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人馬の絆は永遠であることを教えてくれた
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/森鷹史


週末の仁川には1日に何度かのまとまった雨があった。その影響だろう。良馬場発表とはいえ、宝塚記念当日の芝の勝ちタイムを見れば、いわゆる「パンパンの良」でなかったことは明らかだった。

昨年とほぼ同じコンディション。となれば、多くのファンがゴールドシップによる史上初の宝塚記念連覇の可能性を感じたことだろう。それは実力や実績以上に単勝オッズがゴールドシップに傾いたことにも表れていた。

ただ、ご存知のとおり、そうした常識すら簡単に白紙にしてしまうのがゴールドシップという稀代のクセ馬。今や一流厩舎となった須貝厩舎のスタッフを持ってしても、彼の気まぐれには手を焼いた。須貝調教師などは「こいつはずっと同じ人間が乗ったらすぐに気を抜く。浮気性なんや」とまで言っていたくらいだ。

しかし、モノを言わぬ生き物の性格、心理などは受け手によって変わるもの。気難しい、うるさい、荒い、あてにならない…そんなネガティブな要素が発現する原因はなぜだろうか?

おそらく横山典弘という人間はそうしたサラブレッドの心理に強い興味が惹かれるのだろう。須貝調教師「ノリちゃんなら」と騎乗依頼をすると、宝塚記念当週まで3週続けて栗東へ駆けつけ、自ら手綱を取った。

もちろん、ただまたがるだけではない。馬房の中に入るところからコミュニケーションが始まると、ゴールドシップという馬が何を感じ、何を望むのか…それを手綱越しに、鞍の上からつかみとろうとしていた。そして、下した結論が「非常に賢い馬」

必ずしも認めてもらうことが好結果につながるとは限らない。ただ、人間不信…というよりも、人間を見下した感じすらあったゴールドシップにとって、横山典弘のこうした判断と、そこから生まれるコンタクトは非常に心地よいものだったのだろう。直前の調教ではこれまで見たことがないほどスムーズな走りを披露した。ゴールドシップ横山典弘を受け入れた瞬間だった。

いつもなら馬場入りからロデオのように飛び跳ねて鞍上の手を焼かせるが、今回は後ろ跳ねを軽くした程度。大きなフットワークで走りはじめると、自らハミを取って待機所へと進み、ゲートインをおとなしく待っていた。これほどスムーズな準備をしたゴールドシップを見たのは、少なくともは初めてだった。

そして、ゲートが開く。大跳びがゆえにスタートは遅く見えたが、おかしな仕草を見せることもなく、スムーズにレースの流れに乗って行った。「きょうは乗っていただけです」横山典弘が振り返ったように、ここからはゴールドシップ横山典弘の意気にこたえる番。

鞍上との柔らかなタッチを楽しむようにして道中を進むと、直線入口では先行勢をいつでもとらえられる位置に。何度かムチが入ったものの、これに反応した感じでもないのがこの馬の我の強さ、ということか。直線半ばで自らの意思で加速すると、力強い脚取りで栄光のゴールを駆け抜けた。

②着カレンミロティック以下に3馬身もの差をつけたが、これは昨年同様に馬場適性の差もあったはず。とにかくこうした馬場では現役で敵なしと断言できるほどだ。

しかし、そんな適性の確認以上に陣営がよろこんだのは、ゴールドシップがこれまで見せたことがないようなスムーズな走りをしてくれたことだろう。後々、この日の走りがゴールドシップベストパフォーマンスとあげる人も多いはずだ。しかし、勝利へと導いた名手はあくまでパートナーを称える。

「よくゴールドシップが走ってくれました。その日の気分でだいぶ変わるだろうと思っていたので、ホッとしている。メジロライアンで勝ったときと同じくらいうれしい」

若き日にめぐり合ったメジロライアンという人生最高のパートナーとともに得た経験は、23年の時を越えても色あせない。人が馬を信頼すれば、馬もそれにこたえる。シンプルだが、競馬の世界でもっとも重要なことだ。人馬の絆は永遠、ということをこの日の宝塚記念は教えてくれた。

(文中敬称略)