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突如目を覚ました白い悪童を尻目に充実のラブリーデイが勝利
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/森鷹史


あまりに不気味な静けさだった。

悪童として名高いゴールドシップはパドックで2人引きではあったが、眠ってでもいるかのように大人しく周回。馬場入りの時でもいつものようにうなりを上げることもなく、優等生のように引き込み地点へと駆けて行った。待機所ではまるで後輩馬たちに「こうあるべき」とでも言わんばかりにゆったりと脚ならしを行い、先輩としての威厳を見せつけるように振舞っていた。

そして、再試験明けのゲートも、目隠しをされるとすんなりと中に収まった。あとは他馬のゲートインを待つだけ。この静けさに安心した人もいただろうが、得も言われぬ不安を感じた人もいるだろう。人によっては物足りなささえ感じた人もいるのではないか。

しかし、この白い悪童は突如目を覚ます。すべての馬がゲートの中に揃ったかというタイミングで突如立ち上がる。まるで、ロックスターが観客をあおるかのように。

スターターは着地のタイミングを待っていた。立ち上がった馬はひっくり返らない限りは必ず元の体勢に戻るからだ。そして、前脚が着地した瞬間にゲートを開けた…のだが、人智を越える動きでゴールドシップは再び上体を空中へ持ち上げてしまう。

多くの悲鳴と怒号と、期待どおりのアクシデントが起こったことに対する歓声とともに全馬はスタート。このレースの主役はそこからはるかに遅れてのんびりとスタンド前へと走って行った。まるで、「もう今日の仕事は終わり」とでも言わんばかりの涼しげな顔で。

この日の阪神の芝コースは週末の雨の影響が残ったためか、逃げ切り、先行押し切りの決まり手が続いた。隣の枠の芦毛馬がいなくなったとなれば、川田に迷いはない。すかさず2番手のポジションを奪うと、あとは逃げるレッドデイヴィスをコントロールするかのようなポジションで追走する。

強いプレッシャーをかけなかったこともあり、1000m通過は62秒5という、G1としては滅多にお目にかかれないほどのスローペースをつくり上げた。この時点で芦毛の怪物による偉業絶望的となり、同時にラブリーデイ初タイトルを手にする確率はグッと上がった。

4コーナーを回る際は抜群の手ごたえ。ペースメーカーとして使ったレッドを直線半ばで交わし去ると、ここでほぼ勝負ありの態勢に。しかし、G1タイトルというのはそう簡単に手に入るものではない。最後の試練とばかりに、後方の馬群をさばききったデニムアンドルビーが猛然と加速。その気配を感じた川田も体ごとパートナーの首を押すようにして、懸命にゴールを目指す。同じ勝負服が重なろうかという瞬間…クビ差残ったのはピンク帽ラブリーデイの方だった。

「ペースも遅くて楽にいい位置が取れて、あとはリズムを崩さないように走らせるだけでした。馬場もしっかりとこなせていたので手ごたえよく直線に向くことができました」川田ラブリーデイの充実ぶりもさることながら、やはり川田のスタート直後の機転がこの勝利を呼び寄せたと言えそうだ。

この後は武器でもある自在性と、環境を問わずに力を発揮できる特性を活かして、秋のG1や世界を相手に戦うことになるとのこと。さらなるパワーアップがかなうようならば、日本を代表する馬として活躍してくれるのではないか。

ただ、このレースがラブリーデイの勝った宝塚記念として後年記憶に残るかと言えばやはり疑問だ。「どうしてこういうことをしてしまうのか。彼に聞いてみないとわからない」と、もっともこの馬を理解しているはずの名手・横山典弘にも首をかしげさせてしまうゴールドシップ。真の役者の“名演”は、レースの結果さえも越えるものとなった。