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混戦を一刀両断してダービー戦線の最有力候補へ
文/石田敏徳、写真/川井博


最終的にはトゥザワールドが頭ひとつ抜けたオッズで1番人気に支持されたものの、「1番人気馬を当てるだけでも難しい」という悲鳴が聞かれるほどの、強い混戦ムードが漂うなかで迎えた今年の皐月賞。実際、金曜前売りの時点で1番人気に支持されていたのはイスラボニータだった。

それを見た瞬間、主戦の蛯名正義騎手は反射的にこう思ったという。

(おいおい、マジかよ!?)

2歳の夏、東京1マイルの新馬戦でデビュー。その後は新潟2歳S(②着)、いちょうS(①着)、東京スポーツ杯2歳S(①着)と進み、3歳のシーズンは共同通信杯(①着)から皐月賞へ直行するローテーションが組まれたイスラボニータは、2000mの距離も中山コースも──さらにいえば右回りの実戦も──経験していない。

皐月賞への王道と呼ばれる弥生賞組と顔を合わせるのだって、ワンアンドオンリー以外は今回が初めて。要は「やってみなければ分からない」要素をいくつも抱えている自分の馬が1番人気に支持されるとは、は思っていなかったのだ。

このうち、お互い様といえた相手関係はともかくとしても、初めての距離とコースに挑むフジキセキ産駒。レース前、周囲がイスラボニータに対して貼り付けた数々のクエスチョン・マークを、他ならぬ蛯名騎手自身も不安に感じていた。

しかし“やってみなければ分からない”“大丈夫かもしれない”と同義でもある。だから人気云々は関係なく、最終的にはこう腹を括ってレースに臨んだという。

(とにかく馬の力を信頼して“自分がやるべきことをやる”ことだけを考えよう)

そして一冠目の戦いが終わったとき、今年の牡馬クラシックロードを包みこんできた混戦の霧は綺麗に晴れ渡っていた──とまで書いたらさすがに大袈裟か? しかしそう表したくなるぐらい、イスラボニータの勝ちっぷりが鮮やかで見事だったことは衆目の一致するところだろう。

最初のポイントとなった場面は1、2コーナーの捌き。大外枠から迷わず先手を奪いに来た柴田大知騎手ウインフルブルームをはじめ、外めの枠を引いた馬たちがインへ殺到してきて、いったんは馬群に包まれかかったイスラボニータだが、「綺麗な走りをする馬なので、ゴチャゴチャしたレースにはしたくなかった。内枠(1枠2番)が仇にならないような競馬をさせたいと思っていた」という蛯名騎手は落ち着いてこれをやり過ごし、馬を外のスペースに持ち出す。

当の本人「外からドッと殺到してきたのでかえって外へ持ち出しやすい形になった。その意味では運もありました」と謙遜気味に振り返った場面だが、トゥザワールドトーセンスターダム池江泰寿調教師「うまく(イスラボニータを)内に閉じ込める形になって“しめしめ”と思って見ていたら、すかさず外へ持ち出されてしまった。あれは見事でしたね」とその手綱さばきを称賛。

そして好位集団の直後をのびのびと、しかも「しっかりと折り合って」走れたことが第2のポイントに、ひいては戴冠にも直結するのだ。

大名マークの構えで好位を追走、川田将雅騎手が今か今かと仕掛けのタイミングを窺っていたトゥザワールドの直後に取り付いて迎えた直線の入口。アクセルを目一杯に踏み込んでこれに襲い掛かった場面がその第2のポイントだった。

「これだけしっかり折り合えたのは新馬戦以来、というぐらい(道中の)折り合いがついていたから、ここで一気に仕掛けても凌ぎきれると思った。(川田騎手が)こっちを待っているのも分かっていたから、敢えて一気に仕掛けたんです」

いきなり出された全速の指示にも鋭く反応したイスラボニータは、抵抗の暇を与えずにトゥザワールドを抜き去り、そのまま反攻を許さずにゴール。不意打ちのような形で浴びせたスパートの一太刀が相手に致命傷を負わせたのだった。

こうして、非の打ち所のないレース運びで一冠目の覇者に輝いたイスラボニータ。東京へのコース替わりは今度は大きな追い風で、この日の走りができるなら400mの距離の延長も割引材料とは思えない。つまり、フジキセキのラスト・クロップが今年のダービー戦線の最有力候補に躍り出たことになる。

そのフジキセキの現役時代、デビュー戦の手綱を取ったのが実は蛯名騎手「不思議な巡り会わせだよねえ」としみじみ、振り返る人馬の“縁”が、ダービーの舞台では大きくクローズアップされることになりそうだ。