今年も1000万組の年だった、という結果に
文/浅田知広、写真/稲葉訓也
父内国産馬限定戦から、04年に
牝馬限定戦に変わって今年で10回目を迎えた
愛知杯。当初は6月だったが、12月に移動してからでも8回目と、暮れの重賞としてすっかり定着してきた印象だ。
ただ、レースの存在自体は定着したものの、
その傾向はどうにもよくわからない、というのが正直なところでもある。
エリザベス女王杯が終わって約ひと月。ここから来年へ向けて再スタートという流れの中で、優勝馬5頭が同年の
エリザベス女王杯組なのだから、この組が一応の中心にはなる。
しかし残る2頭の優勝馬は、前走1000万の
セラフィックロンプと
エーシンメンフィス。6月の時代にも前走1000万の
マイネソーサリスが優勝していたが(もう1頭は前走1600万)、いずれにしても勝ち馬はG1組か条件戦組かという、
両極端の結果が出ていた。
さらに今年は
「よくわからない」どころか
「わけがわからない」上位人気のメンバーだった。
確かに実績面からは、こんな人気だろうというあたりには落ち着いてはいた。しかしその落ち着いた結果が、1~6番人気馬すべて、
前走の3コーナー通過順が10番手以下だったのだ。「1~5番人気馬の前走が3コーナー10番手以下」としても、手元で調べられる範囲内、過去20年あまりの重賞の中では
初めてのケースである。
もちろん、有力馬が差し・追い込みばかりだからといって、前の馬が楽々逃げ切るとはかぎらない……、と思いながらレースを見ていれば、前半の1000m通過は
62秒0。これで馬群が一団ならまだしも、縦に伸びてバラバラの展開。いかにも
人気薄で軽ハンデの先行馬が残って大波乱になりそうな雰囲気だ。
そんな印象通り、直線では道中2番手を追走していたハンデ50キロの
ウエスタンレベッカが抜け出し、後方の有力どころは伸びひと息。一瞬は、そのまま
ウエスタンレベッカが残りそうな場面もあった。
しかし、そこは直線が長くなり、坂もできた中京コース。昨年の
エーシンメンフィスに続いて、2年連続で完全な前残りとはならなかった。もっとも、その
ウエスタンレベッカをズバっと差し切ったのは、同じく軽ハンデ・50キロで12番人気の
フーラブライドである。
終わってみれば、直線半ばまで見せ場を作ったのも、最後に勝利を手にしたのも、今年2頭しかいなかった前走1000万組の軽ハンデ馬。
女王杯組や
秋華賞組はすべて④着以下に沈んでおり、
今年も1000万組の年だった、ということになる。
そして、②着には14番人気・
キャトルフィーユ、③着には13番人気・
コスモネモシンと入って、3連単は
471万馬券。重賞で上位3頭がふた桁人気というのは、11年の
中山牝馬S(10→14→13番人気)以来。その前は05年、牝馬限定2年目だった
愛知杯の13→11→14番人気、やっぱり牝馬限定のハンデ重賞は……、という結果だ。ちなみに、もうひとつ前の例は
サニーブライアンが勝った97年の
皐月賞で、11→10→12番人気だった。
そんな波乱のレースで重賞初制覇を飾った
フーラブライドは、サンデー系種牡馬に母の父
メジロマックイーンという、どこかで見たような配合の4歳牝馬。ただ「見たような」だけでゴールド違い、父は
ステイゴールドではなく
ゴールドアリュールである。
ゴールドアリュールといえば、
エスポワールシチーや
スマートファルコンといったダート巧者を多く輩出している種牡馬。しかしこの
フーラブライドは、前々走から
芝に転じて3連勝という変わり種だ。
芝でデビュー3戦を消化した後、4戦目以降のダート戦では[2.6.3.9]で⑥着以下は2回だけ。安定している一方でちょっと勝ち切れない、ゴールドアリュール産駒でいえば、芝で活躍した
タケミカヅチの3歳前半あたりまでのような成績だった。
しかし、芝になったら今度はダート巧者の先輩・
エスポワールシチーや
スマートファルコンのような
連戦連勝、となるのかどうか。
エスポワールシチーは
最長6連勝、
スマートファルコンは
9連勝。ちょっと下がって
シルクフォーチュンの
4連勝というのもあるが、
フーラブライドは
「3」まできた。
母の父
メジロマックイーン、そして近親には懐かしい
ランニングフリーという名前もあり、血統的には晩成の雰囲気も漂うこの馬。今回が50キロの軽ハンデだからといって
フロック視していると、今後も立て続けに痛い目に遭わされる可能性もありそうだ。