馬を信じ切っている、そんな騎乗ぶりだった
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/森鷹史
「空前の混戦」との戦前の評価をあざ笑うような決め手だった。②着
スマートレイアーに0秒2差をつけて
完勝。この世代の
牝馬最強は
メイショウマンボであることがはっきりと分かった。
武幸四郎騎手はお立ち台で開口一番、こう言った。
「正直、自信がありました」。確かに、同騎手の言葉や、そのニュアンスをつなぎ合わせると、獲るべくして獲ったG1ということが伝わってくる。
ローズS前は
「ここは本番へのステップだから」と語り、リラックスした雰囲気を漂わせた。馬も8キロ増の太めの馬体で、気持ち早めに仕掛けていって④着。いかにも前哨戦という形で
ローズSを通過した。
この中間は一転、びしびしと追われた。ここが全力投球の場。迷いなし。そんなムードが伝わってきた。ただ、
武幸騎手の肩に力は入っていなかった。
「勝てばティコティコタック(00年)以来? あれから僕もキャリアを重ねたからね。結果が出るといいな」
もっとも計画通りに運び、人馬に力みもないのは
メイショウマンボだ。自慢に聞こえたら恐縮だが、自分はそう感じ、
マンボに本命を打った。
馬を信じ切っている。そんな騎乗ぶりだった。8枠16番からのスタートから、堂々と外を回って道中のリズムを刻んだ。この日の
京都1R(芝1400m)。逃げた馬と、徹底インからロスなく運んだ馬で①&②着が決まるのを見て、自分はイン有利だと感じた。多くの騎手も同じことを思ったはずだ。
だが、
武幸騎手は馬群に入れる気はないように見えた。
「小細工せずレースをしようと思っていた」。ヒーローインタビューで語った通りの直球競馬。下手に動くより、馬との呼吸を楽しもう。人馬で口笛でもハモりながら、勝負どころへと向かっているように見えた。
3コーナー過ぎ。グッと流れがきつくなった。ラップ的にはそう変化はなくても、馬群は密集し、バテる馬が出始めた。
武幸騎手の騎乗姿勢が変わった。
メイショウマンボにも気合が乗り始める。だが、慌ててはいなかった。
ガシガシと押しながら。外から
デニムアンドルビーが上がってきた。それでも手は動かなかった。進路を確保するために、多少
マンボを誘導しただけだった。勝つのは
マンボ。この時点で、そんな予感がした。
直線は独壇場だった。四肢から力強いフットワークを繰り出す。残り100mで先頭に立つ。脚色は衰えず、1完歩ごとに後続を引き離した。横一線の②着争いを尻目に
完勝。そう、まさに
完勝だった。
これで
京都内回りは3戦3勝。
オークス制覇で忘れられていたかもしれないが、直線の短いコースでは好成績を残しているのだ。次走は
エリザベス女王杯だろうが、暮れには
有馬記念に出てきてほしいと願っている。
オルフェーヴル、
ゴールドシップなど強敵がそろうが、
一発あっていいはずだ。
スマートレイアーも堂々と戦った。半馬身出遅れたが、懸命に巻き返して②着。この銀メダルは価値がある。4月7日、
桜花賞デーの
阪神未勝利戦でデビュー。そこから3勝を積み上げ、大舞台へと駒を進めた。G1どころか、重賞も初めてで2番人気とは、馬も驚いたのではあるまいか。そんな状況下での
快走。単勝馬券を握っていた人には申し訳ないが、馬を褒めてやってほしい。
③着は15番人気
リラコサージュ。終始スムーズに流れに乗り、最後の最後で1番人気
デニムアンドルビーを競り落とした。
スプリンターズSでは、やはり15番人気だった
マヤノリュウジンを③着に持ってきた
池添騎手。この秋、明らかにリズムがいい。
そして、その
デニムアンドルビー。内回りを意識して
内田騎手は早めに仕掛けていき、勝負を懸けた。レース後、同騎手は
「僕がもっと技術を磨かなければ」と反省していたが、もっと条件がそろわなければ勝てない。京都の内回りでは、ここまでが限界だったのではないか。