“歴史を作る牝馬”が、その第一歩を踏み出した
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也
冬シーズンの芝重賞でフルゲート頭数が増加したことで、今年から
きさらぎ賞はフルゲート18頭に。そんな人間側の事情(?)は関係なく、9頭立てだった昨年、一昨年に続き、今年も
8頭立ての少頭数となった。
この傾向は最近に限ったことでもなく、
きさらぎ賞は例年頭数が集まりづらい。京都開催の
きさらぎ賞で16頭立てだったのは
1998年のみで、そこで勝った
スペシャルウィークは、ご存じの通り後の
ダービー馬となった。
ただ、
一般的に頭数が多い=強い馬も多く出走しているということで、レベルが高いと見なされがちだが、
きさらぎ賞に限ってそれは当てはまらない。たとえば最近では、8頭立てだった07年の勝ち馬
アサクサキングスは後に
菊花賞を制している。今年も頭数は少ないが、
“注目の一戦”とされたのは、そういった背景もあったのかもしれない。
もちろんそれだけでなく、
メンバーもハイレベルだった。それは、昨年の勝ち馬
トーセンスターダムの半弟で、前走で3馬身差の圧勝を飾った
ネオスターダムが5番人気に甘んじたことからも分かる。
1番人気は牝馬
ルージュバック。
初の重賞挑戦、約3ヵ月の休み明け、関東馬で初の関西圏でのレースという課題を抱えながら、
単勝1.7倍の人気を集めることとなった。
正直なところ、自分の感想は
「よく1番人気になったなあ」だった。それは、2番人気
ポルトドートウィユは4戦すべてメンバー最速の上がりを記録して②①②①着。3番人気
アッシュゴールドはメンバー唯一の芝重賞連対(
デイリー杯2歳S②着)実績馬で、例年なら人気を集めてもおかしくなかったから。
しかし、レース後の感想は現金なもので、
「歴史を作る牝馬というのは、こんな障害なんて問題にしないんだなあ」だった(苦笑)。
ルージュバックは好位の内で折り合いをつけ、直線で前を行く2頭の外へ。後方からさらに外を通って差を詰めた
ポルトドートウィユに一旦は並びかけられたが、残り200mで一気に加速すると後続を置き去りにし、②着
ポルトドートウィユに2馬身差、③着
アッシュゴールドはさらに1馬身離されていた。
結果的にレースは上位人気3頭で決着したが、
内容はルージュバックの独壇場と言って差し支えないものだった。
さきほど
“歴史を作る牝馬”という表現をしたが、この勝利は記録の面ではすでに歴史的なもので、牝馬の
きさらぎ賞制覇は中京ダート1200mでの開催だった61年(第1回)の
スギヒメ、64年(第4回)の
フラミンゴ以来、
51年ぶり3頭目となる。ちなみに、
スギヒメは後に
桜花賞①着、
フラミンゴは
桜花賞②着に好走している。
また、00年以降に京都の牡牝混合3歳重賞を制した牝馬は2頭目で、12年
シンザン記念の
ジェンティルドンナ以来2頭目。00年以降に芝1800m以上の牡牝混合3歳重賞を制したのは07年
ダービーの
ウオッカ以来2頭目となる。この2頭の活躍は改めて言う必要はないだろう。
今回の勝利で、
十分すぎるほどに力は示した。血統を見ても、父はマンハッタンカフェ、母ジンジャーパンチは4~5歳時にアメリカでG1・6勝を挙げた名牝で、まだまだ奥はあるだろう。
となると、気になるのは
ルージュバックの今後。牝馬の春クラシックは
桜花賞だけでなく、
皐月賞という選択肢もある。
大竹師はレース前に
エルフィンSを選択しなかった理由として、
「距離を考えて」と語っていたが、
桜花賞に向かうとなると1600mという距離が課題となる。
それはデータでも裏付けられていて、
マンハッタンカフェ牝馬は芝1600m以下の重賞が[0.3.7.50]で、一度も勝っていない。また、同産駒は
レッドディザイアが
秋華賞を制しているが、
まだクラシックの勝利はない。
一方で
皐月賞を制した牝馬は、1948年の
ヒデヒカリ以来60年以上出ていない。
皐月賞と
桜花賞、どちらの路線を選択するにしても、克服すべき課題はまだまだあるだろう。
ただ、今回見せた力をもってすれば、そんなデータは問題にしないのでは、とも思うし、そうあってほしいと思わせるほど鮮やかな勝利だった。いずれにしても、今後の動向に注目したい。