重賞の壁の上に君臨したG1馬
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
今年の
府中牝馬Sでは、最終的に単勝オッズが10倍を切った馬が5頭いたが、
1番人気に推されたのは
重賞未勝利の
アロマティコだった。前走・
佐渡S(1600万)の勝ちっぷりがあまりに鮮やかだったからだろうが、正直、
1番人気というのはどうか?という気持ちがしていた。
このレースが
府中牝馬Sという名称に変わった92年以降、
1番人気が
重賞未勝利馬だったことは2回だけで、今回は実に
18年ぶりだった。93年に重賞未勝利ながら
1番人気に推された
ウェディングケーキは⑨着に敗れ、95年の
トーワダーリンも⑦着に終わっている。
92年以降の
府中牝馬Sでは1番人気は[8.3.4.6]で、決して悪い成績ではない。ただ、馬券に絡んだ馬はすべて
重賞ウイナーで、人気に応えるには
実績がほしい印象があった。
08~10年は、
ブルーメンブラット、
ムードインディゴ、
テイエムオーロラと3年連続で
重賞未勝利の馬が制していたが、いずれも4番人気以下の支持だった。そして、10年を最後に
府中牝馬Sは
G2へ昇格され、近2年は
重賞ウイナーが優勝している。今年も含めれば3年連続で
重賞ウイナーが制していて、
格が問われる面が出てきているのではないか。
アロマティコが
1番人気に推された時点で、
「なに、あの子」的な声を感じていたわけだが、実際のレースも超スローペースで流れ、その末脚は
封殺される結果になった。
逃げ馬不在の中、ハナを奪ったのは
コスモネモシンで、1000m通過が63秒8。レースの上がり3Fが
32秒8だったから、内を先行した馬にしか出番のない流れだった。
アロマティコは中団からまったく伸びなかったように見えたが、上がり3Fを比べると、今回は
前走(33秒4)よりも1秒も速い(
32秒4)。前走はそれでも他に33秒台の上がりを使った馬がおらず、圧勝する形になったけれど、今回は32秒台の上がりを使った馬が
アロマティコ以外に11頭もいた。これが
重賞の壁でもあったのだろう。
②着に入った
ドナウブルーは今回のメンバーの中では先行力があったので、想定通りのレースだったと言えるが、優勝した
ホエールキャプチャが3番手に付けたことには驚いた。
蛯名騎手がレース後に話していたように、状態が良化して、
前向きさが戻ってきていたのだろう。
ホエールキャプチャは直線半ばで
コスモネモシンを捕まえに行き、仕掛けは見た目にも早い印象だったが、
蛯名騎手自身、
「地力を信用して動いた」とのことだった。
最後は
ドナウブルーや
スイートサルサが差を詰め、僅差の決着になったが、あの差が
G1馬と
他の重賞ウイナーとの差にも感じられた。地力が高いからこそ先に動き、凌ぐことができたのだろう。
「
G2は
G1につながるレース」ということで、
府中牝馬Sは
エリザベス女王杯への前哨戦的な位置づけになるが、正直なところ、今回のレースは
まったくつながらないと思われる。
エリザベス女王杯が古馬に開放された96年以降、レースの上がり3Fが
33秒台になったことが3度あるが、いずれも02年以前で、03年以降の過去10年では、
34秒台になったことも2回しかない(05年と07年)。
クィーンスプマンテが逃げ切った09年も上がり3Fは36秒8で、近年の
エリザベス女王杯は
上がりの速いレースにはなりづらい。32~33秒台の上がりが必要かと言えば、必ずしもそうとは言えないのだ。
今回の
府中牝馬Sは
エリザベス女王杯には直結しないだろうが、しかし、
G1馬・
ホエールキャプチャの状態が戻ってきたことは頭の中に入れておいた方がいいだろう。
ホエールキャプチャは、昨年の
エリザベス女王杯では重馬場となって⑩着に敗れたが、一昨年は
秋華賞を走った後で積極的なレースを見せて④着(0秒4差)となっている。確かに
2200mという距離は長いのかもしれないが、臨戦過程は昨年よりも良いし、良馬場での施行ならチャンスがあっていいだろう。
今回のレースを見る限り、
牝馬同士なら、
G3勝ちのメンバーなどとは勝負付けが済んでいる印象があるから、今度はよりメンバーの揃う
G1で、さらに
運が向くかどうかではないだろうか。