなく、重賞は1戦して
⑤着に敗れているが、その素養は息子に引き継がれたのだろう。いい孝行息子ができて、良かったですね。
サマースプリントシリーズはこれで3レースが終了し、
ハクサンムーンがハナに立った。今回の10ptで合計15ptとし、2位の
パドトロワに4pt差を付けている。残りはまだ3戦(
北九州記念、
キーンランドC、
セントウルS)あるので、油断はできないだろうが、レース同様、こちらも押し切る可能性は十分に高いだろう。
次走で
北九州記念や
キーンランドCに出走するとなると、中2~3週になるので、有力なのは
セントウルSだろうか。同レースは秋の阪神開催の
開幕週に行われる。
ハクサンムーンのスピードを見せつけるには、格好の舞台だろう。
個人的にも、実は、
ハクサンムーンには
セントウルSに出走してほしいと願っている。
ハクサンムーンの母
チリエージェが現役時代に唯一出走した重賞レースが
セントウルSで、その時はハナを奪ったものの、勝った
ゴールデンキャストに早めに来られ、②着と0秒3差の⑤着に敗れているからだ。
あれから9年。
ハクサンムーンには、ぜひとも
お母さんの忘れ物を取りに行ってほしいと思っている。