涼しくなった時期だからこそ、注意すべき病気もあるんです
2014.8.28
先週暑さの話をしたところ、今週になって、嘘のように一気に涼しくなりました。
楽になって元気が出てくる馬もいますし、乱暴な言い方をすると、暑さが直接の原因として馬が命を落とすということもゼロになると言って良いでしょう。
しかし、涼しくなったからといって油断はできないんです。実はこの季節、競走能力だけでなく、命さえも奪ってしまう病気があるんです。
それはセタリア症(馬脊髄糸状虫症)というもので、蚊を媒介して馬の体内に糸状虫が入り込んでしまうというものです。
普通はボロなど排泄物と一緒に体外に出されるんですが、体のいろいろな部分に入り込んでしまうことがあるんですよ。これが目に入った場合は目から取り除くのですが、脊髄や脳に入ってしまうと取り返しが付かなくなってしまうんです。
しかも、この病気は気がついたときには手遅れということになってしまう場合が多いから、とても怖いんです。
脳であれば、表現が難しいですが錯乱状態に陥ってしまいますし、脳と脊髄に入ってしまった場合は運動器系の神経が冒されるからなのか、腰ふら状態で立っていられなくなってしまったりするんです。
この怖い病気というのは、夏が終わり、秋になって涼しくなっていく9月の終わりくらいから出はじめます。トレセンでも多い年で5、6頭、少ない年でも2、3頭くらいの割合で発症しています。
ちなみに、僕の少ない経験のなかでも、2頭発症しました。
馬の生命さえも奪ってしまう怖い病気ですが、蚊を媒介とする病気ですから、予防手段としては虫除け対策をするということが最初に挙がります。
蚊取り線香などだけでなく、厩舎の側溝などを清潔な状態に保つということも有効な手段だと考えられています。
牧場時代に、よく側溝を掃除しましたが、それだけでも虫の発生を抑えることができると思います。
それ以外では、実は効果があるとされる薬があるんですよ。いわゆる虫下しの薬です。正式な名前はイベルメクチンという薬なのですが、これが唯一効果があるとされています。
この薬は発症した後に投与して完治した症例が残っていますから、早い段階で投与していくことは有効な予防手段だと考えます。
ただ、一般的にこのような駆虫薬を使用する場合、糞便検査を行い、その虫に効果がある薬を使いわけているんですが、この検査でセタリア症は判明しないんです。
ですから、予防として駆虫を行う必要はあります。今の牧場では定期的に駆虫をされていて、そういう牧場の馬たちに関しては発症する確率が少なかったりするんです。
なかには、そんなに敏感にならなくても、という意見もあるとは思いますが、僕自身2頭も経験していて、そのむなしさは言葉にはできません。ある日突然、立てなくなってしまって…。
ですから、自分のなかでは、もう二度とそういう馬が出ないように心がけています。
蚊を媒介して拡大する病気というのは、馬はもちろん、他の動物でもたくさんあります。人間でも日本脳炎などの法定伝染病もありますから、蚊への対策、そして清潔さを保つということは常に大切なことだと思っています。
暑さも大敵ですが、蚊も実は大敵ということなんですよ。
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