今回覆ったデータは「前走新馬・未勝利組」だった
文/浅田知広、写真/稲葉訓也
今週の2歳重賞ふたつ、
京王杯2歳Sと
ファンタジーSはともに、サンデーサイレンス系種牡馬がなかなか勝てないレース。それでも
ファンタジーSは過去10年で1頭は勝っていたのに対し、こちら
京王杯2歳Sは95年のサンデーサイレンス直仔初出走以来、
[0.4.4.29]と相性の悪さは際立っていた。
もっとも今年、断然の1番人気に推されたのは非サンデーサイレンス系の
モーリスだった。祖父
グラスワンダーは97年の優勝馬で、グラスワンダー産駒も
マイネルレーニアが06年に優勝しており、スクリーンヒーロー産駒の
モーリスにこのデータは関係なし。2~3番人気がサンデーサイレンス系という中では、むしろ
モーリスの優勝確率を高めそうなデータだった。
しかし、
気になるデータはもうひとつあった。前走が新馬・未勝利だった馬の優勝は99年
ダイワカーソンが最後で、
翌00年以降は[0.4.3.45]。これにはその
モーリスや、5番人気の
カラダレジェンドが引っかかる。ほかに、
前走⑩着以下の馬は少なくとも過去20年は勝っていない、などという傾向も合わせると、勝ち馬候補はかなり絞られることに。
しかもその候補は、
アポロスターズ(4番人気)、
テイエムキュウコー(7番人気)、
マイネルディアベル(9番人気)、
ペガサスジュニア(11番人気)、
オイダシダイコ(14番人気)と人気薄が目立つ。
果たして九州産馬(
テイエムキュウコー)による8年ぶり(
05年アイビスSDの
テイエムチュラサン以来)の
JRA平地重賞制覇が見られるのか、それともなにかのデータが覆るのか、あるいはさらに人気薄から優勝馬が出るのか。いずれにしても、データなり人気馬なりを信じていた人から
「こんなはずではなかった」という声が続出することだけは、レース前から決まっていた。
そして迎えたレースでは、人気の
モーリスが出遅れを喫して、いきなり
「こんなはずではなかった」。さらに追い打ちをかけたのが、先導した
マイネルディアベルの刻むペースの遅さで、前半36秒7-48秒8という超スローである。こうなってしまうと、後方追走組には出番なし。
モーリスも上がり33秒1の脚こそ繰り出したものの、
前とは差のある⑥着までが精一杯だった。
そして焦点は、前の組からいったいどの馬が勝利を手にするのか。スローペースらしく、
ラブリープラネットと
カラダレジェンドの争いになかなか決着がつかなかった上、ゴール前では
クインズハリジャンの強襲もあって僅差の勝負に。
そんな競馬で最後に勝利を手にしたのは、フレンチデピュティ産駒で「非サンデーサイレンス系」になる
カラダレジェンド。
今回は「前走新馬・未勝利組」のデータのほうが覆ったのだ。
この
カラダレジェンド、単に前走が
新馬戦というだけでなく、先週の
新馬戦だったこともデータ的には買いづらい要素で、このレースで連闘馬の馬券圏内は94年③着の
シンガージョン以来。また、
デビュー7日後の重賞制覇は、グレード制導入後の最短タイ記録(
04年小倉2歳Sの
コスモヴァレンチ以来)でもあった。
ただ、なにせ先週の結果。目立つ走りをしていればその印象もまだ新鮮で、直線坂上で非常に鋭い反応を見せていたことは記憶に新しい。その
新馬戦は同じ東京芝1400mで、800m通過はなんと50秒1。同じスローでも、それに比べればまだ速かった今回、さすがに前走ほどの爆発力は見られなかったものの、
「短距離なのにスローの上がり勝負」という競馬を経験していた強みも出ただろうか。
そしてこの勝利で、この春開業したばかりの
尾形和幸調教師は
JRA重賞初制覇。このレースでは出走例すら少なかった、連闘を敢行しての
タイトル獲得となった。今年は牝馬ばかりが勝っていた2歳重賞で、ようやく誕生した牡馬の優勝馬だけに、暮れの
朝日杯FSへ向けても大きく前進したのは間違いない。
もちろん今度はG1で違った流れ、厳しい競馬も待っているはず。ただ、
カラダレジェンドはこの2戦、
「動きたいときに動く」だけではなく
「動かない」も含めて
鞍上の指示通りの走りを見せている。
これなら、異なる舞台でさらなる強敵相手になっても自分の力を出し切って、今度は
「厩舎開業年のG1制覇」をもたらす可能性も十分にあるだろう。ちなみに
朝日杯FSは、この
カラダレジェンドと同じ
「母の父サンデーサイレンス」が現在5連勝中だ。