こんなにペースが遅く仕掛けも遅れるとは誰が予想したか
文/編集部(M)、写真/森鷹史
今週末は阪神で
ローズS、中山で
セントライト記念という、
3歳G1のステップレースが行われた。
ローズSは1000m通過
58秒4という速い流れで追い込み決着となったが、
セントライト記念は1000m通過
61秒1というスローペースで前残り。
前日に
ローズSを見たことと、開幕週の
中山芝で先行馬が壊滅的だったことのイメージが残り、
セントライト記念も差し馬が届くんじゃないかと思ってしまったが……
トライアルは、結局、トライアルなんですね。
ベルーフが差を詰めようとするものの届かず、
キタサンブラックが押し切るというのは
スプリングSと同じ(
スプリングSは①着
キタサンブラック、④着
ベルーフだった)。
“セントライト記念はトライアル”という意識をもっと強く持つべきだったと反省した。
レースの流れについては、JRA-VANの
『TARGET frontier JV』というソフトを使うと分かりやすいので、それを使って解説したい。同ソフトでは、レースの
ハロンごとの通過ラップを色分けで表示していて、11秒を切ると
緑色、11秒台だと
赤文字、12秒台だと
青文字、13秒台以上だと黒文字になる。
今年を含めて、2000年以降の
セントライト記念の通過ラップは次のようになっている。
2014年と2002年は
新潟での施行で、それ以外は
中山だが、特徴的なのは
3F目(左から3つ目)だろう。良馬場の時はほとんどが
赤文字、つまり
11秒台であるのに、今年は
12秒2だ。
ハナを奪った
ミュゼエイリアンが1コーナーを回って行ったのはスタートしてから26~27秒後なので、
1コーナーに入る時にはすでにペースが落ちていたことが分かる。そこからもずっと
12秒台のラップが続き、ペースはまったく上がらなかった。
00年以降の良馬場時で、3F目が
12秒台となったのは05年と13年にもあるが、その2年では
右から4つ目、つまり
残り800~600mでのラップが
赤文字(
11秒台)となっている。つまり、入りがゆっくりだった分、早めにペースアップされたわけだ。
ところが今年は右から4つ目も
12秒6で、それまでとペースがまったく変わっていない。00年まで遡っても、残り800~600mが
12秒6なんていうのは珍しく、
道悪馬場だった08年と03年に記録されているだけだ。
当たり前の話だが、昨年以前も
セントライト記念はずっと
菊花賞のトライアルで、それらと比べても
今年はペースが緩く、ギリギリまで誰も仕掛けなかったわけだ。ラグビーのW杯で、
日本が
南アフリカを破ることを想像できた人は相当に少なかったのだろうが、今年の
セントライト記念についても
こんなにペースが遅くなって仕掛けも遅れるとは、予想した人はかなり少なかったんじゃないだろうか。
優勝した
キタサンブラックはペースが遅くて行きたがる面があったようだが、
スプリングSの時と同じようにまんまと押し切ってみせた。大型馬の休み明けで、
12kg増(532kg)という馬体重を見た時は太いのかと思ったが、最後まで脚色は鈍らなかった。
キタサンブラックは
トライアル向きという見方をする向きもあるようだが、それにプラスして
北村宏騎手が
セントライト記念巧者という側面も好影響を与えたんじゃないかと感じた。
北村宏騎手は05年に
キングストレイル、08年に
ダイワワイルドボア、13年に
ユールシンギングで制していて、これで
セントライト記念は4勝目になる。しかも、いずれも3番人気以下での勝利なのだから、恐れ入る。
中山芝2200mの重賞は、他に
AJCCと
オールカマーがあるが、
北村宏騎手は
AJCCでは[0.0.1.7]で、
オールカマーでは[0.1.0.7]と勝ったことがない(他場も含めれば
AJCCでは[0.0.1.8]、
オールカマーでは[0.1.0.8])。それでいて
セントライト記念は[4.0.0.8](新潟時も含めれば[4.0.0.9])なのだから、このレースには
何かがあるのだろう。
キタサンブラックは、次走が
菊花賞ということになれば、母父
サクラバクシンオーで
距離が大丈夫か!?という話が出てくるのだろう。もちろん
どんとこいということはないのだろうけど、今回のレースを見ても分かる通り、前に行ける脚質は
アドバンテージになるのだろう。
ダービーで⑭着に大敗しているので、カギは京都芝の外回りコースで
直線距離が400mほどあることではないだろうか。
上位人気ながら⑤着以下に敗れた
サトノラーゼン、
ブライトエンブレム、
ベルーフの3頭は、あくまでトライアルだったこととスローペースを考えれば悪くないとも言えるのかもしれないが、近年の
菊花賞は
前走③着以内の馬がずっと優勝しているので(04年以降の優勝馬はすべて前走③着以内)、
黄色信号が灯ったことも確かなのではないか。
90年以降の
菊花賞では、前走④着以下で優勝した馬が3頭だけで、01年
マンハッタンカフェ(馬番2番)、02年
ヒシミラクル(馬番2番)、03年
ザッツザプレンティ(馬番8番)と、いずれも
ひと桁の偶数馬番を引き当てていた。今回④着以下に敗れた馬は、
菊花賞制覇に向けては
ハードルがひとつ上がったと見るべきだろう。