無事是名馬だから成し得た成果だろう
文/編集部(M)、写真/森鷹史
東京芝2500m重賞である
アルゼンチン共和国杯と
目黒記念では、
初の重賞制覇が成し遂げられるケースがとても多い。2010年以降は、今春の
目黒記念(
ムスカテール)まで、7回連続で重賞未勝利馬が優勝してきた。
06年以降の両レースの勝ち馬は、次の通りとなっていた。
06年以降の目黒記念&アルゼンチン共和国杯勝ち馬
年 |
レース |
勝ち馬 |
06年 |
目黒 |
ポップロック |
06年 |
AR |
トウショウナイト |
07年 |
目黒 |
ポップロック |
07年 |
AR |
アドマイヤジュピタ |
08年 |
目黒 |
ホクトスルタン |
08年 |
AR |
スクリーンヒーロー |
09年 |
目黒 |
ミヤビランベリ |
09年 |
AR |
ミヤビランベリ |
10年 |
目黒 |
コパノジングー |
10年 |
AR |
トーセンジョーダン |
11年 |
目黒 |
キングトップガン |
11年 |
AR |
トレイルブレイザー |
12年 |
目黒 |
スマートロビン |
12年 |
AR |
ルルーシュ |
13年 |
目黒 |
ムスカテール |
地色が
ピンク色の馬が
重賞初制覇で、実に15レース中12レースを重賞未勝利馬が制している。
このような現象が起こるのは、
時期や
ハンデ戦の影響が大きいのだろう。重賞ウイナーは、当然のことながら
重いハンデを背負わされやすく、
アルゼンチン共和国杯の場合は、ここをステップに
ジャパンCに向かう目論見の馬もいると思われる。
これに対して
重賞未勝利の馬は、比較的ハンデが軽いし、ここを目標に仕上げられてきやすいこともあるのだろう。06年以降に重賞未勝利で優勝した馬は12頭で、そのうち11頭が
4~5歳馬だから、馬の
成長曲線と
重くないハンデが絶妙にマッチする面もあるのかもしれない。
今年の
アルゼンチン共和国杯で重賞未勝利の4~5歳馬は、7頭いた(
ニューダイナスティ、
デスペラード、
コスモロビン、
シゲルササグリ、
エックスマーク、
マイネルマーク、
ホッコーブレーヴ)。この中では
エックスマークと
ホッコーブレーヴが人気を集める形になったが、どちらも
外枠となったことが気になった。
東京芝2400~2500mの重賞では、いくら軽ハンデの馬でも
外枠だと差し込みづらい。昇級の勢いで突破する可能性もありそうに感じたが、結果的には厳しかったようだ。
ホッコーブレーヴは大外を追いこんだものの⑤着までで、
エックスマークは⑦着に敗れた。
重賞未勝利馬が勝てないとなると、どんなタイプの重賞ウイナーが制するのか? そう考えて過去の勝ち馬を眺めると、該当馬は
ポップロックと
ミヤビランベリなので、
距離実績が重要に感じられた。
07年目黒記念の
ポップロックは前年に同レースを制していたし、
09年アルゼンチン共和国杯の
ミヤビランベリも同年に
目黒記念を勝っていた。
こう考えれば、昨年の覇者である
ルルーシュや今年の
目黒記念を制した
ムスカテールに食指が動きやすい。だが、
ムスカテールは直線で見せ場を作ったものの伸びきれず(⑧着)、
ルルーシュは先頭に立つ場面を作りながら、もうワンパンチが利かなかった(③着)。
優勝したのは
アスカクリチャンで、同馬は
重賞ウイナーでありながら距離実績がなく(2500m戦は初めてだった)、
過去の優勝馬とはまったく異なるタイプだった。
ハンデは56kgで、これは
メイショウナルトと同じだったから、
重くも軽くもなかったと言えそう。枠順も
6枠12番なので、
内枠ではなかったものの、外枠とも言えない位置だった。実績上位馬でも上がり馬でもなく、
なんとも仕分けづらい存在だった。だからこそ、7番人気という微妙な位置に落ち着いたのかもしれない(笑)。
隠れ蓑になったのは、
近2走の成績だろう。
函館記念③着→
札幌記念②着という成績でここへ臨戦していれば上位人気の一角に食い込んでいたのだろうが、
オールカマーで
⑤着となり、前走では
OP特別(
アイルランドT)でも
④着に敗れた。この2戦が人気の低減に拍車をかけ、重ハンデの回避にもつながったように思う。
この事実だけを見れば、
上手いことやったなあ、という気もするものだが、冷静に考えれば、
違う感情も湧いてくる。
アスカクリチャンは今夏以降ですでに4戦し、今年はこのレースで
8戦目だった。
無事是名馬だからこそ、成し得た成果とも言えるだろう。
函館記念では外枠を克服して③着まで差し込み、
札幌記念では、あの極悪馬場の中で②着まで差し込んだ。その後も疲れを見せずにいつも堅実に差してきて、
ヘコたれない根性と肉体の持ち主だからこそ、今回の舞台で再び戴冠したのだと思う。本当に、頭の下がる馬だ。
ちなみに、
函館記念と
札幌記念で
アスカクリチャンとともに③着以内に入った
アンコイルドも、その後の
京都大賞典で②着まで差し込み、続く
天皇賞・秋でも④着に健闘した。
今回の
アスカクリチャンについても、
天皇賞・秋での
アンコイルドについても、
「もう疲れているだろう」なんて思った人もいたのではないか。いやいや、そんなことはなかったのだ。この2頭の頑張り、そして、ケアをして万全の状態にもってきている厩舎関係者の皆さんは、
本当に素晴らしいと思う。
アスカクリチャンは、ハンデ55kgで
七夕賞を優勝し、ハンデ56kgで
アルゼンチン共和国杯を制した。今後、重ハンデは避けられないところだろう。
でも、過去には斤量58kgを背負って、
準OP(
2011ゴールデンホイップT)を勝ったことがある馬だ。連戦でもヘコたれない肉体には、重ハンデを克服する資質も備わっているのではないだろうか。