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ラプソデーを上回る着差で「道悪の菊花賞」を大楽勝
文/浅田知広、写真/森鷹史


開催日の台風直撃こそ避けられたものの、今年は久々に道悪の菊花賞となった。稍重以上ならナリタブライアンが制した94年以来、重馬場以上ならメジロマックイーンが制した90年(重)以来になる。

またすごい馬が2頭並んだものだが、ナリタブライアン春二冠を制していたのに対し、メジロマックイーンは当時条件馬。函館の不良馬場で900万条件を勝っていたあたりは、なにか今年に通ずるものがありそうな印象もあった。

そして、不良馬場の菊花賞ラプソデーが勝利した1957年以来となる史上2回目。ここまでくると、現在の競馬ファンでは見ていない、あるいは生まれていない人も多いくらいになる。

そんな「道悪の菊花賞も23年ぶりとか、56年ぶりとかいう話だが、レース前にはあわや「中央競馬全レース」で何年ぶりかという珍事も起きるか、という状況もあった。

それは「単勝2倍を切る1番人気馬がいるのに、最低人気が単勝万馬券にならないレース」。単勝80倍前後だった18番人気アクションスターが最終的には109.9倍になったが、もし100倍を切っていれば、17頭立て以上では23年ぶり(90年小倉・耶馬渓特別)、16頭立て以上でも08年の函館スプリントS(優勝馬キンシャサノキセキ)以来5年ぶりになるところだった。

こういった状況を招いたのは、「1頭が断然人気にはなるけれど、微妙に信頼されていない」かつ「相手候補も一長一短」だったためだ。

1番人気は、皐月賞ダービーともに②着のエピファネイア春二冠の⑤着以内は、ほかに皐月賞⑤着のタマモベストプレイだけというメンバー構成で、さらにトライアルの神戸新聞杯も快勝したとなれば、当然のごとく断然人気にはなる。

しかし、そうなってはみたものの、初距離での折り合い、そして未知の道悪適性など考え始めるとどうなんだ、という前日から当日15時ころまでの1倍台後半だった(最終的には1.6倍)。

とはいえ。それでエピファネイア凡走するならともかく、9割でも力を出したときに負かせる馬がいるかといえばどうなんだ、という混戦模様の他の17頭。また、たとえエピファネイアが折り合いを欠いたところで、実際に皐月賞ダービーともに②着なのだから、引っ掛かってもその「9割」くらいの力は出すのではないか、という印象もあった。

そしてスタート。エピファネイアが前々につけることは、弥生賞前までのレースぶりからすれば不思議はないものの、大方の予想通りと言うべきか、1周目3~4コーナー中間からスタンド前あたりはクビを右に左に、かなり行きたがる素振りを見せていた。

ただ、そんなロスを最小限にとどめ、やはり「9割でも力を出す」競馬に持ち込んだのが1コーナーから。1200mを通過し、逃げるバンデのラップが12秒台後半や13秒台に落ちても、ピタリと折り合いをつけてのレース運び。

その後は前のバンデも無視できない一方で、後続馬の動きも気になる、目標にされる立場には追いやられたが、ここまでくれば、皐月賞馬ダービー馬もいない舞台で、春二冠②着馬の実力を発揮するのみだ。

結果的には不良馬場もまったく苦にせず、②着争いを繰り広げるサトノノブレスバンデを尻目に、後続に5馬身差をつける大楽勝。着差のつきやすい長距離戦、そして道悪競馬だが、前回の不良馬場でラプソデーが②着オンワードゼア(翌年の天皇賞・春有馬記念を制覇)につけた3馬身差を上回る着差での勝利となった。

距離不安がなく、実績馬が海外遠征や故障でごっそり抜けた天皇賞(秋)を選ぶ手もあっただろうが、この菊花賞を選択しただけのことはあるとも言える快勝だ。

そして手綱をとった福永騎手は、これが42回目の挑戦で牡馬クラシック初制覇。デビュー3年目の98年、キングヘイローで逃げてしまった日本ダービーは、武豊騎手ダービー初制覇(スペシャルウィークエピファネイアの母の父)とともに印象に残るレースだが、今回は折り合いの難しい馬をなんとかなだめすかし、ついに牡馬でもクラシックを手中にした。

また、これまでダートや芝のマイル以下での活躍馬が目立ったシンボリクリスエス産駒から、エピファネイアはついに登場した芝中~長距離路線でのG1馬になる。こういった馬が超大物に育つことはあるもので、今後の古馬勢との戦いでどんな走りを見せてくれるのかも楽しみになってきた。