中舘騎手と田辺騎手の姿に心が洗われた
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
「ゴールドシップはよく分からない」と言う人に対して、
「こんなに分かりやすい馬はいないでしょ!」と思っていた……
これまでは。
登山家が山に登る理由を
「そこに山があるからだ」と語るように、
ゴールドシップに尋ねたら、好走する理由をこう答えるもんだと思っていた。
「そこに急坂があるからだ」。
ゴールドシップは古馬になってからは
東京や
京都ではからっきしダメで、その替わり、直線に
急坂のある
阪神や
中山では強さを見せていた。だから、
「平坦コースで消し」・
「急坂コースで買い」という単純な出し入れをするだけでいいと思い、
「ゴールドシップは登山家だ」、
「非常に付き合いやすい馬だ」と考えていたのだ。
そうではなかったのか? 勝手な思い込みだったのか?
ゴールドシップよ、きみは
登山家ではなかったのか!?
今回の
AJCCは1000m通過が
63秒0というひどいスローペースで、それが合わなかったのだろうという論調もあるようだ。しかし、昨年の
宝塚記念は、馬場が悪かったとはいえ、1000m通過
62秒4で圧勝しているし、昨春の
阪神大賞典も1000m通過
63秒2で快勝している。その2レースは少頭数競馬ではあったけれど……単にスローペースを敗因にするのも
違うように思う。
安藤勝己元ジョッキーは、
ゴールドシップのことを自身のTwitter(@andokatsumi)で
「わからねえ馬」と評している。結局のところ、馬にはそういうタイプがいる……と考えるしかないのかもしれない。
ゴールドシップはすっかり
登山家だと思っていたのに、
急坂を登る前に脚色が鈍るだなんて……なんとも
寂しい結末になった。
敗者には明確な敗因がないケースもあるが、勝者には
勝因がある。8度目の挑戦で重賞初制覇を飾った
クリールカイザーは、とにもかくにも、
先手を奪ったことが勝因だろう。
鞍上の
田辺騎手は
「ゴールドシップを負かす方法をずっと考えていた」とレース後にコメントしていて、
先行する意志があったことを明かした。
クリールカイザー自身、過去に逃げての勝利実績があり、
田辺騎手は先手を奪って好走&激走することがよく見られる。逃げ馬不在の今回、このコンビでその脚質は
有利に働くと思っていたが、想像以上の鮮やかさだった。
クリールカイザーは昨秋の
オールカマーで穴ぐさ💨に指名して③着(12番人気)に激走し、その速攻レースインプレッションでは
「緑色のチークピーシズがまぶしく見えた」なんて書いたが、その
チークピーシズは
ブリンカーに替わり、すっかり逞しくなった。
前向きな走りをしながら
スタミナもあるから、差し合戦ばかりをやってきている
切れ馬たちにとっては、今後も
脅威の存在であり続けるだろう。
サンデー系キラーになるかもしれない。
田辺騎手は、中山12Rの終了後に行われた
中舘騎手の引退式で、
中舘騎手のそばでサポート役をしていた。
田辺騎手が第3場をメインにしていた頃、
中舘騎手とはずっとしのぎを削り、競ってきた仲だ。
田辺騎手が
第3場を離れるタイミングを促したのも
中舘騎手だと話していた。
その
中舘騎手の引退式がある日、
メインレースを制したのが
田辺騎手で、その戦法が
先行押し切りだったことは、因縁めいている気がした。引退式で
中舘騎手は、逃げて好走する秘訣を後輩騎手には
「教えていない」というように語っていたが、その技術を見て、会得しているジョッキーはいるのだろう。そんな気がする。
レース直後は、
「ゴールドシップ=登山家」説がもろくも崩れ、悲嘆にくれたが、最終レース終了後に
中舘騎手の引退式で
田辺騎手とのツーショットを見て、いくらか心が洗われた。と同時に、これからは
圧倒的人気馬がいても、
先行馬からも馬券は買っておこうと心に誓いました。