“重賞では足りなかった”馬が急成長を遂げた
文/編集部(T)、写真/川井博
毎日王冠は芝1800mという距離設定から、芝2000mの
天皇賞・秋と、芝1600mの
マイルCSという、
ふたつのG1に向かう馬が前哨戦に選ぶ傾向が強いレースとして知られる。それは、過去10年の勝ち馬10頭すべてが同年の
天皇賞・秋か
マイルCSに出走していることからも分かる。
そして、
毎日王冠~天皇賞・秋~マイルCSで3連勝した06年
ダイワメジャー、09年
カンパニーをはじめとして、勝ち馬10頭中6頭が
天皇賞・秋か
マイルCSで馬券圏内に入っている。
ところで、今年からG1に向けてのステップレースと位置づけられる古馬重賞の勝ち馬にも、G1の優先出走権が与えられることになった。
毎日王冠は前述したような性格を持つレースだが、優先出走権は
天皇賞・秋と
マイルCSの両方…ではなく、
天皇賞・秋のみとなった。これで、
毎日王冠は晴れて(?)
天皇賞・秋のステップレースと公式に認められたわけだ(笑)。
※ちなみに、天皇賞・秋の優先出走権は毎日王冠以外ではオールカマーと京都大賞典の勝ち馬に、マイルCSの優先出走権は富士SとスワンSの勝ち馬に与えられます。冗談はともかく。今年はG1馬こそ
ロゴタイプ1頭のみだったが、それだけに
レベルが拮抗。マイルと中距離、それぞれの路線に向かいそうな馬が揃い、面白そうなメンバー構成となった。
そんな中、レースを制したのは
エアソミュール。3歳以降の勝ち鞍はすべて芝1800~2200mで、まさに
「大目標は天皇賞・秋」と言わんばかりの臨戦過程の馬だった。
“G2大将”、
“重賞では一歩足りない”、
“OPでは壁がある”などと評価されるように、レースの格で壁がある馬がいる。この
エアソミュールも以前はそうで、今年勝った
鳴尾記念以前は
OP特別で[4.0.1.1]だったのに対し、
重賞では[0.0.0.6]。分かりやすすぎるほどに
“重賞では足りない”馬だった。
それが、
鳴尾記念で重賞初制覇を飾ったのに次いで、今回は過去に4戦して馬券圏内がなかった
G2で勝利を収めた。今回約2年ぶりに
エアソミュールの鞍上を務めた
武豊騎手がレース後に
「この馬で折り合えたのは初めて」とコメントしたように、競走馬として完成されつつあるのだろう。
エアソミュールがG1に出走したことはまだない。レース前、今年の
毎日王冠は
「メンバー的にどうか」などとも言われていたが、この勢いなら
G1で好走しても不思議はないのではないだろうか。
それを裏付けるデータもある。04年以降の
毎日王冠において
上がりがメンバー3位以内かつ33秒台以内で勝った馬は5頭いるが、いずれも
同年の天皇賞・秋かマイルCSで馬券圏内に入っている。
勝ち時計は1分45秒2とそれなりに速かったが、逃げた
サンレイレーザーが②着に粘ったように、開幕週の馬場状態を考えるとペースはさほど厳しいものではなかったのだろう。それだけに、
これだけの決め手を発揮して差し切ったことの価値は高いはず。
レースのラップを見ると、
1600m通過が1分33秒4。良馬場だと1分32秒台で決着することが多い近年の
マイルCSでは一歩足りないかもしれないが、展開や馬場次第では今回の
毎日王冠組が
マイルCSで浮上してもおかしくないだろう。これも覚えておきたい。
ともあれ、
天皇賞・秋には
ジェンティルドンナ、
フェノーメノに加え、3歳馬
イスラボニータも参戦を表明。メンバーは大幅に強化されるが、これら強豪に
エアソミュールの勢いがどこまで通用するか、楽しみな結果となったのは間違いない。