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本当に目を見張るぐらいの「圧勝」だった
文/石田敏徳、写真/稲葉訓也


朝の府中駅に降り立って空を見上げたら、頭上には驚くぐらいの青空が広がっていた。で、競馬場に着いてまずは馬場状態を確認すると、9時前の時点で芝コースのコンディションは稍重と発表されていたから再びビックリ。

逃げ馬が内ラチ沿いを回らず、一様に外へ進路を取る場面が繰り返された前日の芝コース(不良)の状況からすれば、少なくとも午前中までは道悪の後遺症が残るだろうし、今回の天皇賞では「馬場の回復状況がポイントのひとつになる」と考えていたのだが、のっけから予想が外れた格好である。

さて、その芝コースの状態は5Rを迎える時点で良に回復。ただし複数の騎手が「時計はそれなりに速いけど、少し走りづらい」と話していたように、傍目にもパンパンの良馬場とまではいかないコンディションと映った。

軽い高速馬場ではなく、微妙に上がり時計もかかる馬場とくれば、「うん、ハーツクライ産駒だよな」と頷く向きもあるだろうが、私は“それ”が天皇賞のポイントだったとは思わない。ジャスタウェイの勝ちっぷりは馬場状態が云々なんて話を一掃してしまうぐらい際立っていた。

大方の予想通り、トウケイヘイローが先手を奪ったレースは、大方の予想を上回る速い流れで進んだ。「コーナーを4つ回るコースなら、1コーナーでハミが抜けて息を入れられるんだけど、今日は3コーナーまで馬が力んでいた」とは武豊騎手の弁で、阪神の内回りや函館とは勝手が異なる東京の広々とした馬場を走る段になって、馬が無我夢中になってしまったのかもしれない。

ちなみに、2ハロン目から4ハロン目(つまり、200m地点から800m地点にかけて)のラップは11秒3-11秒1-11秒5というもので、これを積算すると33秒9。東京コースの長いバックストレッチを「息を入れずに」突っ走ってしまったことを、数字も物語っていた。

そんなトウケイヘイローが刻んだハイラップ(前半1000mの通過は58秒4)に、まともにくっ付いていってしまったのが断然の1番人気に支持されたジェンティルドンナで、岩田康誠騎手によれば「出たなりの位置でレースを運ぼうと思っていたが、今日は馬が驚いたようにゲートを飛び出した」そう。

「折り合いはついていたし、ペースもそれほど速いとは感じなかった」とも彼は話したが、レースの映像を見直すとゲートを出てからしばらく、馬は行きたがる素振りを見せており、前述したハイラップを2、3番手で掛かり気味に追いかけたのだから、本来の末脚を発揮できなかったのも無理はない。

結果的にはスタートがよすぎたことが仇となった格好だが、それでも後続の追撃は寄せ付けず②着は確保したのだから、内容的には非常に強い競馬をしたといえる。

一方、かつては課題と指摘されていたスタートをまずまず上手に決めて、中団馬群の外で流れに乗ったのが福永祐一騎手ジャスタウェイだった。

彼がこの馬とコンビを組んだ今年の2戦、6月のエプソムCでは「ゲートに突進」して、8月の関屋記念では「ゲート内でゴソゴソと」して出遅れ、それも響いて②着に惜敗していたものの、この日は本馬場入場後、発走前に1頭でゲートに入れて“練習”した甲斐もあって、数馬身前にエイシンフラッシュを眺めるという、理想的な形でレースを進めることができた。

そして直線、「レース前は内を突くつもりでいたんだけど、(外側に)道が開けていたので」という外めへ持ち出してゴーサインを送ると、鞍上の指示に馬も鋭く反応。直線半ばで力尽きたトウケイヘイローをかわし、押し切りを狙った内のジェンティルドンナ「見えなかった」というほどの爆発的な勢いで先頭に抜け出し、見る見るうちにリードを広げた。

最終的な着差は実に4馬身。いくらジェンティルドンナに展開面のビハインドがあったといっても、③着のエイシンフラッシュにはインを狙った直線で少し窮屈になるロスがあったといっても、これは完勝であり、「圧勝」とさえいえる着差である。いやいや、本当に目を見張るぐらいの勝ちっぷりだった。

「2、3歳時は心身ともにひ弱な面があって、レースを使うとガタっときていたのが、ここにきてだいぶ逞しくなり、アフターケアに時間がかからなくなった」と、4歳秋を迎えての充実を勝因のひとつにあげたのは須貝尚介調教師

エプソムC関屋記念、さらに前走の毎日王冠と3戦連続で②着に甘んじていたぶん、喜びもひとしおだったようで、ゴールの瞬間は少しウルッときたそうだが、「②着の積み重ねがあったから今回、このレースに出走できた」(=1週前登録時点でのジャスタウェイの出走決定順位は20番目で、当初は除外の対象だった)ことも見逃せない。

さて、牡馬クラシック初制覇を果たした先週の菊花賞に続く2週連続のG1制覇を果たした福永騎手ともども、完全に“一皮剥けた”ことを印象付けたジャスタウェイだが、「無理はさせたくないのでジャパンCは使いません。ベストの距離は1800mだと思うし……」(須貝調教師)とのことで、注目される今後の進路については白紙の情勢。

ただ、古馬の中距離戦線にとんでもなく強力な新星が誕生したことは確かで、ゆくゆくは同厩の同期生、ゴールドシップとの対決にも注目が集まる。